亜麻色アルバ 〜短篇〜
『亜麻色アルバ』
流れるプールで漂っているような、心地のよい揺れが身体を包んでいる。
ゆらゆら、ゆらり。
目を閉じていればそのまま深い眠りに落ちていきそうな、ゆりかごのような安心感だ。
——いや、今もうすでに目を閉じているのだけれど。
「……ん?」
どうやら、朝、らしい。
窓の外は明るい。明らかに明るい。どう考えても、いつもより明るい。
寝ぼけたアタマに鞭を打つようにして、両の目を擦る。何度か瞬きを繰り返して、ようやく焦点が合ってきた。
なるほど、カーテンがかかっていない。それならこれくらい明るいはずだ。壁掛けの時計は七時ちょっと過ぎを指していた。
「7時?」
今日は土曜日。いつもならまだ夢の中。休みの日でこんなに早く起きたのは久々だった。
——よし、二度寝をしよう。
今から寝ても、九時過ぎくらいには起きられるはずだし、今日の予定は午後から。余程のことが無い限りは、何も問題は起きないはず————。
「……ちょっと?」
「わ!」
突然視界がカーテンで遮られる。
——ん? カーテン?
ベッドの上に、カーテン?
そんなもの仕掛けた覚えなんて無い。
天蓋付きのベッドで寝ているわけでもない。
「ナオユキさーん。寝ぼけたまま眠らないでくださーい」
「え?」
よく見れば、目の前にあるのはカーテンじゃなくて、掛け布団。それを持っている手も見える。
「あはは、すごい顔してる」
そして、さらに小振りな顔がひょっこりと覗く。亜麻色の髪が楽しそうに揺れた。
「びっくりした?」
「そりゃまぁ」
びっくりはする。まさか、起きたらいるなんて思わない。たしかに合鍵は彼女に——サヤカに渡してはいたけれど。
「あれ? でも、今日って……」
そう。今日の予定は午後から。デートの予定は、午後から。
だって、サヤカは午前中に女友達といっしょの用事があるということで。
それでも午後からは時間があるから、と言ってくれたのを良いことにムリを言ったわけで。
「……っ」
我に返ったように静かになったサヤカは、そのまま顔を赤らめる。
「その……、なんていうか、サプライズ的なことを……ね」
「サプライズ」
ま、たしかに驚いたけども。
「……もうっ。さすがにそろそろ気付いてよ!」
「気付いてって、なに……に」
——気付いた。
そりゃもう、嫌と言うほどに気付かされた。
全然、イヤじゃないけど。
むしろ、大好きだけど。
永遠に見ていたい気分になったけれど。
「エプロン……」
「朝ご飯、……食べよ?」
くるりとそっぽを向いた彼女の亜麻色が、恥ずかしそうに揺れた。
あとがき
アルバとは、イタリア語で「夜明け」の意味。
亜麻色の髪の乙女に起こされる朝、ステキやないですか。
そんなわけで、今回も「タイトル先」で書いてみました。