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Shinuca to Omotta

はい… あれは小学校の1年生頃の出来事だったと記憶します。
私には3つ歳上の兄がいます。その兄と学校へ通っていました。
母はいつも兄に「ナランチャといっしょに帰ってくるんだよ」
と言いきかせていましたが
守っていたのは、友達と合流するまでで
私を無視して友達とサッサと先へ行ってしまいます。
帰りは帰りで、いくら待っても私のところへ来てくれないこともたくさんありました。
大抵そういう時は、先に友達と帰ってしまってました。きっとワザとです。
よほど友達といる方が楽しく、足の遅い私と帰るのは面倒だったのでしょう。
兄の友達の家は、うちから比較的近いところに数軒あります。
一方私の友達は、学校を中心とすると反対側の子ばかりです。
帰る方向が同じとしても、学校から近い子なので
その道のりの大半が私ひとり。
それもいつものことなので1人でポテポテ歩いて帰りました。
歩道のない道が多いこともあり、大型トラックの通り過ぎる音と振動が怖くて
大きな車が近ずいてくると路肩の草むらに隠れて耳を塞いで通り過ぎるのを待ちました。

道草もずいぶんしてました。
ネコヤナギの芽をつまんで取ろうとしたり
水たまりのアメンボを回り込んで追いかけたり
落葉をカシャカシャ踏んで歩いたり
薄氷をパリパリ踏んだり...
そんなことしているから、なおさら時間がかかりすぎていたようです。
今なら歩いて20分程度の距離が当時1時間はかかっていたと思います。

そうしたある日、家に着くと兄の友達が数人来ていて
皆でキッチンでコーラを飲んでいました。
私は、前から見た目が真っ黒なコーラはとても美味しそうには見えず
一度も飲んだことはなかったのですが、
皆が美味しそうに喉を鳴らす様子を見ると我慢できなくなりました。

「私も飲みたい!」

コップに顔を詰め込むようにコーラを飲んでいた兄たちは
「エーっ!」とお互いを見つめあっていました。

「お前コーラ飲めないだろ!」

「私も飲んでみたい!」

「これは男の味なんだ!」

「ずるい! 欲しい!」


「飲ましてやりゃいーじゃんw」

兄の友達の1人がニヤニヤしながら皆に目くばせしていたのを覚えています。

「じゃナランチャちゃんにもあげるよ。
  でもちゃんとボクたちの言うことを聞いて、
     美味しくないからって残したらダメだよ」
 
  
「うん! わかった」
  
  
「ナランチャ! 父さんや母さんに絶対言うなよ! 
   言ったら許さんからな!」

兄はすごく怖い顔をしていたけど、
私は秘密の世界に一歩踏み込むような気分でワクワクしていた。

トン! とテーブルに置かれたゴブレットに
角氷 ふたつ みっつ カラカラ踊る。
それを静めるように上から濃褐色の 濃褐色の…

キッ●ーマンのボトルからコーラが注がれた。
氷はコーヒーゼリー色に輝きながら
カシュン! と小さくつぶやいて降参してたよ。
強いコントラストで半分強調されたゴブレットに水と砂糖が足され
コーラは完成した。

「はい! ナランチャちゃん!」

私はランドセルを背負ったまま唖然とした。

「こいつら私に正油飲ませようとしてる!」

とは少しも思わず、むしろ

「コーラってこういう風に作るものだったんだ!」

と驚きと感動に包まれていた私…

「飲みな!」

「う…うん…」

なんとなく味の想像はついた
思った通りだった
でもこれが大人には美味しい味なんだ(少なくとも兄貴以上の歳には)
そう思ったけど、やっぱり不味い。
不味いというより辛い!
でもなぁ…これ飲んじゃわないと次は絶対ダメってことになるだろうし…
どうして? なぜニヤニヤして見てるのさぁ…

そのあとのことは皆さんのご想像におまかせしたいところですが
惜しむことなく続けます。

私は今まで経験したことがないくらい気持ち悪くなって
ベッドで横になったことは覚えていますが
そのまま気を失ってたのか覚えがありません。
お医者に運ばれたとか入院したとか
はたまた翌日にはケロッとして学校に行ってたとか
記憶が一切ありません。

「あのさーっ 小1の夏休み前の頃って
  私、学校休んだりしてた?」

「えーっ そんな昔のこと覚えてないよ…」

友達に聞いたことがありましたが誰も覚えていません。
私が、あの件のその後にこだわっていた訳は
昔のアルバムに
運動会以降(6月中旬〜8月下旬くらい)の写真が欠落している期間があるからなのです。
普通、1年生の時って親にやたら写真を撮られてなかったですか?
この起承はあれど転結がない記憶
いつか、その顛末を家族に聞いてみたいと思いますが
知ってはいけない、この世のものらしからぬ
とても凶々しいものに触れるような気がして
未だに聞けないでいるのです。

もしかすると
私が今、生活しているこの世界は、私がもといた世界なのではなく
あの時、私は生醤油ベースでタイムリープした挙句
ここではない向こう側の次元に来ていたのかもしれない。
むしろそうなのか...?

それで私の帰巣本能的なものが
無意識下で再びタイムリープに乗ろうと
私を正油ラーメン好きにし、飲み会ではとりあえず
「コークハイ!」とオーダーさせているのかもしれません。

この世界のみなさま こんにちは
皆さんが、この次元に満足し、このままでいたいと願うなら
怪しい飲み物を興味本位で口にしないことをおすすめします。

しょゆことです。

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