唱歌の架け橋(第17回)
今日も、作曲家の海沼實が関わった歌を紹介しよう。
1946年、終戦から1年が経った8月下旬に、大ヒットした『みかんの花咲く丘』である。
この頃は、12才の川田正子(かわだ・まさこ)という女の子が童謡歌手としてデビューしていた。
戦後復興もまだまだというときに、NHKのラジオ放送が国民向けに歌を流しており(=当時はテレビ放送がまだなかった時代である)、NHKから依頼を受けた海沼實は、川田正子に自らがメロディーを付けた歌を急ごしらえで教えたのである。
ちなみに、作詞の依頼も急だった。
この歌の場合は、斎藤信夫ではなく、加藤省吾(かとう・しょうご)に海沼自らが依頼したのだが、時間がない中での依頼だったので、加藤は30分で作詞したという。
また、作詞が完成したのを受けてメロディーを付けた海沼自身も、30分で曲を完成させたという。
そんな歌が、戦後最大のヒットとなった童謡なのだから、すごいことである。
【1番】
みかんの花が 咲いている
思い出の道 丘の道
はるかに見える 青い海
お船がとおく 霞んでる
【2番】
黒い煙を はきながら
お船はどこへ 行くのでしょう
波に揺られて 島のかげ
汽笛がぼうと なりました
【3番】
いつか来た丘 母さんと
一緒に眺めた あの島よ
今日もひとりで 見ていると
やさしい母さん 思われる
以上である。
メロディーを知らない人は、ユーチューブでも聴けるが、『里の秋』同様に海沼らしい、流れるようなメロディーである。
今でも、鉄道の駅の発車メロディーに使われているので、夏休みの旅行などで当該駅に降り立ったときは、ぜひ聴いてみると良いだろう。
2年前の2022年5月2日から、神奈川県小田原市のJR国府津駅では、発車メロディーに『みかんの花咲く丘』が採用された。
これは、海沼が静岡県伊東市に向かう電車の中で、車窓から国府津駅付近のみかん畑が見えて、これがきっかけで『みかんの花咲く丘』が誕生したということからきている。
他の駅では、伊東駅と宇佐美駅でも、発車メロディーに使われている。
伊東線や伊豆急行にお乗りの際は、ぜひ聴いてみると良いだろう。
最後に、曲名と同じ「みかんの花咲く丘」というチーズタルトが、伊東市の石舟庵というお店で売られている。
オンラインストアもやっていて、箱入りでも売られている。
夏休みのお土産に、ご自身へのご褒美にどうぞ。