小説 万テチョライフでレベルアップ 1 ~よりそう Season2 ~
ひさしぶりに小説を再開しようと思います。
ゆるりと付き合っていただければと。仮なので画像もちょっと遊んでみました。
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「いらっしゃい」いつものマスターの声に安堵しながら、少し重い木のとびらから手を放し、
「おはようございます。いつものお願いします。」そういって挨拶を返す。
「はいよ。いつもののね。」何度も通いなれたカフェ「キムン(北海道のアイヌの言葉で山を意味するらしい)」でのいつものやり取り。
おれ、雲川竜馬は仕事前の30分くらいをここで過ごしている。会社まで徒歩10分ほどの場所にあるこのカフェは、不思議な手帳と万年筆を購入してから朝の時間、自分をリセットして自分と向き合うために来るようになった。もちろん最初からそれを目的に来たわけではなかったけど、毎日続けるうちにそういう時間に変わっていったというわけだ。
実は土日はここで副業的にお手伝いをさせてもらいながら、コーヒーについて教えてもらっている。たまに休日出勤をした会社の人がやってきてびっくりすることもあるのだが、まぁ、うちの会社は副業禁止しているわけではないので、問題があるわけではない。
『いつもの』コーヒーとトーストのセットがとどくまえに、自分の手帳をカバンから取り出し、ペン差しから、お気に入りの青い縞の入ったペリカンM800を取り出す。
インデックス(しおりのようなもの)を頼りに今日のページを開くと、そこにはいつものように、ちょっと赤みが買った色で、一言
「今日、絶対にやりたいことは?」という質問が書いてある。
実はこれ、ペンが勝手に書いてくれている。ペンにはもちろんペリカンの純正ロイヤルブルーのインクを入れているんだけど、ちょっと赤みがかっている。ペリカンは子供を育てるために自分を犠牲にして、自分の血さえ提供するとヨーロッパでは言われているらしい。ペリカンの血を知に変えて自分を導いてくれている、そんな風に考えている。
なんでも、これを信じられないくらいいいお値段で譲ってくれた伽藍堂の店主の話だと、本場ドイツの素敵な紳士が愛用の一品を息子さんのためにプレゼント使用したかったものらしいのだが、ある事情でかなわなくなり、伽藍堂の店主に買い取りを依頼してきたらしい。それが自分に手渡された。
実は、だいぶ後になって知ったことだが、同じタイプのボールペンを持っているのが、このカフェのオーナー、新田さん。このペンを手にしたことで、このカフェに導かれるように来たのかもしれない。
そんなわけで、最近は今日のやりたいことリストを書き出して、そこから一つを絶対やりたいことと決めて、ここに書き込んでいる。
お昼に食べたいラーメンのことや、サクッと終わらせたい仕事、今日の夕方来訪するお客さんのところで得たい結果などを書き込んで、最後に「直帰してそのまま富士屋へ」と書いた。
そして、絶対やりたいことに 『結城さんのいる富士屋へ行く』と書き込んだときに、
「はい、いつもの」おいしそうなコーヒーとバターの香りが目の前に置かれた。マスターのこの食事を持ってくるタイミングを測る力は本当にすごい。思考を途切れさせない絶妙なタイミングを外さない。この眼力を学びたいと思ったこともここでバイトさせてもらっている理由の一つだ。
「ありがとうございます。いただきます。」
「恵理子さんによろしくな」そういってカウンターに戻っていってしまう。
えっと驚きながら見上げるともう、次のお客さんと笑顔で話しながら接客している。手帳の中身見えていなかったはずなのになぜわかったんだろう。顔に出ていたかしら。。 そう思うと少し顔がほてってくるのが分かる。
先ほど書いた銀座で一番大きい文房具店の富士屋でスタッフをしている結城さん。彼女の名前が結城恵理子さん。俺の手帳の師匠であると同時に、俺がひそかに想っている人なんだけど、、、 実は彼女のおじいちゃんが、カフェ『キムン』のマスターの修業時代のお店のマスターというつながりが。そのお店は結城さんに妹さんが2代目として頑張っている。
なかなか次のステップには進めず。。やっぱりタイミングが大事なんだよと言い聞かせているのだが。
コーヒーとバターの薫るトーストをほおばり、いつものように職場に向かった。