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作品集

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ネット物書き・御子柴流歌が書いたモノを集めてみました。
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2020年4月の記事一覧

げんきをだして 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」〜

『げんきをだして』       なんだか、今日はとくにいそがしそうに出ていった。  お勤めはボクの方が遅いので、たいていは見送る役目。  いってらっしゃいの声は届いただろうか。  せめて、できる限り、今夜はゆっくりできるようにしてあげよう。                    ○      もう真夜中。  1日は短い。  小さな足音。  間違いない。  帰ってきた。  いつもやさしいあなたに、今日はちょっとだけサプライズをあげる。  目の

恋の味 ~超短篇~

『恋の味』  この恋は、たとえて言うなら、ショートケーキの上にあるいちごのようなものだ。  真っ赤に染まったいちごは、見る者をひきつける。  可憐な姿に引き寄せられる。  けど、その実態は――さらにクリームの化粧を施していなければ、その酸味をごまかせない。  蛮勇ながらその実に触れて、痛い目を被ったことなんて数知れず。  だけれど、僕は。  そんないちごに恋をしてしまった。        to be continued...?       あとが

亜麻色アルバ 〜短篇〜

『亜麻色アルバ』 流れるプールで漂っているような、心地のよい揺れが身体を包んでいる。  ゆらゆら、ゆらり。  目を閉じていればそのまま深い眠りに落ちていきそうな、ゆりかごのような安心感だ。  ——いや、今もうすでに目を閉じているのだけれど。 「……ん?」  どうやら、朝、らしい。  窓の外は明るい。明らかに明るい。どう考えても、いつもより明るい。  寝ぼけたアタマに鞭を打つようにして、両の目を擦る。何度か瞬きを繰り返して、ようやく焦点が合ってきた。  なるほど

待ち人来たりて、されども 〜短篇〜

『待ち人来たりて、されども』   私はこの風景が好きだった。  私の生きて来た原風景のように思える、この景色が何よりも好きだった。  最近は映画のロケとかに使われたとかで聖地巡礼の人が多くなって来たけれど、それでも時間によっては静けさがやってくる。その時が、何よりも好きだった。  信じたくはなかった。  信じたいはずがなかった。  だから、私は今でもここに居るし、私は今でもあなたを待っていた。  私が大好きなこの場所で。  すっかりモノクロになってしまったこの場所で。  

瑠璃色リップルズ 〜超短篇〜

『瑠璃色リップルズ』  「ソウスケくん」 「ん?」 「この水たまりには、あなたの願望が映し出されるのです」 「……いきなりどうした」  目の前には歩道を埋め尽くすくらいの大きさの水たまりが出来ている。  カスミの唐突かつ突飛な言葉に、ソウスケは呆気に取られる。  この少女は基本的にマジメなタイプだ。  もちろんマジメ一貫ということもなく、軽くふざけあったりはするけれど、こんな風にそこまでどこかに吹っ飛んだようなことを言う娘ではない。  舗装のがたつきが目立つ歩道

夕景ユートピア 〜超短篇〜

『夕景ユートピア』   互いの頬が紅いのは、きっとこの夕陽のせい。   互いの顔が熱いのも、きっとこの夕焼けのせい。   この世界には今、ふたりだけのように思えて。   互いの腕に力を込めた。     あとがき 今日の超短篇は画像を選んでから書くスタイル。  映像からのインスピレーションで書くっていうのも、楽しいモノです。  ところで。  シルエットの男女って、イイですよね。  

あなたがいれば ~好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集~

『あなたがいれば』  夕暮れ時。買い物帰り。 「『君さえいれば何もいらない』、なんて言葉があるけどさ」 「……どしたの急に」  怪訝な顔を隠すことなく見せつけてくる。  そりゃそうか。  TPOを考えろ、って話だ。 「わざわざそんな前置きをするってことは、そうじゃない、とでも?」 「それだけじゃ、なんとなく足りないよなぁ、って」 「へえ……。じゃあ、何があればいいの?」 「『君と、君が幸せであるという事実』? ……綺麗な言い回しが思いつかないけど、『君が幸せ

夜咄ヴァイオレット 〜超短篇〜

夜咄ヴァイオレット すみれ色のワンピースに身を包んだ女性が、反対側のホームで静かにたたずんでいる。  どこを見ているのか、何を見ているのか。  線路二本を隔てた先の彼女の視線なんか、こちらにはわかるはずがない。  そのはずなのに、何故だか知らないが、それが手に取るようにわかってしまう。  ——西に向かって立つ彼女は、来るはずのない明日の夜を思っている。  それは、ただの自己投影なのかもしれないが。  もう考えるのはやめよう。  ニンゲンを、やめよう。  目を閉じて、淀み始める

東雲システマティック 〜超短篇〜

東雲システマティック     東の空からは夜明けの報せ。  春の朝は次第に足早。  時々聞こえる大型トラックのクラクションは、それでもどこか眠気を纏っている。  そんな壊れ気味の時計にしたがって、まだ数少ない街ゆく人はいつも足早。  出始めた太陽に背を向けて、歩く先は駅とかだろうか。  こんな時間にどこへ行くの、ってそれは人それぞれ違うだろうけど。  少し冷えた部屋の中から、何も纏わずにそんな光景を眺めてみた。  ため息をひとつ、東雲に溶かす。  そのあたりに影が落ちた

「あちらのお客様からです」 〜短篇〜

   どもです、御子柴です。  今日は、いつもの短篇集からではないところからお話を持って参りました。   本篇  「あちらのお客様からです」  マスターが、カウンターの端に席を取っているあの娘へとカクテルを渡すのを確認しながら、俺は手元にあるジントニックを啜った。  ときどきこのお店のカウンターで、ひとり楽しそうな笑みを浮かべながらお酒を楽しんでいる女性。  キュートなえくぼと、まぁ、その、あれだ。  ……素敵なバストをお持ちでいらっしゃる方だ。  彼女が、少し

あめふりやまぬ 〜好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集〜

『あめふりやまぬ』   大粒の雨を降らせていた秋の空は、ようやくその手を緩め始めた。  通り雨くらいだろうと思っていたのだが、予想が甘かったらしい。これならもう少し室内にいた方がよかった。靴の中で濡れているソックスを足の指で少し弄った。 「ごめん、ケイスケくん。お待たせー」 「ううん、さっきついたとこだから」 「……ウソつきぃ、裾とか濡れてるもん」  あっさりとバレてしまった。 「バレちゃあ、しかたあるめえ」 「何それ。時代劇のつもり?」 「まぁ、そんなもん

エイプリルフール 〜「好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集」より〜

『エイプリルフール』   わ、私は……。  別に、アンタのことなんて。  何とも思ってないんだから!                     ○           「……これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど!」 「いや、ちょっと待て」 「……なによ」 「オレさ、さっき『エイプリルフールなんだし、せっかくだからウソついてみろよ』って言ったよな」 「そうね」 「……今の、ウソなの?」 「…………ウソに決まってるじゃん」 「……そうか」