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【小説】『純潔守って死ねるかよ・急』(後書き・解説有り)※R-15【短編】
前書き
短編です。
ラブコメです。
タイトルはアレですが、エロはありません。
ただし直接的な表現を入れているので、R-15 くらいかもしれません。
こちら、3部構成のラスト、「序破急」の『急』です。
また、最後には後書きと解説がありますので、よろしければそちらもぜひ。
なお、『序』・『破』を未読の方は必ずそちらからお願いします。
序
破
登場人物について
・一生《いっせい》:主人公、大学院生(博士課程)
・姫星愛《きらら》:(たぶん)ヒロイン、JK
急: きっとそれは陽の光のせい
一度地下に潜り、そこから地下街、地下通路を経由しながら、かれこれ徒歩7分ほどで姫星愛のオススメ店は見つかった。駅前というにはちょっとだけ立地条件は悪い上、イイ感じに隠れていて、その雑誌とやらで見ていない限りはスルーしてしまう可能性すらあった。
「そもそも、一生には感謝してほしいのよ、アタシは」
「ヒトを箸で指すな」
「細かっ。保護者かっ。そんなんだからモテないんだよ~?」
いつも通りのウザ絡み。飲み物で不平不満ごと胃に落とし込む。
「たまには一生に店選びしてほしいのよ。そういう甲斐性を持って欲しいのよ、アタシは。……あ、もちろん女の子が喜びそうなところじゃなきゃアウトね。逮捕拉致監禁モノだから」
「それさ、もしかして懲役刑とか禁固刑って言いたいのか?」
「……そうとも言う」
そうとしか言わねえ。
「あ、もちろん安っぽいところはダメだから。そりゃね、おもてなしなんだからさ、それ相応の配慮がないとか、もうマジあり得ないから。……ってか? まぁ、ね。こんなにカワイイ娘とゴハンする権利が無償で与えられてるって、マジでスゴいことだかンね。一生、その辺とか理解できてる?」
姫星愛は俺のツッコミなど意に介することなく好き勝手話し始めている。まさにマシンガントーク。ぶっ壊れたシャワーかスプリンクラーのように言葉が降りかかってくる。
聞き役に徹しようとしているとか、そういうわけではない。勝手に話を始めたらもうちょっとやそっとじゃ止まらないのだ。こうしてそこそこ会話を交わすようになって知ることだったが、とても死にたがっていたようには思えなかった。
「ちょー? おーい、一生~。分かってる? ってか聞いてる?」
「……聞いてない」
「知ってるー」
あはは、と姫星愛は笑う。全くもってゴキゲンである。酒など飲ませていないはずなのだが。というか、そもそも公的に飲んで良い年齢でもないはずなのだ。そこら辺、オトナとして守らせているつもりだ。
「……飲んでないよな、お前」
「飲んでるわけ無いじゃん。これでも一応弁えてるんだから。一生がアタシに飲ませて襲ってこない限りは飲まないっての」
「何を弁えてるっていうんだか。……じゃあ少なくともお前は、俺の目の前で酒をかっ喰らうことは無いな」
「は? 何でよ」
「いやいや」
「いやいやいや」
意味の無い応酬。姫星愛は当然ご立腹。
「……甲斐性無し」
「そういう問題じゃねえんだ、っつの」
これでも一応ヒトのココロとかいうモノを持っている自負がある。ヤり終わったら死ぬって言い続けてるヤツを抱けるか、って話だろうが。下手なセフレより数千倍質が悪いのだ、コイツは。
〇
結局姫星愛は店を出る最後の最後まで、店の雰囲気には不釣り合いなくらいのマシンガントークを炸裂させていた。
それでも一応声量だけには気を遣ってくれたようだったので、数少ない他の客の迷惑には然程なっていないとは思うが、実際どうだろう。ああいう場所は人の声が意外と耳に刺さって来やすい。出禁にはなりたくないモノだった。
「さてとー。このあとどーしますー?」
「お前はとくに予定はないの?」
「無いよ?」
あ、そう。
「強いて言うならぁ……、そうねー……」
「ホテルは行かねえぞ」
「チッ……」
「舌打ちをするな、舌打ちを」
科を作っていたと思いきや、一気に手の平返しである。見た目的にはそこまでそぐわない行為ではないのだが、もう少しお淑やかさを持って欲しい。
――とかいうと、「何それ。ジジクサイよねえ、一生って」などと言い放ちながら「プププー」などと確実にわざとらしく笑われるので、それだけは言わないように心がけている。
あれは結構ハートに突き刺さってくる上に、ずっしりと遺るのだ。
ああ、そうだよ。体験談だよ。悪いか。
「これくらいの時間だと、見て回るにしてもわりとどこも店仕舞いしつつあるからなぁ」
「お、珍しい。一応考えてくれてる」
「当たり前だろ」
「へえ、侠気ぃ。イイじゃんイイじゃん。そういうとこよ、そういうとこ」
何故コイツにそんな査定をされなきゃならんのだ。そう思わないわけではない。
だけど、それ以上に、コイツをこの夜の街の中に放ってやることなんて、思うはずが無かった。
当たり前だ。ろくにメッセに反応も寄越さないヤツが、わざわざ会いたがるようなことを残すくらいだ。さっきの店でしこたましゃべりまくって少しくらいは気分も紛れたかもしれないが、それでも自分の目の届かないところに放り出すなんてことはしてはいけない。
以前言っていた台詞が甦ってくる。
――『死ぬなら宵闇に溶けるみたいにして死にたい』
今は夜も更けつつある時間帯。落語の演目ではないが、まさに『死ぬなら今』みたいな話だ。
消えられてしまっては、困るのだ。
「……ゲーセンか何かでも行くか?」
「え」
「『え』って何だよ」
軽くヒいたわ、みたいな顔をされた。ジジクサイと言われるよりはマシだが、ちょっと傷ついた気がする。
「いやぁ……、何か『ガラじゃねえな』って」
「ホント、お前はマジで失礼なヤツだな。割と音ゲーとかはやる方だぞ」
「リズム感なさそうなのに」
「こンのやろう……」
実際にダンスとかするタイプだけが音ゲーじゃねえよ。――実際アレは、あんまり得意じゃないけど。
「ほら、行くぞ」
「へーい」
ゴネたりするかと思いきや、案外大人しく俺の横に立った。
「……高校生とか、ああいうところ行くんじゃないのか? カラオケとかも入ってるけど」
「知らんし」
「そ」
失言だったかもしれない。失敗。
〇
「楽しかったー!」
「……そうか」
そこまで年の差は無いと思っていたはずなのに、ここまで体力的な差を見せつけられると、若いときの年の差はデカいと思わざるを得なかった。
最初の間、音ゲーとかそこまで体力を使わないタイプの遊びをしていたまでは良かった。飽きてきたと言って来た姫星愛に合わせて、ビリヤードだのダーツだのを経由して、喉が渇いたというのでカラオケに行ったのが運の尽き。
交互に歌っていたところ、何かがお気に召したのか連続で歌わされてから、明らかに狂った。休む時間が与えられないまま、とうとう一旦閉店となるタイミングまで歌わされてしまった。
「アッハハ! 一生の声、マジでヤバいね」
薄らと白くなってきた東の空に、姫星愛の笑い声が溶けていく。その声がだんだんと夜空を朝焼けに染め直しているようにも見えた。
「誰のせいだよ……」
「えー? 一生の歌い方のせいじゃないの?」
「……ぅぐ」
おっしゃるとおりです、ちくしょうめ。
俺はカラオケでの歌い方が悪いらしく、確実に速攻で喉を痛める。100%だ。嗄れ声にならなかったことなど一度として無い。
「お前は元気だな……」
「楽しかったからね」
「……そりゃあ良かったよ」
楽しめたのなら本望だ。たとえカラオケでこの口蓋垂が吹き飛んだとしてもだ。
「うん。……楽しかったよ。ホントに」
「……」
さっきまでのテンションは何処へやら。静かに微笑む姿はあまりにも大人びて見えて、不覚にも心臓が高く跳ねる。
ただ、その大人びた姿が本当にその年端で身につけておくべきモノなのか、という疑問は突いて出てくる。
時折そんな顔を見せる原因を知りたい気持ちはある。
踏み込んでやる必要があるのかと尻込みする部分もある。
実は未だに彼女への接し方は探り探りの範疇を出ないのだ。
「なあ、姫星愛」
「……なに?」
一応、夜は明けた。朝を目指して駆け抜けてきたと言っても良いのかもしれない。
だから、この夜を駆け抜けてきた疲労感に任せて、そのまま姫星愛の手を離してしまうのはやっぱり怖かった。
自分のカバンの中を探る。
「呼んだだけとかは無しだかンね」
「分かってる。ちょっと待て」
「……っとに、締まらないね。カバンの整理くらいしなさいよ」
「分かってるっつの」
逐次痛いところを突いてくる。デキたヤツだよ、全く。
「……あった」
「何?」
怪訝な顔をする姫星愛の手を握り、開かせ、その手に握らせたのは俺の部屋の鍵。
「いつでも来てくれて良いからな」
ちょっと前に作ってあった合鍵。でも、渡したところでどうするんだとも思っていて、結局渡せなかった合鍵。欲しがられてはいたが、恥ずかしさが上回って渡せなかった合鍵。
――今しかない。そう思った。
「……イイの?」
「俺が渡したんだから、イイに決まってる」
「フンっ。カッコつけんな」
軽く鼻で笑われる。たまにはイイだろ。
「ああ、言っとくけど」
これを言っておかないとマズい気もするので、忘れない内に言っておく。
「お前が襲ってくるのは無しだから。貞操帯みたいなヤツ付けとくから」
「チッ!」
「だから、その舌打ちを止めろというのに」
「チッ!!」
「ボリューム上げんな!」
「あはは!」
姫星愛は高らかに笑った。
これならば、大丈夫そうだ。
勝手な安心感に浸っていれば、じっと見つめる姫星愛の視線に気付くのが遅れる。
見つめ合う。
文句のひとつでも来るかと思ったが、姫星愛は少し言葉を選んでいるようだった。
「一生?」
「何だ?」
「……ありがと」
選ばれたのは、控えめな礼。
「おぅ」
「あ、テレた? アンタも初心だねえ」
「うっせえ」
頬が熱い。
でもこれは、きっと日の出のせいだ。
頬が熱いのも、紅くなってきていることも、きっと日の出のせいだ。
後書き・解説
トータルして1万文字くらいの短編となりました。
4桁文字数であればどこぞの公募にでも突っ込めたのかもしれませんが、まぁ、それはそのときです。一気に書き上げたらこの文字数になったので『初版』としてはこれが妥当だったのでしょう。
きっかけは、「このタイトルを思い付いてしまったから」。
10代にして厭世観にまみれた少女あたりに吐き捨ててもらいたくなり、巷のラノベもJKの自殺願望を押しとどめる作品は結構あるのでそれに載っかりつつ、衣を着けて揚げたらこんな感じになりました。
少しでも前を向かせたい(でも実は、彼は彼で結構ひねくれたところも闇の一面もある)一生くんと、人との巡り合わせに恵まれていなかった姫星愛さんの日常風景――って感じですね。
「『お名前』の話」は割と良くするので、彼らについても語っておきましょうか。
一生は、タイトルとの対比という側面が強い、ヒネリはなくストレートにということで。――ちょうど、番宣で高橋一生さんが出ていたので、その関係もあります。
姫星愛は、ここぞとばかりのキラキラネームです。同名の方がいらっしゃる可能性が高いのでこういう言い方は全くもって望ましくないのですが、――よく虐待を受けて亡くなる子に付けられやすいイメージの文字面と音の響きにすることを最優先にしました。「姫」、「愛」、そしてキラキラネーム。数え役満だと思っています。
書いてはいませんが、姫星愛はネグレクトされた過去があります。
なので、基本的には自宅に戻りたくない子です。
もちろん、それを咎めるような人間は自宅にはいません。
死にたがっているように言っていますが、畢竟愛には飢えています。なので、「殺してほしい」と言っています。自分では死ねないタイプです。
なぜ処女を捨ててから死にたいか、という理由ですが、単純に『母親が経験したことを経験せずに死にたくないから』です。
悔しいんです、母親に劣るということが。
こちらも書いてはいませんが、一生はわりと黒いことをしています。典型的裏稼業というヤツです。当然、秘密裏にしていることです。
けっこうイイところに住んでるんですが、ただの大学院生がそんなに余裕あるわけないんですよ。
書いているほど文字数に余裕がなかったのでこれらのことは割愛していますが、今後何かの弾みで長篇になるようなことがあれば描かれるかもしれません。
それは今後の皆さんのリアクション次第です。
ということで、結局他力本願なことを書き残して、今回は締めさせていただきます。
ここまで長らくのお付き合い、誠にありがとうございました。
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