【小布施町協力隊】森林エネルギーの視察で欧州に行ってきました!
はじめに
こんにちは、小布施町地域おこし協力隊の西野です。いつも見守ってくださりありがとうございます。
去る2月、森林エネルギー施策をはじめとして環境の取り組みを視察するために、ヨーロッパに行ってまいりました。この記事ではフィンランドで見た内容を中心に、視察内容をシェアしていきたいと思います。
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普段の取り組みをご紹介
はじめて私の存在を知ってくださった方もいらっしゃるかと思いますので、まずは普段の私の仕事内容を軽く紹介します。
私は2023年4月に小布施町に移住し、「木質資源の利活用」をミッションとしている地域おこし協力隊です。より詳細には【バイオ炭】と【木質バイオマス熱利用】を小布施町で推進するお仕事をしています。
小布施町では木質バイオマス熱利用の事業が昨年11月にスタートしました。間伐材や剪定枝をチップに砕き、それをバイオマスボイラで焚くことでその熱を「おぶせフラワーセンター」の花苗を育てる温室に使用しています。
このとき、チップを燃焼することでCO2が発生しますが、それらは木が光合成で空気中から取り込んだ炭素に由来するものです。数億年から数千万年の間地中に眠っていた化石燃料を燃やした場合、発生した炭素をまた石油に戻して地中に埋めることは現実に困難ですが、木質バイオマスは森林を成長させることで空気中に発生させた炭素分をまた木に固定させることができます。そうすればおおよそ大気中の炭素濃度を一定に保つことができます。このためには適切な森林管理が大前提ですが、木質バイオマスは炭素の健全な循環を実現するものとして国内で近年再度注目を浴びています。
小布施町としては、ゼロ・カーボン目標達成のためこうした森林エネルギー・木質バイオマスの利用を加速させようとしています。
どうして視察にいったの?
国内では近年注目を浴びている木質バイオマスですが、欧州ではバイオマスエネルギーの利用で先を行っており、例えば熱利用のためのバイオマスボイラの開発・改良が1990年代から既に進められてきましたとのことです。1)
つまり、「欧州に行けば森林エネルギーが社会実装された世界(=私や小布施町の理想像)を一目見ることができるのではないか、ぜひ見たい!」ということでいつもお仕事でお世話になっている方や友人たちに現地の紹介・サポートを受けながら計画を立てました。
結果、おかげさまで今回はフィンランド、スイス、オランダの3ヶ国を周ることができました。冒頭にて言及した通り、最も長く滞在したフィンランドで見て感じたことを一部ご紹介していきます。
ユヴァスキュラの森林と人々の生活
およそ1週間のフィンランド滞在で、移動も含めると3都市を周りました。ヘルシンキ(Helsinki)、ラハティ(Lahti)、ユヴァスキュラ(Jyväskylä)の3都市です。
そのうちユヴァスキュラでは、ヤムク応用科学大学(JAMK University of Applied Science)のマルック教授に視察をコーディネートいただき、2日間に渡りフィンランドの森林についてやユヴァスキュラの人々と森林との関わり方についてご教授いただきました。
マルック教授に教えられてまず驚かされたのは、この人口14万人の街の社会活動・経済活動が森林を中心に回っていることでした。
「ここでは森林がたくさんの産業や学術分野を産んでいる。ユヴァスキュラの企業のほとんどが森林資源(biomass)に関わりをもっている。」
マルック教授のその言葉通り、街中は森林産業の企業や施設が多く存在していました。一番印象的だったのは、熱をつくり供給するボイラ施設(ヒートプラント)です。大小様々ではありますが、2時間弱のドライブでもくもく煙を上げている様子がいくつも確認できました。
これらの施設で作られた熱はパイプの温水に伝えられ、建物に整備されている別の温水循環パイプを温めます。最終的に写真のようなパネルヒーターに伝わり、24時間部屋を温めてくれます。
ちなみにこの写真は実際私がユヴァスキュラで滞在した宿に備え付けれていたものですが、特に音はせず常にほんのり温かく、風が吹き出しているわけでもないので空気が汚れることもありませんでした。厳しい寒さの屋外とは対照的にとても穏やかな気分にさせてくれます。小布施の自分の家にもほしい…
(※補足ですが、温水パネルヒーター式であってもバイオマスが熱源であるとは限りません。実際、フィンランドの他地域や別の国でも同じヒーターを確認することができました。)
また、ユヴァスキュラ市では「パワープラント」を運営しています。このパワープラントでは市内の公共施設や商業施設に向けての熱電供給をしていて、なんとこの1施設で広域ネットワークを担うほど巨大な施設となっています。
水道、ガス、電気のインフラに加えて、熱のインフラ。これほどの領域をほぼ木質チップで賄っている(一部は"ピート"と呼ばれる資源を混ぜて燃焼している)ということで、いかに地域が森林資源で成り立っているかがわかります。
エネルギーの話ばかりをしてしまいましたが、建物にも森林の存在を感じることができました。
ユヴァスキュラ市内の「Hospital Nova」という病院施設は、木材が前面に押し出されたデザインになっており、患者たちがそこにいるだけでストレスを軽減させられるように設計されています。待合のベンチやカフェスペースにもふんだんに木材が活用されていました。
まとめ
ここまで、ユヴァスキュラにおける森林資源の活用についてその一部を見てきました。
森林の力によって街が形作られ、人々が暮らし、大きな経済が作られていました。そしてどれも日本ではあまり見ることのできないものばかりでした。
確かに、フィンランドの国土はほぼ平坦であり、そのことが日本とは決定的な違いを生んでいます。具体的には、フィンランドの森林が平坦なお陰で林業の自動化が発達しています。しかし、かつて林業が国を支えていた時代をもつ私たちでも、フィンランドの森林を中心とする社会からもう一度学び直せることはあるはずです。
帰国した今、改めて日本の林業領域やエネルギー分野に対する理解を深めていくことで、ぜひとも木質バイオマスを活用した持続可能なシステムを小布施町でつくりあげていきたいと思います。「地域の材で温まる町」の実現に向けてがんばります!
【番外編】欧州の公共交通
木質バイオマス事業とは直接は関係ないのですが、ヨーロッパの交通を見て感じたことを番外編としてシェアします。
これは3カ国ともに共通して思ったことなのですが、とにかく公共交通機関が強い。
まず、フィンランドで驚いたのは、鉄道を使って木材が運ばれていること!
こちらの写真はユヴァスキュラ駅で撮影したものですが、丸太が何両にも渡って横長に積まれており、VR(日本でいうところのJR)の線路の上を走っていました。森林の中だけでなく、このように街中でも鉄道を使用して輸送しているのです。マルック教授や前述のパワープラントの方の話によると、フィンランドではトラックでの輸送も主流ではありますが、このように鉄道で丸太が運ばれている様子はとても日常的だそうです。
もし須高小布施地域でも、長野電鉄の線路上を丸太が流れて行ったら、もっと林業が身近なものになるかもしれませんね。
もう一つ語りたいのは、"トラム"です。
日本では富山や宇都宮で近年話題になっているトラム(路面電車)ですが、フィンランド、スイス、オランダいずれでも発達した路線網を拝むことができました。ベルンといった一国の首都から、タンペレというフィンランドの23万人の地方都市まで、規模に差こそあれどバスとともに市民の大切な足となっていました。
「長野駅周辺にもトラムがあればなあ」と今もずっと余韻に浸っています笑
バスよりも一度に多くの人を載せることができるので、渋滞解消や二酸化炭素排出減に貢献できるはずです。(再生可能エネルギーの使用が前提にありますが。)また、地域の足を世代に関わらず平等にしていくという点でも注目かと考えます。
報告会のお知らせ
4/29(月)に報告会を小布施町町内で開催する予定です!
詳細が決まり次第、こちらのnoteや私のSNS等で告知いたします。
もっと詳しく聞きたい!という方はぜひお待ちしております!
補足
参考文献
1) (一社)日本木質バイオマスエネルギー協会(2018)『地域ではじめる 木質バイオマス熱利用』日刊工業新聞社