難民問題に向き合う -戦火のランナー-
突然ですが皆さんは、「難民」に対してどのような印象を抱いていますか?
私は普段、サークル活動の一環で、難民教育支援を行っています。今回は、その活動の一環で鑑賞した、南スーダンからの難民をテーマとして描かれた映画「戦火のランナー」から得た自分なりの考えに加えて、その後に参加した難民講演会で「難民」という視点をさまざまな方向から考えたことについてをまとめていこうと思います。
戦火のランナー
戦火のランナーという映画をご存知ですか?
戦争が起きていたスーダンからの移民であるグオル・マリアルさんが移民としてアメリカに渡り、母国のためにマラソンランナーとして走り続け、のちの南スーダンに大きな感動を与えたドキュメンタリー映画です。
本作品について書く前に、まず南スーダンの歴史について触れたいと思います。
南スーダンは2011年にスーダンから独立した世界一新しい国家です。主人公であるグオル・マリアルが幼少だった頃、スーダンは戦争の最中でした。スーダンと南スーダンは、宗教問題や石油源等を巡った内戦が複数回勃発しています。(第一、二次スーダン内戦)
この内戦の中で、グオル・マリアルの両親は彼をスーダンから逃すことにしました。武力勢力に捕まるも、奇跡的に逃げ切り、難民キャンプで保護され、アメリカに移民として受け入れてもらうチケットを手に入れました。
両親と離れて一人で生き帯びる彼の中には、多くの不安があったことでしょう。その後、マラソン大会でロンドン五輪出場権を得ますが、南スーダンには国内オリンピック委員会が存在しないため、選手としての活躍か南スーダン人としての存在かを選ばざるを得なくなります。
この映画は、マラソン選手としてのグオルと、南スーダンという国を背負った一人の人間としてのグオルの二極から、スーダン問題について、南スーダンの歴史について、また、一人の人間の勇気について、そして大きなテーマである難民問題を描き出している貴重なドキュメンタリーだと感じました。
スーダンの歴史(箇条書き)
・昔はエジプトとイギリスが支配
・ ウンマ党・イスラム教:南にはキリスト教を信じている人が多かった
→宗教的な争いから、第一次スーダン内戦(17年ほど続く)が勃発
・エチオピアの王様によって1972年にアディスアベバ合意にて終戦、将来的な独立を許可
アメリカの会社が南スーダンで油田を見つける
→アディスアベバの約束をナシにし、イスラム教として活動することを示す
南スーダンの人々はそれに激怒、スーダン人解放軍(SPLA)を作り反乱を起こす
→第二次スーダン内戦(22年)が勃発、ケニアにて南の緩い独立を認める、石油の分割、将来の独立の有無は投票にて決める
→90%の人が独立を選び、独立が決まる
しかし、いまだに石油問題で揉めており、南スーダンは近くに海がないことで輸送費が高かったりして儲からず、現在も南スーダンは貧乏国として位置付けられている
SDGsとUNHCR
難民支援に関する目標は、SDGs(持続可能な開発のための2030アジェンダ)の
1.貧困を無くそう
2.飢餓をゼロに3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに
10.人や国の不平等を無くそう
等に値すると考えています。
今回、難民講演会にてお話してくださった方は、UNHCRから来られた方でした。UNHCRとは、国連難民高等弁務官事務所の略称で、持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「誰一人取り残さない」世界の実現のために、難民や国内避難民、無国籍の人々が取り残されることのない開発計画を重視しています。
難民と移民の違い
私はもともと、難民移民問題にすごく関心を持っていたというわけではないので、この点について考えたことがありませんでした。お話によれば、
難民:移動を強制的に強いられた人たちのこと
移民:自分たちの生活をより良くするために移動してきた人のこと
を指すそうです。
そう聞くと、難民が大変で移民はそうでもないという印象を抱く可能性がありますが、状況は人によってかなり異なるので、この言葉の違いはとても曖昧です。
移民といっても、生活環境が劣悪に悪く、家族を養うことができずに国を出る人もいれば、それなりの生活を送っているものの今よりも良い生活を求めて国を出る人もいます。
難民の就学状況に関して
難民の子供達の就学率は、就学前教育が38%、初等教育が65%、中等教育が41%、高等教育に至っては、わずか6%でした。UNESCO統計(2017)によると、世界の小学校就学率は91%、中学校、高校は84%、高等教育は37%だそうです。比較してみても、難民の子供達の就学割合の低さが目立ちます。
また、難民となった小学生が将来就きたい職業を聞かれると、小学校の先生か医者を志望することが多いそうです。この理由の一つには、知っている職業がそれくらいしか存在しないということがあるそうです。
こうした現状から、子供の頃に知るべきことや、するべき経験の少なさが見受けられ、教育の不十分さが将来に大きく影響を与えているのではないかと考えました。
難民問題と私たちの生活
難民問題は私たちの生活とはかけ離れたものであり、あくまで他人事として認知している人が少なからずいるかもしれません。実は私も今回この話を聞くまでは、自分とはかけ離れたところの人々の問題であり、少し他人事に思ってしまっている部分がありました。
今回例として取り上げられていたコンゴ人民共和国では、レアメタルが取れるそうです。レアメタルとは様々な理由から産業界での流通量・使用量が少なく希少な非鉄金属のことであり、電気自動車のモーターやバッテリーを作るのに欠かせない存在で、私たちが普段使用するスマートフォンなどを生産する際にも用いられます。ですが、この国から逃れてくる移民の方は多いそうです。レアメタルは希少価値が高く、需要があるのになぜだろう?と思う方もいるかもしれません。
しかし、そこが大きな肝となっています。
レアメタルの需要が高いからこそ、国の中でも取り合いが起こります。移民として逃げてくる方達は、強制的に労働させられて、掘ったレアメタルを横領されているようです。こうして労働者が移民となって逃げてくるようになると、生産者がいなくなり、最終的に私たちは製品を手にすることができなくなります。
つまり、「アフリカの人道危機は私たちの生活に影響する」ことになります。
「難民に関するグローバル・コンパクト(Global Compact on Refugees)」
グローバルコンパクトとは、世界が一体となって難民保護活動を促進していくための国際的な取り決めのことを指します。
難民を取り巻く状況の改善、公正かつ公平な社会の実現を目指して、2018年12月の国連総会で採択されたものです。(UNHCRより引用)2022年5月までに世界中で1億人以上の人々が避難を余儀なくされている(UNHCR Grobal Trends 2022)ことからも、難民問題は深刻であり、世界全体で対応していかなければならない課題と言えるでしょう。
そして、私が普段難民教育支援を行っている中で感じる問題点や気づきもいくつかあります。
次回は、私の活動である「難民教育支援」についてお話しようと思います。