卒業論文×生成AI時代の研究リテラシー再考──『使うならリテラシーを』論文とAIとの“共創”
さて、寒くなり、論文も佳境の季節です。
先日、論文の参考文献、注の新しい方針をまとめたところですが、今回は、生成AIの情報は学生にも届いてきているので、危機感も感じつつ、生成AIと論文について、少しまとめたいと思います。
卒業論文の執筆環境は、ChatGPT ProやClaude、Perplexity、Geminiといった高度な生成AIツール、RimoやNottaによる自動書き起こし、tl:tvなど議事録生成AI、さらにConnected Papersなどの関連文献可視化ツールを活用し得る時代へと突入しています。しかし、「生成AIを使えばいい」という単純な発想ではなく、「もし使うのであれば、適切なリテラシーを身につけ、研究者としての原則を守ること」が不可欠です。
例えば私の所属先の日本大学が明示したように、生成AIから得られたテキストを無批判に論文へ流用することは禁止されているなど、すでに大学側からのルール・ガイドライン整備も始まっています。加えて、無料版の生成AIは精度が低いため使用を避けるべきであり、有料版を用いたとしても常に精度を疑い、出典やバージョンを明示するなど、透明性の確保が求められています。大学によって方針やガイドラインは異なるので、自身の大学の方針は確認することをオススメします。
本記事は、卒業論文の舞台で生成AIとどう向き合い、どう「賢く」使うべきか、そのリテラシーや原則を提示します。生成AIは「悪」ではなく、正しく使えば研究をサポートする「パートナー」になり得ますが、その舵取りはあくまで自分自身で行うべきです。
実際に、学生が正しい知識やリテラシーを持たず、生成AIサービスを利用している場面に直面しました。精度の低い無料版を使用し、吟味もしない。さらには調査のプロセスに使用していたのです。研究の再現性が難しく、さらに研究には批判的思考も必要ですが、精度チェックやデータの吟味なども行っていなかったのです。しかし、これらは現在、自分で学ぶものになっていて、教科書や特別な指導もない状況です。
そんな都市計画研究室(泉山ゼミ)の学生たちやその他生成AIを利用する学生たちに伝える意味で、改めてまとめてみたいと思います。
1. なぜ今、卒業論文と生成AIを議論するのか
卒業論文は、文献レビュー、データ分析、考察を通じて「自分で考える力」を養う最初の本格的な学術訓練の場です。生成AIは膨大な文献情報を瞬時に要約したり、論点抽出したりするが、自分自身で思考するプロセスを省略しがちな「近道」でもあります。だからこそ、もし活用するのであれば、「研究とは何か」を見失わず、リテラシーや批判的姿勢をもち続けることが重要なのです。
人によりますが、卒業論文で使用するのは、ややハードルはあると思います。論文そのものが初めてなのでわかっていない、というのが大きいです。卒業論文に対しての個人の目標設定の違いもあります。「卒業できればいいや」という人は論外ですが、「大学院進学希望で、卒業論文を論文の基礎的な位置付けで捉える人」、「学部就職する場合でも、社会に出ても論理的思考や批判的思考、リサーチのプロセスなどを学ぶと志す人」、様々あると思います。修士論文に取り組む大学院生なら問題ないですが、初めて論文に取り組む学部4年生の場合は、生成AIを利用するにしても、卒業論文や研究などの全体像や作法を学んでから、生成AIサービスの吟味も踏まえることの重要性は噛み締めておいてほしいです。
2. 生成AIはツールからパートナーへ、ただし主導権は人間に
生成AIは「外注先」ではなく、研究を補助する「パートナー」として位置付けるのが望ましいアプローチです。
上手く使えば、研究の内容やプロセスの精度を上げ、あるいは時間短縮など作業の効率向上のメリットがあります。
文献俯瞰:ChatGPT ProやPerplexityでキーワード抽出、Connected Papersで文献群をマッピング
素材整理:RimoやNottaでインタビュー書き起こし、tl:tvで議事録要約
アイデア出し:ClaudeやGeminiで調査設計のヒント探し
これらは出発点に過ぎず、得られた情報は鵜呑みにせず、必ず原典に当たり、検証し、考察する必要があります。研究者としての判断力や批判的思考こそが論文の「主たる部分」であり、AIはその周辺支援にとどまります。
3. 無批判な利用を避け、無料版は回避、有料版でも精度チェックを
精度や品質が不確かな無料版ツールを安易に使うことは避けるべきです。有料版の高機能モデルであっても、なお誤りやバイアスが混在するため、常に精度を疑い、クロスチェックを怠らないこと。さらに、利用ツールの名称、バージョン、利用日時、プロンプト内容などを明記し、出典として残すことで、再現性と透明性を担保できます。
極論、無料版の生成AIサービスを利用するなら、生成AIは利用しないほうが良いです。吟味や精度向上の方に時間を要し、0→1で自分で作業したほうが早いです。利用するならば、精度や使用用途などのリサーチを綿密に行い、有料版を利用するのがオススメです。
4. 情報検証と批判的思考:再現性を損なわないために
AIが提示する情報や分析結果を、そのまま論文の結論に転用すれば、なぜその結果になったのか説明できません。再現性の確保は学術研究の基本原則であり、データ分析や集計は自ら手を動かすことが推奨されます。生成AIは仮説形成や参考文献探索に用いても、調査や実験手順の「ブラックボックス化」を避けるため、分析行程は自分自身でコントロールすることが望まれます。
5. 有益な場面と条件付け:利用シーンの精選
2024年12月現在の生成AIサービスは、サービスの利用用途が多様化し、それぞれ専門能力の差が顕著になっているので、サービスの使い分けが重要になってきています。使い分けがうまくできないと、有料版といえど、低質なアウトプットと向き合うことになり、非効率な作業に出くわすことになります。
膨大な関連研究の俯瞰:有料版ChatGPT Pro+Perplexity+Connected Papersで論点整理し、原典確認で確証を得る
新たな発想のヒント:ClaudeやGeminiに問いかけて調査デザイン案を発想。だが、最終的な採用判断は自分で行う
Googleサービスの連携:Geminiで、GmailやGoogleスプレッドシートの連携などのデータ集計を行う
多言語情報の初期スクリーニング:海外文献要約に生成AIを活用し、その後必ず原典にアクセス
これらの活用例では、使用ツールとバージョン、プロンプト、利用日時を明示し、「AI出力は参考情報にすぎない」という立場を明確にすることがポイントです。
6. 独創性と創造性を確保するために
卒業論文は「自力で考える」ことを鍛えるステージです。生成AIは周辺情報整理や視野拡張に役立つが、核心となる問題設定、分析軸の策定、理論的考察など、本質的な知的作業は人間が担わなければなりません。生成AIは「便利な補助線」であって、メインストーリーを描くのはあくまで自分です。
生成AIを使うコツは、どれだけインプットをするか、にもかかっています。研究の着想やネタを自分で温めて、生成AIを壁打ち相手として、内容をブラッシュアップし、生成AIに作業指示をして、研究の精度を高めることが有効です。
最後に:原則のまとめ
1. リテラシー優先:使うなら、無批判な利用は避け、常に情報精度と倫理を疑う。
2. 無料版回避:無料版は精度が低く利用を避け、有料版も精度チェック必須。
3. 透明性確保:ツール名、バージョン、利用日時、プロンプトを明示し、原典確認を徹底。
4. 再現性重視:分析や集計は自ら行い、ブラックボックス手続きは論文に持ち込まない。
5. 批判的思考維持:生成AI出力は参考程度とし、常に他ソースでクロスチェック。
6. 独創性担保:生成AIは補助線にすぎない。核心的な思考と創造性は人間自身が行使する。
7. 方針順守:大学やコミュニティのガイドラインを守り、透明で倫理的な研究を実践する。
おわりに
生成AIが研究現場に浸透しつつある現在、問われているのは「使う・使わない」の二分法ではなく、「使うならどう使うか」の質的次元です。
適切なリテラシーを身につけ、生成AIを研究パートナーとして賢く活用すれば、卒業論文はむしろ、新たな学びと創造の機会へと進化します。
しかし、丸投げをするのではなく、その舵取りは最後まで自分自身が握っていることを忘れないでください。
このような論文や研究室のTipsは、以下のマガジン、「都市系研究室のTips」に束ねていますので、ご覧ください。
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