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”ラグビーインド代表監督で得た学び”#15 選手を選ぶ権利
日本ラグビーフットボール協会公認 S級コーチの神宮寺です。
今回は2018年にインド代表監督としてアジア選手権に出場した際のスペシャルな経験から得た学びを綴りたいと思います。私がコーチとして得た学びが皆さんのコーチングを豊かにするお手伝いができたら幸いです。
代表選手を選ぶプレッシャー
監督には選手を選ぶ権利がある。
選ばれる人がいれば選ばれない人もいる、この瞬間は本当に心が痛い。
選手を選ぶ時は覚悟を持って選ぶ。
選考基準はシンプル
「目的とゴールを達成できる、戦える選手」を選ぶだけだ。
2ヶ月弱とは言え、一緒に合宿を乗り切ったファミリーから悲しむ選手が出るのは心が痛い。
今回はインドでの第1クールから第2クールにかけて50人ほどの選手を35人に、更に第2クールからタイへの遠征メンバーは26人を選出した。
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タイへ出発の1週間前に発表した遠征メンバーだったが、メンバーにもれた選手も、タイに出発する直前まで合宿に参加してくれた。
おかげで最後まで15vs15の実戦練習が出来た、彼らには本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
その中でも、印象に残っている選手がいて
彼はとても貧しく支援をうけている選手の1人、私は彼を選ばない選択をしたのだが、翌朝、支援者の1人がホテルに乗り込んできた。
彼の言い分は「彼はラグビーがないと就職もできない、代表に行くことが彼の未来につながるんだ」「金持ちの選手を選んでいるだろう、彼はラグビーがなくても生きていける」。
早朝、部屋の扉をドンドン叩かれすごい剣幕で部屋に入ってきたので、しっかり伝わったかはさだかではないが、私はフィールドでしか評価していない、勝てるメンバーでアジア選手権に行くだけ だと伝えた。
その後、落選者の選手と話をしたが、こんな事を言ってくれた。
選ばれなかったことは残念だが、それが何だって言うんだ。
あなたはベストのチョイスをした、私はベストを尽くした。
それだけのことだ。この経験も人生の一部なんだ。
この選手はもちろん出発の最後まで練習に参加してくれた1人だ。
最後の最後でインドの選手が抱えているものを目の当たりにしたが、私も信念を持って選んだので後悔はない。
そして、成功も失敗も人生のスパイスの1つだということを改めて彼から学び、今後の彼のラグビーライフが豊かになることを祈った。
今回の一連で、インドラグビーには「しがらみ」みたいなものがあって、それらを断ち切るためにも海外のコーチを招聘しているのだと感じた。
代表キャプテンに任命した「ラマ」も、インドでは異例と言われた。
彼は自衛隊所属の選手で自チームでも主将をはっているナイスガイだ。通常ならばインドで1.2位を争うチームから主将が選ばれるのが暗黙のルールだったようだが、彼のようにインド国内ベスト4-8ぐらいのチームで、さらには自衛隊所属選手が選ばれるのはインドラグビーで初めての事だったらしい。
私が選んだ理由としては、第1に、FWの主力が自衛隊所属の選手が多かったこと。第2に、規律があってないようなインドのカルチャーに、自衛隊だけは特別なカルチャーが存在していたから。気性は荒くても、目上の人に対して聞く耳を持つカルチャーがある彼らをうまくコントロールしていたのが、SHかつ自衛隊出身でリーダー経験豊富な「ラマ」だった。
BKには、主将経験豊富な多彩なゴードンやチョトゥーのようなインドでのスター選手も多かったのであまり不安はなく、BKを生かすためのFWが機能する布陣でリーダーを構成した。
FWは磨いてきたセットプレーを重視したサイズ感のあるメンバー構成、(サイズ感はワールドクラス)BKは国内屈指のスピードがあるパワフルランナーを揃え、SHとFBには経験豊富な選手を配置した。能力の高さは相当なもので、もっと良い環境で長期間コーチングしたいものだと常々感じていた。
逞しいFWのメンバー
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スピード感のあるBKのメンバー
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タイに行く直前までゲーム形式の練習は続いた
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インドラグビー協会からも今一番売りだし中の女子レフリーも合流
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白熱した紅白戦、チームのフォーカスポイント最小限に実践を繰り返す
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全員がベストを尽くしてくれたおかげで実りある合宿となった。
One Teamとなってタイで開催されるアジア選手権に旅立った。
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<学びのまとめ>
●ベストを尽くして入れば成功も失敗も自分の財産になる
●選考基準は目的・ゴールを達成するためにフィールド上での判断
●目的・ゴールを達成するために自分の信念を貫くことも大事
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