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どこの国でも政府後ろ盾の企業向けの与信案件には落とし穴あり!

皆さん、今回は、久々に「過去の教訓案件」から、一つご紹介したい案件を取り上げさせて頂きます。

それは、米国駐在時代に経験したとある案件についてです。

米国現地での国内与信案件、しかも取引先のお相手は、当時の米国政府(オバマ大統領時代)のお墨付きの西海岸での有名プロジェクト向けの案件だったのです。

そして、その取引先の業種が、所謂太陽電池メーカーで、太陽光発電機器で使用されるパネル製造会社だった為、その時代の先端的な雰囲気と追い風のムードが強くありました。

米国政府も基本的に後押しをしており、オバマ大統領も現場への激励訪問もしていた程で、何かと地元でも有名な企業になっておりました。

事実として、資金調達面では米国エネルギー省の融資保証により多額の資金調達を行う等、政府を含む公的機関によるサポートを受け、今後の需要拡大に対応すべく第二工場を建設して事業拡大に向けていけいけドンドンの雰囲気でした。また地元の雇用にも貢献する程の相応の人材を採用する等、地元経済にも一定の影響を与える存在だったのです。

しかしながら、その会社は設立してまだ間もない業歴の浅い会社であり、業績の実績が乏しいこと、何より新規商材を取り扱う会社であり、信用面では決して万全な会社ではなかったのです。

そもそも、私の前職の会社では、その会社に対して、太陽光パネルのアッセンブリー作業上(組立作業)で使用する化学品を納入する売り取引で、与信規模も回収サイトが比較的短かったので、巨額ではなかったものの、それなりの金額でありました。ただ我々与信する側でも、これから伸びていく分野であろうこと、更には上記の通り、米国政府の支援も取り付け可能な企業ではないかという勝手な憶測もあり、立ち上がりの決算での赤字計上はそれ程気にすることなく、信用限度が社内で決裁され、次いで増額申請の動きも出てくる勢いでした。

当時の私のチームメンバーで、ナショナルスタッフのヘッドより、審査の査定後、書類が私の席に回議されてきた際に、彼からは以下のコメントがありました。

「高見さん、確かに今時流に乗っている企業かもしれないけど、こういうパターンは注意が必要だと見ています。思い入れを除き、客観的に見れば、新規取引、新設会社、赤字決算、取扱商材の知見や経験がない業界、という要素から見ても、容易に増額を認めることはリスクが高い。もう少し取引実績を積み重ねてから増額は検討すべきである。」

至極もっともな見解だと、その時私も思いました。

米国人なのに、中々冷静に与信先のことを見ているなと感じました。化学品部隊からは日々増額の要請が出ていたこともあり、きちんと回収実績を見極め、訪問調査も実施してから判断すべきとの考えで様子見の姿勢でおりました。

そんな折、取引開始して暫くして、案の定、売掛金に遅れが発生したとの報告を得ました。所謂売掛金の延滞発生です。

与信管理上、売掛金の延滞発生という事象は、最もナーバスになる事項です。しかもそれが継続的に、繰り返し発生する場合は、資金繰りに支障をきたしていることの証左になります。

何故、米国の政府筋が支援している企業に延滞が発生するのか?それも繰り返し継続して。これはおかしい。やはり会社としての経営がまだ十分に軌道に乗っていない、これはもしかすると。

その予感は的中しました。

結局、計画されていたIPO計画が頓挫、業績推移が計画に対しビハインドしていることが噂され始め、そして遂に当社を含む仕入先に対して支払遅延が発生するに至り、事は結構重大であることが判明したのです。その中で、私自身も審査担当責任者として同社を営業部と共に訪問し、同社の足許の資金繰り状況、業績動向についてヒヤリングを行うと共に、工場内の見学もさせて頂きました。資金繰りの見通しについて核心に触れる部分の説明は一切なく、また同時に当社への延滞債権の返済スケジュールについても曖昧なままはぐらかされ、非常にストレスの残る面談となりました。

更に、工場見学をした際に「稼働率の低さ」に驚き、新品の機械や設備が揃っている中で、人も比較的まばらで正直先行きは危ういことを実感しました。

その後、社内での協議の結果、取引撤退方針が正式に決まり、成約残高に合わせて信用限度を減額改訂し、同時に回収見通しに合わせて期限の見直しも実施しました。

残るポイントは、倒産までに全額回収が為されるかどうかという1点に絞られました。

そして、遂に2011年8月31日に、同社は米連邦破産法Chapter11の適用を申請するに至り、実質倒産に至ったのです。

さて、我々の債権はどうなったかと申しますと、見事逃げ切り、全額回収を果たすことができました。

勿論、裁判所から指摘されるような否認行為に当たるような回収決済サイトの短縮変更は行わず、オリジナルサイトのまま倒産前に全額回収を実現したのでした。

審査マンとしては焦付回避を達成し、これ以上ない嬉しい思い出となりました。

今回の倒産の主たる原因は、当時、中国企業による太陽電池の大量生産の動きが加速され、世界的なレベルで競合激化となり販売価格の暴落が起きていたことがあります。

それを受けて、同社の売上高が計画対比で大きくビハインドし、採算の改善が遅れ、同時に資金繰りに窮していったというのが実態でした。

米国政府は、結局その肝心な時に、資金繰りの支援策を同社に対し実施しなかったということになります。いわば見放した形でした。

斯様に、政府の支援や梃入れが声高に騒がれているプロジェクト・企業こそ、与信管理面では要注意であるということです。

常に冷静沈着に冷めた目で取引先を見る姿勢こそ、与信管理では重要であるというのが、本件の教訓でした。

与信管理コンサル 髙見 広行