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太陽は罪な奴

1990年代に入ったある夏、
僕は神奈川県某海岸でライフセーバーをした。

その海岸まで歩いて15分ほどのところに、
伯父の別荘があったのだが、その夏伯父一家が日本を離れていたため、
ひと夏別荘に誰も行かないとメインテナンス上マズいということになり、
当時大学2年だった僕が夏の間、その別荘で暮らすことになったのだ。

昼間できるアルバイトを探していたところ、ライフセーバーの仕事があった。
江ノ島とか由比ヶ浜とかメジャーな海岸は、大学のライフセービング部の部員が
ライフセーバーを務めるのだが、その海岸はいろんな大学のいろんな学生が
集まっていた。その海岸で何年もセーバーをしている人たちが長老として君臨して、新入りには厳しく当たったり陰湿なイジメのようなこともあったりするのだが、
僕は大丈夫だった。

リーダーのA君が僕より一つ上で、小学生の頃毎年夏休み伯父の別荘に
泊まりに来たとき、良く遊んでもらっていて、ついでに言うと、
ライフセーバーのバイトもA君の口利きだった。
「偏差値の高い有名私大に通っていて、見た目もカッコ良くて、泳ぎも得意な
B(僕のこと)がセーバーに加わると、イメージUPして女性受けも良くなるから」
と半分ジョーダン、半分マジで誘われたのだった。
週に一度は休めるし、歩いて15分だし、陽焼けもできるし…断る理由もないので、
私は引き受けた。

ひと夏、真面目に働いた。朝の体操やランニング、夕方海水浴場が閉まってからの
レスキュー・トレーニングなどそれなりにキツかったけど楽しかった。
真っ黒に陽に焼けた。当時はブーメラン型の競泳パンツ。
小さめのサイズを穿くのが主流の時代。僕は当時180cmで73kgぐらいだったが、
支給された競泳パンツのサイズはSだった。
リーダーのA君は180cmで80kgぐらいあったが、SSサイズを穿いていた。
海の男!サマになっていた。

監視台に立っていると、女性たちから思わせぶりな視線を投げかけられたり、
男性からも声をかけられたりした。その辺りの対応は規則で厳しく定められていたし、
何より「海にいる人の安全を守る」精神に反するので勤務中は毅然としていた。
自分の中にそうした真面目さが存在していることは自覚していた。

8月の下旬、一週間ほどある男性が毎日海に現れた。
カッコイイ帽子にシャツ(日によってアロハシャツだったりポロシャツだったり
タンクトップだったり)、そしてハーフパンツにサンダル。
当時僕が憧れていた雑誌『BRUTUS』から抜け出してきたような格好をした
上質なジェントルマンだった。年齢は40歳ぐらいだろうか。
身長、体重は僕もほぼ同じぐらいだが、洗練度は格段に違っていた。

ジェントルはパラソルとデッキチェアとクーラーボックスを抱えていつも現れた。
日本のものではないビールか、ラムかジンをペリエかトニックウォーターで
割ったものを飲みながら、本を読んでいた。
本を閉じ体を焼く時は、黒いビキニで横になっていた。
資生堂ザ・ギンザで見たことのあるイタリア製と思われるビキニだった。
中年に差し掛かる年齢だと思われるが、腹回りは締まり胸筋は盛り上がっていた。

ある日、風が強く、ジェントルのパラソルが飛ばされてしまった。
僕は気づき、パラソルを追いかけ押さえ、ジェントルのところに持って行った。
「ありがとう。この風じゃ、パラソルは危ないな。刺さない方がいいね」
そう言ってジェントルは、御礼にと、クーラーボックスから
クアーズの缶ビールを2本出し渡してくれた。

次の日からジェントルは海で僕に会うと、挨拶をしてくれるようになった。
ある日、海から帰るタイミングが一緒になり、歩きながらお互い自己紹介し合った。
ジェントルは建築家らしい。まとまった休みを取って、この一週間はこの海辺に
滞在しているらしい。ジェントルは次の僕の休みの日を尋ね、よければその日
家に遊びにおいでと誘ってくれた。プールがあるから水着を持っておいでとも。

当日、ジェントルが書いてくれた地図の家を訪ねて、まず驚いた!

何年か前に建てられた大きな家、誰が住んでいるのだろうと伯父が話していた家だ。
話を聞くと、ある経営者の別荘で、ジェントルが設計したものだそうだ。
毎年一週間ほど、ジェントルが借り受け滞在しているそうだ。

到着して、まずプールで泳ごうということになった。
ジェントルは、あのイタリア製黒ビキニで優雅に泳ぐ。泳ぎ方にも品がある。
僕は…。ライフセーバー用の赤い競泳パンツをいつものように持って来たけれど、
勤務中以外でそれ一丁はちょっと恥ずかしいので上にトランクスを穿いた。

その格好でブールに入ろうとしたところ、
「おい、おい、ライフセーバーが何恥ずかしがってる。いつものブーメランで泳げよ」
とジェントルに言われ、そうだよなと思い、トランクスを脱ぎプールに飛び込んだ。

キモチいい! こんなプライベートのプールをゆったり泳ぐのは生まれて初めてだ。
ひとしきり泳ぎ、プールサイドに上がると、ジェントルが何かドリンクを作って
持って来てくれた。モヒートというホワイトラムをトニックウォーターで割って
ミントを加えたものだそうだ。ラジカセからレゲエが流れていた。
キモチいい…。昼下がりのアルコールが効いて、いつの間にか僕はデッキチェアで
寝入ってしまった…。

30分もしないで目覚めたと思う。音楽はジャズに変わっていた。
「お、起きたな。まだ若いからいいかも知れないが、焼くときはオイル塗った方が
いいぞ。もう数年前から女性の化粧品会社の夏のキャンペーンは、“焼かない夏”
になったぐらいだし」
そう言ってジェントルは、僕にオイルを差し出した。僕は受け取り、それを体に塗った。
「背中、塗ってやるよ。横になりな」と言われ、僕は横になった。
ジェントルは背中上部から僕にオイルを塗りながら軽くマッサージもしてくれた。
「いいカラダしてるよね。スポーツは何をやっていた?」
「中高とバレーボール、大学に入ってからはたまに泳ぐぐらいです」
「カラダ、定期的に動かしていた方がいいぞ。
特に今は食生活が変わって来ているから、トシとると途端にカラダが崩れてくる」
ジェントルはスポーツクラブに定期的に通い、マシンやスイミングで鍛えているそうだ。
エグザスやティップネスがようやく産声を上げまだ利用料も高かった時代、
ジェントルは僕が『POPEYE』や『BRUTUS』で読み憧れたライフスタイルを
体現している人のように思えた。カッコ良かった。

???
ジェントルの手の動きがおかしくなってきた。
背中からふくらはぎまでひと通りオイルを塗り、マッサージをしてくれて
キモチいいと感じていたが、今は内股を股間に向かって手を動かしている。そして…。
尻を揉み出した。明らかにマッサージとは異なる手の動きに違和感を覚え、
「や・め・て・く…」口にしたけれど言葉にならなかった。

ジェントルは競パンの上から尻の割れ目を上下に撫で始め、
僕はカラダに電流が走った。やがて股の間から性器を指で責めて来て…。
先走りが競泳パンツに染みを作った。やがて亀頭がパンツから顔を出した。

どうして拒まなかったんだろう? 
雑誌等で憧れたライフスタイルを体現していた人だったから…?
或いは、こうなることを、どこかで期待していた…?
こうされることは、憧れの一部だったのかも…?

僕はしばらく競泳パンツのままジェントルに弄ばれ、指だけでまずイカされてしまった。
そして競泳パンツを脱がされ、今度は舌で責められまたすぐにイカされてしまった。

ジェントルと僕以外、誰も知らない、海辺の出来事。
夏の終わりの太陽だけが、二人の戯れの一部始終を凝視していた。


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