あなたが吹けないのは下手だからではない!
「今週の合奏でもうまくできなかった」
「まわりに迷惑ばかりかけている」
週に一度の合奏練習が終わったあとに、こんな風に落ち込んでいませんか? そしてその理由を「私は下手だから」と決めつけていませんか?
じつはそれは大きな勘違いです。下手であることが吹けない原因ではありません。あなたがまだ、
「演奏に直結する楽譜の読み方を知らない」
「練習の手順を知らない」
「自分にぴったりな練習の方法を知らない」
だけなんです。
簡単に「下手だからできない」と考えてしまうと、自分で上達のチャンスを自分で奪うことになります。
でも大丈夫。3つのポイントをおさえて練習すれば誰でも必ず吹けるようになります。
まず、楽譜を読み込んで、その曲が「どんな音楽なのか」「どんな表現なのか」を知りましょう。そこから「自分は何を感じてどう演奏したいのか」をじっくりと考えながら音を出し始めます。これはアマチュアにとってもプロと変わらずに大切な作業です。
ここを無視してドレミだけを追ってしまうと、濃淡のないのっぺりした演奏になります。どんなに正しく吹いてもアインザッツや音程が合わないのはこの「棒吹き」が原因のひとつです。演奏にメリハリがなければ聴いている方の心に何も届かない退屈なコンサートになります。
楽譜を読み込まないと動きの速いパッセージの仕上がりも悪くなります。速度アップが思い通り進まずに指定テンポまで技術を磨けない理由の一つは、音楽の表現を考えずに指だけ素早く動かそうとする練習にあります。
演奏の技術は、音楽をとおして何かを表現するためのものです。この目的のないところでテクニックだけ磨こうとしても、いい演奏につながるような手応えは得られないでしょう。
次に、練習の手順を無視したり飛ばしたりせずに丁寧に進めていきましょう。いまの自分の実力を正直にみつめ、作品を表現するためにどんな技術が必要かを見極めます。
まだ技術があやふやなところ、いわゆる「吹けないところ」について、楽器と体、心の使い方を探す時間をとりましょう。ゆっくりなテンポでやるのがコツです。「こうやればうまくいくんだ!」という吹きかたが絶対に見つかります。それを時間をかけてじっくりと自分に教え続けてください。
復習するイメージをもつと上手に自分に吹きかた、すなわちテクニックを教えられます。まずはとてもゆっく吹き、前回までの練習でやったことを思い出しましょう。そして少しテンポを速くしたり、吹く小節をだんだんつなげて多くしたりするなど演奏の負荷を高めていきます。
体のこわばりや恐怖、技術への疑問が頭に浮かばなくなったらその「吹き方」が身についた証拠です。テンポアップが必要なパッセージは、この状態にたどり着いてから速度を上げて反復練習をします。これがテクニックを自分のものにして成功の確率を上げる練習の手順です。
よくある失敗は、吹きかたを見つけないまま「吹きづらい状態」「何をどうしたらいいかわかっていない状態」で反復練習をしてしまうパターンです。
それでは私たちの脳は「うまくいくかな?」「これでいいかな?」という不安を演奏とセットで記憶してしまい、合奏する際の恐怖やステージに上がったときのあがりとパニックにつながります。
体にも負担がかかり痛みをともなう場合もあります。これでは正確な技術で音楽を表現することが叶わなくなります。
技術がワンパターンなるという落とし穴もあります。例えば「132BPM」で指定されたパッセージがあるとします。手順を無視した練習を続けると、コントロールが効かなくなり、このテンポでしか吹けなくなってしまうのです。
実際の演奏会では練習よりも遅くなったり速くなったりすることはよくあります。それに対応できないのは、せっかく練習したのにもったいないですよね。
丁寧にプロセスをたどって練習すると、質のよいテクニックだけでなく、自信と度胸も育まれます。コンサートで想定外のハプニングが起こっても迷うことなく演奏できて、楽しめるようになります。
自分だけの生活のパターンや習慣を活用して練習をどんどん進めましょう。私たちはいつだってタフな人生とがっぷり四つを組みながら毎日を過ごしています。中学生や高校生の頃のように1日に何時間も練習できません。メンバーそれぞれで楽器を吹ける環境も違います。
電車で通勤する間にスマホで楽譜を読むのはいかがでしょうか。お風呂が好きならソロなどの大切なメロディーを湯船にゆっくり浸かりながら暗譜してしまうのがおすすめです。幼稚園バスの停留所に覚えたいリズムを唱えながら歩いていくのも立派な練習です。職場の昼休みにエアギターのように自分の楽器の「エア練習」も効果があります。
最大のコツは、食後の5分だけ、昼休みに1小節だけなど日々の練習のハードルをバカバカしいほどに低く設定することです。「え? これだけ?」が大きな成長をもたらします。暮らしの中に大好きな音楽を練り込んでしまいましょう。練習は自分の生活に合う方法でやればやるほどうまくいきます。
どの方法も楽器は不要です。むしろ楽器を使わないほうが「吹きかた」のイメージをより強力につくることができます。
音楽や技術についてイメトレをしておくことで、貴重な音出しの時間をより有効に使うことができ、週に一度しか楽器を吹くことのできない合奏でどんどん吹けるようになります。これは私たちの脳の仕組みによるものです。活用しない手はありません。
逆に言うと、イメージをもたずに何時間も楽器を吹いても練習の効果はあまり上がりません。
じつは私こそ、かつて週末のリハーサルのたびに落ち込んでいたアマチュアでした。練習したいのに音が出せる場所も時間もなく気持ちばかりが焦ってずいぶんと苦しい思いをしました。
ひとはどういう過程を通してスラスラ演奏できるようになるのだろう? テンポを速めるタイミングはいつなのだろう? コンサートで勇気をもって自由に曲を奏でるには何が必要なんだろう?
35歳で留学したユトレヒト音楽院では、クラリネットや室内楽の実技レッスンの他にからだや脳のしくみを学ぶクラスを受講し「練習とは何か」に向き合い続けました。
そして、「演奏に直結する楽譜の読み方」「練習の手順」「自分にぴったりな練習の方法」の3つがあれば、毎日のように楽器を演奏できなくても上達が進むことがわかりました。
練習がうまくいかずに落ち込んだときは「わたしは下手だからだめだ」と自分を否定せず、このブログで解説した3つのことを思い出してみてください。音楽が好きなあなた自身のためにできることが必ず見つかります。
「楽器を吹くのが好き!」という気持ちを大切にしながら練習を楽しんでください。