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目は口ほどに 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜
『目は口ほどに』
「どうした? さっきからずっとこっちばっかり見てるけど?」
「……イヤ?」
「イヤではないけど」
今は信号待ちの最中だから別に問題はない。
歩いているときは前を向いておいた方がいいと思うのだけど、どうも彼女はこちらというより、確実に僕の顔ばかりを見ている。
ちらりと視線をそちらに向けると、逸らすというわけではない。
むしろさらに強烈に僕を、僕の目を見てくる。
視神経にまでつながろうとするような目力だ。
くりっとしたブラウンの瞳に吸い込まれそうになる。
――というか、顔がだんだんと近づいてくる。
吸い込まれそうになる、という錯覚はこれが原因か。
「ど、どうした」
「んー。……『目は口ほどに物を言う』って言うから、試してるの」
「そ、そうか……」
「やっぱムリかー」
そう言って前を向いたものの、名残惜しむようにこちらをちらちらと見てくる。わざわざ「ちらっ。ちらっ」なんて言いながら。
あまりにもこれ見よがしなので、あえて視線をそらしてみた。
――が。
「……あ」
「ん?」
「ごめん、伝わった。ムリじゃなかったわ」
手袋をしていない、赤くなってしまっている彼女の手が見えてしまった。
「あ……」
「あってた?」
「正解」
「……よかった」
ちょうどよく車も人も少ないタイミングになった。
握った手を少しだけこちらの方に引き寄せてみると、彼女もそれに応えるように身体を寄せてきてくれた。
「あったかい」
「よかった」
「……あなたの隣だからかな」
そう言ってきた彼女の手を、ほんの少しだけ、強く握り返した。
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後書き・解説
今回も、私が書いております「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」から引用です。
好きな人の近くに居れば、比べものにならないくらいにあたたかくなれるはずです。
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