オタクの妊娠 エピソードフォー



アイドルオタク、特に「あの事務所」のオタクにとって年に一度のツアーは他のどんな行事よりも重要なイベントだ。「必ず毎年この時期に行います!」と彼らから事前にお知らせがあるわけではないが、基本的には新アルバムを引っ提げ、期間は3、4ヶ月の全国7~9箇所のツアーで、去年が夏~秋なら今年も夏~秋くらい、とだいたいの時期は目星がついている。あなたがオタクと1年のスケジュールをたてる時、相手は「多分この時期はツアーがあるから…」などと"決まっていないはずのツアー"の存在をほのめかすだろう。


これにプラス予想外の外部舞台があったり、関西Jr.をちょっと追いかけていた去年までは春松竹・夏松竹とよばれる2.3月と7.8月に大阪松竹座で開催されるイベント(コンサートか舞台。ちなみに正門は43公演のソロコンをこの枠でやった。)があった。つまりめちゃくちゃ忙しかった。だから、「ウチら妊娠…いつできる!?」と、よく友達と話し合っていたのだが、昨秋にこどもを産みたいと口に出して妊活をはじめてからは、いつどうなるかわからないから、もう次のツアーの参加は諦めよう。とひそかに決めていた。



そして妊活中の3月にAぇのデビューツアー、4月になにわのツアーが発表された。申込期間はAぇが4月中旬、なにわが4月末だった。わたしはとっても悩んだ。申込が始まった時点で、生理が来ていなかったからだ。つまり、妊娠の可能性がある。どうしよう。と。仰々しく「ツアーの参加は諦めよう。」と決めていたはずなのに、この体たらく。オタクは全然だめだった。全然、当たり前に行きたかった。応援し続けてきたAぇのデビューして初めての念願のアリーナツアーも、デビュー前から毎年参加していたなにわのツアーも、どっちも行きたすぎる。普通に無理。



とりあえず、Aぇの東京公演となにわの横浜公演の日程を見た。共に8月。多分、今妊娠していて何事もなければその頃は恐らく妊娠中期になるはず。すぐに「妊娠中期 コンサート」で検索。行った人の「座って休憩しながら楽しみました。」みたいな体験談が出てきたり、「体調がどうなるかわからないのだから行かない方がいいですよ。」と言うアドバイスが出てきたり。ようは自分の体調と主治医と相談しながらで、心配なら行かない方がいい。ということだ。「そりゃそうだ」すぎる。そして色々読み漁った末に強欲なオタクは決めた。…まあ、とりあえず申し込むか。と。(?!)



とりあえず遠征はいくらなんでもさすがに無理だろうと考え、Aぇは東京公演のみ、なにわは横浜公演のみに絞り、ともに「着ブロ指定」というコンサートを座って見られる席希望で申し込みをした。そして当落前に妊娠が正式にわかった。もう後は運だなと思って過ごした。結果、Aぇは見事に当選し、なにわは落選した。当落のその日に「なにわ全滅」と呟くと、遠方が当たったフォロワーから誘ってもらえたが、泣く泣く断る。当落に関しては仕方ない。今年はAぇに会える。それだけで十分すぎる。



そんな当落後、わたわたと妊婦生活を送っているうちに関西Jr.つながりのフォロワーから「🌕️さんなにわ全滅なら、わたしが○○さん(共通のフォロワー)に誘われてる分行きませんか?あっちも了承済みで、横浜です。」と優しすぎる連絡が。彼女には心からの感謝と、まだ初期も初期で伝えることができないのはもどかしいが、「ひとつ懸念点があるので○○ちゃんに相談します!」ということを伝えた。そして件のチケットの持ち主であるその共通のフォロワーには正直に「なにわ横浜のチケットの件本当にありがとう!まだ家族にしか言えていないけど今妊娠していて、このままいけばその頃には妊娠中期になっている予定です。もし不安なら断ってくれて大丈夫です。」と伝える。すぐに「わたしは全然大丈夫だから、体調さえよければ是非。」と言ってもらえた。思わず天を仰いだ。かくしてわたしはとっても優しいフォロワーたちのお陰でなにわにもAぇにも会える夏が来ることが決定した。これは本当にタイミングで、もしツアーが1、2ヶ月遅ければさすがに妊娠後期にさしかかるので、行こうとはしなかったと思う。


結果的に2回誘ってもらえたことになる。加えて、なにわ横浜は制作解放のメールも来た。わたしは今まで制作解放は全て当たっているから、申し込みはしなかったが多分これも当たってた気がする。ということはやっぱりわたしはなにわ男子に呼ばれていたのだということだと思った。多分。


まあこれを読みながら妊婦がそんなところに行こうとするなんて、と呆れるひとも当然いるだろう。オタクの友達には背中を押され、そうじゃない友達には「無理だけはやめて。」と言われた。どちらからも優しさをひしひしと感じた。わたしも勿論、細心の注意を払い、身体と相談しながら無理なく楽しむ予定だし、何かあれば迷わず断念する覚悟はできている。こういうケースもある、と思っていただければ幸いだ。今回のことを通して、優しくしてくれる身近な人たちに改めて感謝した。アイドルがまたひとつ人生を豊かにしてくれた瞬間でもあったと思う。わたしはしっかり感染予防をして体力もつけるぞ。と意気込んで、8月を迎えた。



迎えたのだが、7月最終週くらいからとても、すごく、かなり、寝付きが悪い。滅多にみなかった夢をみるようになったし、中途覚醒する。しかもそのまま眠れない。最悪である。こう眠れない日が続くと、不安で考え込んでパニックになる。わたしは何年か前に親の離婚と現在の配偶者との遠距離恋愛の破局が重なり、一気に環境が変わったことで適応障害っぽくなった(自己判断です。)時期があり、それ以来ごく稀に不安なことがあるとパニック症状っぽいもの(自己判断です。)が起きることがあったのだが、それが急に発症してしまった。夜中眠れなくてドキドキして、どうしたらいいかわからなくなって、いてもたってもいられずに、「とりあえず歩いてくる…。」と配偶者に謎宣言し、この記録的猛暑の2024夏、熱帯夜に家の前をウロウロする妊婦が爆誕してしまった。


余談だがわたしは高校生の時も必ず3時に起きてしまい、眠れないのでそのまま1時間くらい近所を散歩し、母親に「あんた朝方毎日何してるの?何かあっても助けられんからやめて。」と叱られた1週間があった。10年経っても何も変わってないし、むしろ悪化しててウケる。



ちょこちょこ2.3時間睡眠の日があり、不安は更に募った。とりあえずそのひとつを取り除くために、急にひどくなってきた汗疹(妊娠性の湿疹かも?)の治療の為に皮膚科へ行き妊婦でも服用・塗布できる薬をもらい、フォロワーから眠れる音楽を教えてもらって、中途覚醒はしつつも眠れる日が増えてきた。しんどくて5時くらいにルナルナベビー(赤や幼児の情報を教えてくれたり、自分の体重を管理したりする妊婦~お母さん特化アプリ)内の掲示板に書き込んで名も知らぬ妊婦さんたちに「わかるよ~」「そういう時は私は本を読んでるよ」など共感や対処法をもらって、職場で眠れないと愚痴をこぼして先輩ママさんに「私もありましたね~。皆そうだからって言っても辛いのは自分だし苦しいですよね。」と言ってもらえて、それに加えて元々不眠・昼夜逆転気味の配偶者にも「寝れないときはもうどうしようもないよね。」と言われ、いつもの彼の気持ちもわかり、漠然とした不安はほんの少し落ち着いた気がする。



きけば、妊娠中の不眠や寝付きの悪さ、中途覚醒というのは全期間通して付き物らしい。初期はホルモンの関係で寝ても寝ても眠いひともいれば、つわりの気持ち悪さで眠れないひとも。中期に入るとつわりの気持ち悪さは落ち着くが、大きくなってきた子宮によって体のあちこちが痛むこと、増えた血液によって動悸が起きやすいこと(←多分わたしの夜中の急なドキドキはこれ。)で眠れないひとが増える。後期は更に子宮が大きくなるから胃や肺も圧迫し、出産が近いことの不安も出て、だいたいの妊婦さんが経験するとのこと。いや、またこれか。変なシステム。負担が重すぎるし、こんなことは本当に知らなかった。妊婦がしんどいのはつわりと出産がツートップだと思ってた。このシステムの意味不明さが、ついにつわりの軽かったわたしへ実害を及ぼし出したということだ。今までお気楽だった分、これからが急に怖い。けどがんばります。赤、がんばろう。



次回は恐らくコンサートが終わったら書く。
つづく。







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