とある理系の研究室3 配属
某国立大学の理系の研究室の話。
そこそこの大学のそこそこの研究室。国内外の学会にもコンスタントに出ていて、論文もそれなりに出している。活気もそこそこ。古き良き時代の雰囲気を残している研究室。
研究室への配属決定までの話。
どのように研究室配属を決めるのか。
行きたい研究室と行ける研究室は同じではない。
定員の問題がある。皆が好き勝手に行きたいところに行けるのではなく、研究室ごとに定員が存在する。
人数は調整しなければいけない。
「全員が納得がいくように話し合って決めなさい」という方針。
多数決でもなく、成績順でもなく、話し合いで決める。「合意(コンセンサス)形成」という方針。
集団でコンセンサスを得るというのは結構難しい。学芸会で出し物を決めるのに、多数決で決めるのは簡単だが、コンセンサスを得て決める、つまり少数派も納得させて集団の合意として決めるのはすごく難しい。
ある日の夕方に空き教室に学生全員が集められた。
学生指導担当の教官は、方針と、各研究室の定員数、誰がどの研究室に行くかの提出期限、提出期限に間に合わない場合は成績上位者から順に希望を通していくこと、そして、成績値(GPAのようなもの。コース独自の成績指標)の上位5%値、20%値、中央値を告げて去っていった。。。
話し合い1回目。
この時点では、全員キョトンとしていた。
とりあえず、皆で記名式の配属希望アンケートをした。
するとどうでしょう、人数偏りのオンパレードであった。
定員5名に対し希望10名、定員3名に対し希望5名の人気なところから、定員5名に対し希望1名の不人気までさまざま。うまくいかない。人気がないのは総じてブラックと噂のある研究室。
希望の研究室をかけた争いが始まった。
期限内に決まらなければ、成績順で決まる。自分の成績値と集団の中のある程度の位置は分かる。他人のはわからない。競合者同士でちょっとした心理戦が始まる。
何も気にせず強気一点張りのやつはよっぽど成績上位なんだろうなとか、必死に交渉するやつはちょっと成績に自信がないのかなとか。
第二希望には行ってもいいけど、第三希望まで下げるのは避けたいという人も出てくる。
この日はただ競合している人が多いという事実を突きつけられ、次の話し合い日程をきめるだけで解散となった。
話し合い2回目。
1回目から2回目の間で情報収集を重ね、ちょっと妥協する人も出てくる。冒頭にアンケートを取る。票が動いた。
前回、定員5名に対し希望者1名(A君)のみだった研究室に票が流れ込み、逆に定員超過の6名になってしまった。
これが俗に言う「第2希望へ妥協」組の大移動である。
この研究室は、研究内容に派手さは無く地味、昔ながらの雰囲気で学生は実験やゼミがキツい。相応に就職にはかなり強い。情報収集し直してポジティブな面を知った層が動いたか。
ここで、謎理論「前回から第2希望へ妥協した5人に比べ、A君だけ第1希望が叶うのは不公平。A君も皆と公平に第1希望を諦めて別のところに移るべき」が発生。ゲルマン人も真っ青である。ちなみにA君は私だ。
この謎理論が理屈としておかしいと説明し、ことなきを得た。
最低限のコミュニケーション能力があってよかった。
こうして私以外の枠4つを争ってもらうことになり私の戦いは終わった。
他にも各所で協議交渉は続けられていたので、教室の隅から温かく見守っていた。
「俺はこの研究がやりたいんだ」と熱意をプレゼンする者、自らの成績値を公表(ブラフかもしれない)して「皆の衆、俺には勝てないのだから諦めよ」という者、「自分の成績値を一桁ずつ公開しようぜ」とか言い出す者など。明らかに楽しんでる。
時間切れでの成績順に持ち込まれても勝つ自信がある人、自信がない人それぞれの思惑が交錯しながら話し合いは続く。
女子は怖かった。
一番人気の研究室を希望した女子学生b子さんは、話し合いの中で自分の成績値が競合者に負けていることがわかってた。どうやら諦めるしかないようだ。
b子さんは泣き出した。
直面した現実に涙を抑えられなくなった。それを同じ競合者で、かつ成績優秀者の1人であるc子さんが慰めていた。
d子さんは言い放った。
突如、利害関係のない別の研究室希望しているd子さんが、挙手して声高にこう言い放った。
「c子ちゃんは、就活してるって噂で聞きました。院まで行かないってことですよね。b子は院まで行くって決めてます。院まで行かない人がb子の三年間を奪うのはよくないと思います。だから譲るべきだと思います」
学級会かと。お前は委員長か。
メガネすらかけてないじゃないか。三つ編み結って出直してこい。
「A君がb子ちゃんを高見盛ってあだ名で呼んで泣かせていました。謝ってください」と同じトーンであった。
院に行かずに就職するのはかなり少数派なので、人気の枠を学部までの人が埋めるのはどうかという点について言いたいことはわかる、が、本人同士で話させなきゃダメだろ、お前がドヤ顔で声高らかに言うなよと。
理不尽に糾弾されてしまったc子さんも泣き出してしまい、号泣2人、ドヤ顔1人というカオスな状況で、時間いっぱいとなり、後日仕切り直しとなった。
話し合い3回目
揉めてる人達だけで実施したらしく不参加なため詳細は不明だが、一応皆が納得する形で決まったらしい。理系女子達は、結局b子さんが諦めたようだ。
配属決定までの顛末はなかなか刺激的だった。
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