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はるるん、インドでファッションショーに出る

最初に話をもらったのは、1ヶ月以上前のこと。タマンナのディレクターの先生から突如呼び出しがかかり、「毎年恒例のタマンナとデザインカウンシル主催のファッションショーがあるが、ハルも出たいかどうか」と聞かれた。

ファッションショーとハルがにわかには結びつかなかった私は、どういう意味なのかすぐには理解できなかった。何かの関係でタマンナの関係者がファッションショーに招待されているだけなのだとしたら、日曜の夜にわざわざ出かけなくてもいいかな、と思った。

ところがよくよく聞くと、ハルがモデルとして参加するというのだ。しかもちゃんと採寸してハルにフィットする衣装を作ってくれるという。それは面白そう!ということで、二つ返事で参加することにした。

どうやら毎年タマンナとデザインカウンシルがコラボしてファッションショーをやっており、希望したタマンナの生徒がモデルとして参加することになっているらしい。

去年の様子の記事は下記


ランウェイへの道

ところが参加の返事をして、採寸をしただけで、その後はなんの音沙汰もなし。9月に入ったところでハルは体調を崩し、ショーの直前の1週間はまるっと学校をお休みしてしまった。それもあってかどうかわからないけれど、ショー当日の1週間前に時間の確認があっただけで、結局前日までその他何の連絡もなく、本当に参加するのかな?とやや半信半疑になりかけていた。

前日になって突如「白い靴をはいてきてください」と連絡が来た。えっでもはるるん靴はけないの、筋緊張が強いから…そもそも靴持ってないし…とあたふた。結局白い靴下を持っていくことにして気持ちを鎮めたところに、当日の朝になって「白いインナーを来てきてください」という連絡が。

だーかーらー!もっと早くまとめて連絡してほしい!とインドに来て何回思ったことだろう……。まあインドだから、ね。

白いインナーも無事クリアして、でも何がなんだかよくわからないまま日曜の夜、言われた時間に言われたホテルの会場に向かった。そこで待っていたのが、デザイナーアシスタントらしき彼女(写真左)

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彼女が持ってきてくれたのは、白いふわふわのエンジェルみたいなお洋服。腕はパフスリーブで胸元は襟。きゃわいい。色白でふわふわ肌のはるるんにぴったり〜(親ばか)

そうして出番がくるまで控室でまつこと2時間。父母と3人で夜にお出かけなんて初めてで、しかもかわいいおべべを着せてもらって、はるるんご機嫌MAX!

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まわりにいるみんなが「なんて可愛いの!」「彼女は名前何ていうの!」「一緒に写真撮らせて!」とハルの周りに集まって、母、嬉しくて仕方ない。

綺麗に着飾っていつもと少し違って見えるタマンナのお兄さんたちも、いつもよりだいぶ興奮してハルにめちゃめちゃからんでいた(ヒンディー語で!)

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母は覚えたてのヒンディー語を駆使して短い会話を成立させつつ、インドでもこうやってハルを愛でてくれる人がハルを囲んでいる図を見ることが出来て感無量。もっとヒンディー語が話せたら!!と思いつつ、でもなんとなく気持ちが通じ合った気がして嬉しい。

いよいよ出番になって、舞台袖に呼ばれて待機していると、静かに眠りに入るはるるん……

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そりゃそうだよね、興奮してにこにこしっぱなしだったし、もういつもだったら寝ている時間だしね。その様子をみていたプロモデルの綺麗なお姉さんたち、「きゃー!なんて可愛いの!」とめっちゃ気さくに話しかけてくれた。いやいや、むしろおねーさんたちの方が可愛いですから!めちゃ頭小さいしめちゃ背高いしスレンダーだし!

舞台袖から見る舞台は、ピカピカとライトで照らされ、間違いなく大舞台で、出番をまって寝息を立てているハルを前に、否応なしに胸が高ぶった。綺麗なモデルのお姉さんたちも、スタッフもデザイナーさんたちもみんなが小さな眠れるエンジェル、はるるんを見守っていた。

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私は舞台袖でハルに付き添っていたので見えなかったのだけれど、夫が客席でランウェイをゆくハルをビデオに撮っていた。

モニターで確認していたモデルの綺麗なお姉さんが、一瞬はっと息を飲み、私の肩をたたいた。

「ねえ!彼女、少し目をあけたわ!少しの間だけだったけど、舞台に立ったのがわかったのね!ねえ、なんて可愛いの!」

私よりも興奮した様子で口元をおさえて目をうるませていた。

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こちらが夫が撮っていたビデオからの切り出し写真。ハルのバギーをおしているのがハルの服を作ってくれたデザイナーさんだ。確かにこの時ちょっとだけ目をあけているように見える。

目玉が飛び出そうになるお値段がついたお洋服が売られている、超高級なお店のデザイナーさんで、ハルの隣にいる美女たちとハルは同じコンセプトのお洋服として一緒に登場した。

出番を終えたはるはホッとしたのかすっかり目が覚め(笑)、パパと合流して再びニコニコ。私もほっとして誰だかよくわからないデザイン業界のお偉いおじさまと記念撮影。

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車椅子の子も、自閉症の子も、みんな美しく着飾って、綺麗なモデルさんたちと一緒にスポットライトを浴びるファッションショーは、あたたかくて、とても素敵な空気につつまれていた。いいイベントだった。

今年の様子もすでに記事になっていたので貼っておきます。


ファションの役割

ところで医療におけるファッションの役割というのは軽視されがちだが、実は結構大事なことだと日々感じている。

特にハルのような身体障害のある子どもは、着替えがとても大変だ。できれば新生児に着せるような前開きのロンパースタイプの肌着が望ましいけれど、そういう肌着は90サイズが限界で、それより大きいサイズではほとんど見つけることができない。

機能的な話のほかに、純粋にデザイン性という意味でも、医療にもっとファッションは関わっていいと思う。子供が病気になって気持ちが晴れない時、お気に入りの色やデザインの服を着ればそれだけで本人の気持ちはまったく変わってくる。8歳の長女が、髪の毛を上手に編み込みできるとそれだけで一日テンションが高いことからも明らかである。(私調べ)

子ども本人だけではない。「大変だね」「かわいそうだね」という目で見られがちな病気や障害のある子が、素敵なお洋服をまとっていたら、周りの反応もずいぶん違うはずだ。「大変だね」ではなく、「かわいいね!」と言われたら、それだけで介護する大人もずいぶん気持ちが違うはず。

少なくとも私は、障害とともに生まれたハルを「みんながかわいがってくれなかったらどうしよう」という不安があったけれど、上の子達が手放しに「かわいい!」と褒め称え、やたら花を摘んできてハルの頭に飾る姿にずいぶん救われた。

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大人だって同じではないだろうか。最近は妊婦さんのパジャマこそかわいいものがたくさん出ているけれど、妊婦に限らず入院中の患者さんだって、衣服というのは結構大事だ。病衣を着て誰かに会うというのは、スキだらけの丸腰の状態で誰かに会うようなもので、たとえばいつもスーツをビシッと着こなすような男性が病衣で病院にいたら、当然気持ちも弱々しくなってしまうだろう。

東大の高齢者在宅長期ケア看護学/緩和ケア看護学教室を卒業された方が、ファッションと医療について記事を書いているので個人的に注目している。

まさかインドでハルがファッションショーに出るとは思わなかったけれど、インドに来てよかったと思える出来事だった。

欲を言えば、ファッションショーを通じて、普段ハルが抱えている問題を解決するような服のデザインを考えてくれたり、願わくば身体障害の子向けの服のラインを販売開始したり、社会にもっとアプローチしてくれるきっかけになったら良かったなと思う。(ちなみにハルが着た服は回収されましたん…はるるんの体のサイズなのに〜)

日本でもあるといいな、障害児や病児ののファッションショー!



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