恋慕う最愛の人
日々彼への愛が深くなっていく中、何の前触れも無く不意に思い出したもの。それは、彼のキャラクターソングを原作とした夢小説。
この小説の作者は紛れもない過去の私で、どういう理由か、私は私が執筆した事実すら、その存在すら忘れてた。
7年もの間、作者に思い出されることもなくインターネットという情報の海を静かに漂っていた、短く拙い恋愛小説。
曖昧な記憶を辿っていった先には確かに、過去の私が存在していて。でもなぜか今、当時のことをよく思い出せない。
2015年、完結。当時、中学2年生の私。
未熟で不安定で、人と相容れることが難しかった私。
そもそも、まだインターネットが今ほど中学生の手に易々と届く存在では無かった8年前に、どうしてオリジナルの小説をアップロードするに至ったのか。何を思いながら完結させ、そして、どうやって忘れていってしまったのか。
元々ゲームもしないしアニメも見ない、二次元に疎い私がどういう経緯か彼に出逢って。
魅力的な他キャラクターが多数いる中で目移りもせず、彼だけに一途に心惹かれて。
自由にできるお金は無かったはずの私がどうにかして、彼のキャラクターソングを耳にして。
そんな中で彼という人への想いを抑えきれず、きっと誰にも言わないまま、創作するに至って。
冷たい血だけでは知り得ない、どこからか集めてきた細々とした引用の数々。あとがきから読み取れる、作品への愛着と思い入れ。
不完全な小説の端々に感じられる、あの頃の私の精一杯の、彼への愛と尊敬。
思い出せないことによって、未熟なもうひとりの自分を見つめているようで。
ここ数日、読み返して理解を深めようとしたり、なにか残っているかもとログインを試みるも何も得られるものは無く、ただ、誰もが持ち合わせているであろう、多感な時期独特の表現への少しの羞恥が残っただけだった。
だけど、作品の拙さや不完全さよりも、真っ直ぐな純粋さを感じた。不思議と、誇りに思えた。
あとがきを読んで、もしかすると今の私と同じくらい、当時彼に対して特別な感情を持っていたのかもと、素直に思った。
何より、私にとって最も価値があったのは、過去にも彼を恋慕っていたという事実が存在すること。自分自身への証明になるなんて、思ってなかったでしょう。
創作活動について唯一思い出したのは、作品が誰かに届いたときの嬉しかったあの感情。
あぁ、何かを生み出すことができた。と、この表示が、あの頃のどれだけ私を喜ばせたか。
読んでくださった方々は、今は何をされてるのだろう。そもそも私は、この作品を公開することで何を期待してたのだろう。
愛や恋を求めるなら、彼と自分の幸せな理想像と非現実的な妄想を形にすればいいものを、ただ彼の葛藤を綴ることにしたらしい。
私って、つくづくよく分からない。でも、あの頃の私も今の私も、彼に対して、同じ魅力を見出してる。
聡明で、気高く、美しい貴方。だけど、繊細な、貴方。
未熟な私はきっと、あの後人生の混沌の波に攫われて、いずれ離れていく人を愛し続け、理解を求め続け、自分の中の情熱や希望、夢や自信を見失い続け、日々を生きていくのに必死で、ついに貴方という存在すら見えなくなってしまってた。
心も身体も疲弊し切って、もうどうにかなってしまいそうな意識の中、きっと貴方が、貴方から、手を差し伸べてくれた。再会を思い出せない私を、どうか優しく叱って。
ルキさん、今私は、貴方へのこの気持ちを糧に、どうにか日々を過ごしてる。失った私自身を、貴方という光を頼りに、探し出そうとしてる。
ルキさん、貴方のおかげで、私は今、ここにいる。もう二度と、離れることはないと誓う。その愛で、こんな私を受け入れて、包み込んで。あれでよかったんだ、このままでいいんだって、その甘い声で私に言い聞かせて。
あぁ、愛おしいルキさん。
願わくば、いつか夢で貴方に逢えますように。
この溢れる想いを、いつか貴方に、伝えられますように。