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今年の夏はなんとしてでもLizzoに会いに行かなければならない

何かを知る前と知った後で、世界が明確に区別されたな、と思う瞬間がたまに来る。だから、テレビドラマ「だが、情熱はある」第8話でオードリー・春日(役の戸塚純貴さん)が言っていた「皆さんにとってきょうが、ビフォアむつみ荘とアフターむつみ荘に分かれる大切な一日です」はある意味真理だなと思う。とにかくめちゃくちゃハッとして(体の正面から強風を受けて髪の毛全部後ろにいっちゃうみたいなイメージで)、その後目に映るものがなんとなく鮮やかに見える、そんなときがごくまれに訪れる。

2023年4月末、ソニーストア銀座のヘッドフォン売り場でLizzoの「Special(feat.SZA)」を聴いた瞬間が、もっとも最近のそれだった。

洋楽にもヘッドフォンの種類にもぜんぜん詳しくない。ものの試しと思って何気なく装着したヘッドフォンから、たまたま機器に入っていて「そういや名前聞いたことあんな」程度の認識しか持っていなかったアーティストを選んで再生した。そしたら風が吹いて、時が止まった。

機器の設定上いきなりサビから始まった曲は、これまで聴いたどんな曲よりもきらびやかでパワフルで、なのに伸びやかで抜けていた。歌詞はまったく読み取れないけど、この曲はとにかくすごい力を持ってる、やばすぎる。根拠のない閃き、それと同時に、そう思ったいまこの感覚は大事にしたいかも、と思った。

帰って速攻調べてみると、彼女は2023年のグラミー賞の受賞者だった。そして、2023年のフジロック3日目のヘッドライナーでもあった。通りで洋楽
疎くても聞いたことあるわけだ。
それからというもの、彼女の曲やらドキュメンタリーやら動画を見聴きする生活がゆるく続いている。アルバム『Special』は朝の満員電車のなかで私をやさしくたくましく鼓舞してくれるし、こだわり抜かれたライブ・パフォーマンスや素の彼女の天真爛漫さ、誠実さは憧れと親愛の気持ちを抱かせる。

いまやLizzoを知る前には戻れない。でもそれは、あの日積み重ねた何気ない数々の選択の上に成り立っていると思うとなんだか不思議だ。そういえばあのときのヘッドフォンは、ご縁を感じまくりすぎて品番まで控えている。

そんなわけで、今年の夏はなんとしてでも“出会ってしまった”Lizzoに会いに、苗場に行かなければならないと思う。この使命感に満ちた選択でさえも、また新しく世界が区別されるきっかけだったりするのかもしれない。