あめふりやまぬ 〜好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集〜
『あめふりやまぬ』
大粒の雨を降らせていた秋の空は、ようやくその手を緩め始めた。
通り雨くらいだろうと思っていたのだが、予想が甘かったらしい。これならもう少し室内にいた方がよかった。靴の中で濡れているソックスを足の指で少し弄った。
「ごめん、ケイスケくん。お待たせー」
「ううん、さっきついたとこだから」
「……ウソつきぃ、裾とか濡れてるもん」
あっさりとバレてしまった。
「バレちゃあ、しかたあるめえ」
「何それ。時代劇のつもり?」
「まぁ、そんなもんだよ」
ウソだ。ただの照れ隠しだ。
「……ごめんね」
「いいのいいの。気にしたらダメ。……とりあえず行こう、明るくなってきたし」
「え? まだ全然止む感じじゃないけど」
「……あー、そっかぁ。ユリちゃんが来てくれたからか」
無言。
無音。
雨が止んだ気がした。
正確には、時間が止まった気がした。
「……ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない」
「ですよねー……」
回りくどすぎたか。
君がいるから世界は明るい、的な言い回しを意識したんだけどなぁ。
ちょっと、彼女の方を見ることはできない。
「行こっか」
「うん」
小雨とはいえ、濡れると一気に身体を冷やす。
傘を開きながらいうと、彼女は僕の手を包み込むように傘を支えた。
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あとがき
今回も自作の小説集、「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」からのご紹介です。
かっこつけたけど、やっぱりスベったお話。
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