ささやかな自慢
Mr.Childrenの楽曲に、「あんまり覚えてないや」という曲がある。『HOME』というアルバムに収録されている。
私のささやかな自慢というのは、この曲にまつわるものである。
本題に入る前に、ひとつ確認しておくことがある。アルバム『HOME』に関連して開催されたライブツアーは「HOME」と「HOME in the field」があるが、本文中では「HOME」ツアーのことにのみ触れているということを確認していただきたい。
「HOME」ツアーのライブDVDに収録された公演は、2007年6月15日に、愛知県の日本ガイシホールで行われた。長い前置きの中で悟った方も多いと思うが、実はその日、私は家族に連れられてその場所にいたのである。その日起きたすべてのことは、後々映像を見返すまで把握しきれていなかったけれども、「もっと」の演奏中に流れたロボットの映像や、「imagine」のカバーを聴いたことなどはわずかに記憶していた。件の「あんまり覚えてないや」が演奏されたのは、アンコールが始まってからである。
DVDで「あんまり覚えてないや」の演奏を観てみると、途中で真正面を向いている家族が抜かれるシーンがある。この家族というのが、私たち一家である。まだ幼かった私は母におぶさっていて、その母の向かって右には、父と、彼の背におぶさっている弟がいる。彼らは、表情がはっきり判別できるほどの大きさで映されている。
私はこの映像を観たとき、震えるほど嬉しく思った。「あんまり覚えてないや」を一聴した方はご存知かと思われるが、この曲の3番では、成熟した家族の姿が描かれる。このことは、歌詞を見ると明らかである。
映された当時は、私もまだ幼く、これほどノスタルジックな家族だった訳では無い。しかし、そうなることへの期待と予感を背負いながら、これから長い時を過ごしていく家族像として、私たちが選ばれた。このことは、物心ついたときからのミスチルファンである私にとって、非常に畏れ多くも光栄なことだった。
現在、私たち家族が、「あんまり覚えてないや」の歌詞で描かれるような家族でいられているかは、正直あまり自信がない。これまで書いてきた思い出だって、「GIFT for you」のためのインタビューがなければ、詳らかにされ、家族の間で共有されることは無かったはずだ。今の私の心からの訴えが、「あんまり覚えてないや」のような説得力で両親の心を揺さぶることもないだろう。しかしそれでも、私は、幼い頃、家族と交わしたやりとりの些細な部分や、今とは違った関係性を持つ両親の姿なんかを覚えている。“ちゃんと覚えている”ことで何かが起きる可能性が低くても、私は、1度でも「Mr.Childrenが描く家族」になれたことを根拠に、自分を見つめ直しながら、Mr.Childrenが作る素敵なものに、少しでも近づけるよう努めてみたい。そんなことを、このささやかな自慢をきっかけに考えている。