エロビデオ屋の独白#X「死体と塩」
唐突に個室ビデオ屋時代のエピソードを思い出したので、簡潔に書いておきます。
23年の年始のある日、夕方頃の出来事。一人の客が入店してきた。
年は50台といったところ、体形は太り気味、そして強烈な異臭を放つ、そんな客だった。
その異臭というのが尋常ではなく、カドショのオタクとか風呂スキップ民なんて話にならないくらいの異臭だ。ベトベターとかドガースの臭いは多分こんなもんなのだろう。
鼻をつんざく悪臭に耐えながらその客を部屋に通した後、ぼくは退勤の時間になったのでちゃちゃっと家に帰った。
翌朝、ぼくは10時に出勤した。11時になると店で一泊した客がドッと出てくるのでそれまでに諸々の作業をしておく。
11時、いつも通り退店する客たち相手にチェックアウト作業をしていく。
しかし、11時5分になっても10分になっても例の客が部屋から出てこない。
内線を飛ばしても返信が来ない。なので店長がその客のいる部屋に直接向かうことになった。
5分後、店長が受付に戻ってきた。
「どうでした?」
「死んでた」
「それは冗談とかではないですよね?」
「うん」
ほぼ二年前の出来事なので、この記事の内容はとことどころ事実と異なっていると思うのだが、このやり取りだけは鮮明に覚えている。
いつもはふざけ倒している店長が表情を動かさずに淡々と事実を伝えてきて、ぼくは家族以外の人間の死に立ち会うのが初めてなので動揺していた。
警察の死体処理班が袋に包まれた死体を運んでいくのを見守った後、エリアマネージャーがやってきてぼくに金を渡してこう言った
「塩買ってきて」
塩?今?なんで?・・・あぁ、清めの塩ね!この会社意外と保守的なんだなぁ!
困惑しつつも近くのコンビニで塩を買ってきて、その日出勤してたスタッフ全員に塩を振りかけた。
後日、神職の方が店に来た。エロビデオの山がある店に来た。
例の客がいた部屋は異臭こびりついていたのと、倫理的な?理由で使えなくなっていた。その部屋のケガレ的なものを祓うために来てくださったらしい。エロビデオ取り扱う仕事してるのにこういうところは意外と真面目というかなんというか…袴を着てお祓い棒を持った神職がAVが陳列された通路を歩いていく様は非常に・・・水と油というか美女と野獣というか・・・そういう感じだった。
エロビデオ屋の密室で悪臭を放ちながら独りで朽ちる、こんな死に方は絶対にしたくないなぁ。死ぬならもうちょっと綺麗な死に方がしたいなぁ、と思いました。
エロビデオ屋編、多分完結です。