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キックオフレシーブの教科書


<記事のポイント>
◎キックオフを取った後は、BDの位置によっては大きくゲインするチャンスがある。
◎キックオフレシーブでアタックをするかキックを蹴るかは、「アタックが成功する確率」「アタックをするリスク」/「キックを蹴るメリット」を天秤にかけて判断する。
◎どのようなキックを蹴るかは、「ボール再獲得のシナリオと期待値」によって判断する。

近年、キックオフレシーブからすぐにキックを選択するチームがとても多く感じます。しかし、構造的に考えてみるとキックオフレシーブからボールを持ってゲインをし続けることは可能です。さらに、得点後のリスタートはキックオフのレシーブから始まるのでもしかすると連続してトライを取り続けることもできるのではないでしょうか。そんな中、なぜ多くのチームがキックを選択するのか。また、本当にキックを選択するべきなのかということについて考えていきたいと思います。

キックオフレシーブ後のオプション

・自陣からATする(途中でキック)
・脱出のキックを蹴る
大きく分けるとこの2つに分けられます。
もちろんいろいろな状況が考えられますが、僕は構造的に考えると、基本的にはATすべきだと考えています。

自陣ATでの数的優位 

当たり前のことながら、キックオフレシーブをする位置は自陣です。
自陣ではラグビーというスポーツの構造上、以下のような数的優位が発生します。
基本的にDFに参加できないプレーヤーは5人存在します。
・タックラー
・ダブルタックラー
・キック処理要員×2
・SH

スクリーンショット 2020-04-17 18.28.17

また、SHがBDから持ち出すことをケアしなければならないので、左右ともにBDから近い2人、計4人はBDから遠くに離れることは出来ません。
この時にSOが適切な位置に立つことで、その2人は後追いでDFをしなければならないので、基本的に機能しなくなります。
つまり、ATの工夫次第(、もちろんBDの位置にもよりますが、)でDFに参加できる枚数を10人から6人にすることも可能だということです。
AT側の人数としては、チームによってBDに参加する人数は多少変わりますが、基本的にはラインに参加できないないのはSH、ボールキャリヤー、サポートプレーヤー2人の計4人となります。
以上を踏まえると、図のように、自陣では11vs6の状況を生み出すことが可能です。これが上述の構造的なATの優位性です。

キックオフレシーブからのATの基本方針

ここまでで、キックオフレシーブにおける自陣での優位性が理解できたと思いますが、これはBDが「いい位置」にあることが前提となります。

ATにおけるBDの「いい位置」とは、グラウンドの中央であると考えます。
この位置にBDができることで、アタックのゲインの確率を高めるポイントである、
・減らすことのできる相手DFの人数
・相手が選択するDFシステム(シャローorドリフト)
・パス数の多さによるハンドリングエラーの確率

という点で、最良な状況を作ることが出来ます。

グラウンドの端にBDを形成すると、タッチライン際にはDFはセットしません。
つまり、上述の11vs6の状況を作ることが出来ず、11vs8になる可能性が高くなるということです。こうした観点から、グラウンドの中央、あるいは両サイドにDFが並ぶような位置にBDがあることでより優位な状況を作ることができます。

DFシステムはATとDFの枚数の差によって変化させることが出来ます。
BDがいい位置にあることで、ATの人数はDFより多い状況を作ることができます。ATの人数が圧倒的にDFより多い状況では、DFは思い切り前にプレッシャーをかけるシャローDFをすることを選択することはほとんどありません。しかし、グラウンドの端にBDがあると、シャローDFをすることができるので、DFシステムという点においてもグラウンドの端にBDを形成することはあまり得策ではないことがわかると思います。ただし、ATがWTBに回すまでのパス回数が一定以上になる場合はこの限りではありません。例えATの人数の方が圧倒的に多くてもパス回数が多くなればなるほど、DFは前に出る時間が増え、ATが外まで回す前にタックルしやすくなります。つまり、パス数を減らすことが外のスペースを攻めるためには重要になります。

また、ハンドリングエラーの確率もパス数が減れば必然的に低くなります。左右でパス数に差がある場合は、パス数が多いサイドのATを選択することでミスの可能性をあげることになります。この状況ではDFは人数の少ないサイドの枚数だけを合わせ、パス回数が多いサイドはシャローDFをすることで対応することができます。ここは上述のパス回数とDFシステムの関係の話につながります。DFが先のような行動を取った場合、実質的には端にBDを作っているのと同じ状況になってしまうので、この時に左右のパス数が均等になるようにポジショニングすることが必要になります。

以上の観点から、BDはどちらかに偏ることなくグラウンドの中央にあることが好ましいです。
また、ATをする際には、全員が機能する位置に立つ必要があります。「11人プレーできるのに何人も死んでいる。」状態では、せっかくの人数に優位な状況も生かすことができません。このことについては別の記事で説明します。

アタックをするリスク/キックを蹴るメリット

ここまでは原則としてATをした方が効果的であるということについて書いてきましたが、キックをするべきシチュエーションもあります。自陣でターンオーバー(T.O.)されるとピンチになってしまうということを踏まえると、以下のようなATするリスクが高い場合はATを選択するべきではありません。

<自陣でATするリスクとなる要素>
・相手のDF、BDが強力でT.Oされる可能性がある
・ハンドリングミスをする可能性がある
Ex. 雨が降っている、パススキルに自信がない、プレッシャーのある試合の序盤など
攻め疲れることでのフィットネスの不安がある
 (一般的に、ゲインライン上で攻防が進めばATのほうが体力が削られます。これは、1.BDキープのために人数をさかなればならない、2.DFは横に移動してセットすればいいが、ATは後ろに下がりながらセットしなければならない、などの理由によります。ゲインを重ねていればその限りではありませんが。)

さらにここにキックをすることによるメリットを合わせて判断をする必要があります。例えば、

・タッチキックを蹴ったら、その相手のラインアウトを奪える確率が高い
相手のキック処理やカウンターやそこからのアタックに脅威がない
・相手とのキックゲームで蹴り勝てる自信がある

などが考えられると思います。
キックをすることのメリットやその再獲得については次の章で説明します。

以上を総合して、キックをするのかアタックするのかの判断をするべきです。

どのようなキックを選択するか

キックとしては3つ考えられると思います
A.ロングキック
B.タッチキック
C.ハイパント

この選択肢の中で、どのキックを選択するかの判断基準は「ボール再獲得のシナリオとその期待値」です。ボール再獲得のシナリオがイメージ出来なければそのキックを選択するべきではありません。

それぞれのキックにおいて考えられるボール再獲得のシナリオの例を以下に示します。

A.タッチに出ないロングキックを敵陣深くに蹴り込む
→相手がタッチキックを蹴る
→敵陣マイボールラインアウトでリスタート

B. 22m内からタッチキック
→相手ボールラインアウト
→相手のATを反則、キックが起きるまで防ぎきるor BDでT.O

C.ハイパント
→競り合いでそのまま再獲得orBDでT.O

A,Cの場合では、相手がカウンターしてくる場合はDFからの再獲得を目指すこともそのシナリオのうちの一つです。

これらのシナリオをイメージする時に、それぞれの再獲得の期待値に影響を与える以下の要素などを考える必要があります。

A.タッチに出ないロングキックを敵陣深くに蹴り込む場合、
敵陣深くに蹴りこめるキック力があるか(風の状況もふまえて)
・22m内にボールが入った時に相手がタッチキックを蹴る可能性

B. 22m内からタッチキックの場合
(L/Oができた後の攻防を意識して)
・相手ATと自チームDFの力差(ターンオーバーできるか)
相手がアタックでミスをする可能性
・フェイズの途中でキックを選択する可能性

C.ハイパントの場合
相手が落とす可能性
味方がキャッチできる可能性
相手のキャッチ後のBDでT.Oできる可能性

ここまでイメージすると、自分たちにとってベストな再獲得のシナリオに持ち込むためのキックの種類は定まるのではないでしょうか。

タッチキックの蹴り方

これは余談ではありますが、Bのタッチキックを蹴る時に意識することについて考えます。
まず、こうしたシチュエーションではエリア獲得のためにキックの飛距離を重視すると思います。この時にグラウンド中央からキックを蹴るか、タッチライン際からキックを蹴るかでかなりリスタート位置が変わってきます。タッチキックを考える場合は以下の図のようなイメージです。ボールの飛距離を一定とした場合、角度とタッチラインまでの距離がリスタート位置を決定します。

キック距離.001

※2本の線の長さは同じです

このようにBDの位置が重要であるため、レシーブした位置によってはボールをタッチライン側のちょうどいい位置へと動かす必要があります。

まとめ

レシーブをする側は、BDの位置によっては大きくゲインするチャンスがあることをふまえ、「アタックをするリスク」と「キックを蹴るメリット」を総合して、アタックをするかキックをするか判断する。キックを蹴る場合は、「ボール再獲得のシナリオとその期待値」によってキックを選択する。このような判断なしにアタックをしたり、キックを蹴ったりすることは推奨されません。
この記事がキックオフレシーブについて考え、情報を収集するきっかけとなれば幸いです。


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