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島からの小型船

久しぶりの晴れ。
最高気温が30度を超える日だから、外出はしたくないけど、「明日の集まり」のためにスーパーに買い物にいく。



「明日の集まり」というのは島に越してきた私と夫の結婚1周年を祝ってくれるという名目で、島で仲良くなった友人で集まるささやかな飲み会のこと。
私たちが主役なのだから、準備のことは気にせず!と言われたが、何もしないというのは私の性格上できない。
せっかく集まるなら何か作ろうと、夏野菜をたくさん使った料理を作っていくつもりだ。

島内にも小さなスーパーはあるけど、島価格で値段が高い。なので、週1回は船で買い物に行っている。

島と本土を繋ぐ船は、いつも車が何十台乗るような大きな船のことが多い。
けれど昼過ぎと深夜の便は、乗る人が少ないのか小型船だ。



お昼ごはんを食べて、いそいそと出掛ける準備をする。そして、いつものように船に向かった。

出発5分前に船に着く。いつもギリギリ。もはや電車と同じ感覚になっている。
回数券を渡して、小型船に乗り込んだ。

うぁ、人多い。

船の屋外スペースには10名くらいが座れる席がある。今日は満員。スーツケースを持った外国人が「楽しかった〜」という雰囲気で座っている。

座りたい!と思い、船内に入る。
3人席と2人席がずらっと並んでいるが、ほぼ全席に座っている状態。
2名席で空いている席もあるが、最後に船に乗って来たやつが、堂々と座れる雰囲気がない。そして、座る勇気がない。

ほんの10分くらいだし、外で立ってよう。

揺れることを想定して、手すりのある船の左側に寄りながら、海面と船の境目を覗く。
いつもは大きな船だから、こんなに近くで見られないから新鮮だ。

船が動き出す。
動き出してすぐは、ゆっくりと。
徐々にエンジンの音が大きくなり、スピードが速くなる。

スピードが速くなるにつれて、海面と船の境目にじわっと波が立ってくる。瀬戸内海は波が少ないので、船によって作られてるのがよく見える。

波は炭酸のようにシュワシュワっと。

あぁ…三ツ谷サイダーが飲みたくなる。


その後しばらくは、ぼーっとその光景を見つめた。あと4分くらいで到着しそうなとき、雲に隠れていた太陽が顔を出した。

日の光に当たった波は、滑らかで、少し粘り気が出てきたときの生クリームみたい。

ふと、エンジン音が大きい船の後方を見てみる。

船が水を吐き出すように、波が高くなっている。これも小型船ならではだけど、船が作った波が魚の尾びれのような形をしていた。

大きな魚みたい!魚が海を泳いでいる時はこんな速さなのかな?なんて。


船に乗ったばかりのときは、観光客たちは友人との会話に夢中になったり、景色の写真を撮ったりしている。

でもしばらく乗っているとみんな、海をじっと見つめる。

小型船からの光景をみながら、いい旅だったな…とか考えているのかな。

島旅行のドキドキとした非日常感をグッと噛み締めるのかもしれない。


私にとっては日常。いつもの買い物。

私は、非日常の中で生活をしていると実感できるのは船に乗ったとき。

偉いわけでも、すごい人格者でも、稼いでいるわけでもない。

でも船に乗った時だけは、よくわかんない優越感に浸れる。

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