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『彼と私の本棚』(『さがしもの』より)

『彼と私の本棚』(『さがしもの』より)


一言で言えば、物質と人間の結びつきとその分離の困難さに焦点を当てた物語。そして、恋愛感情の背景にある問題は、「本」だということ。

二人は本好きであり、共同で作り上げた本棚にはそれぞれの本があり、物理的・精神的に共有されていた。しかし、別れることになった時、本を分ける作業が進展しない。

本には、着るものや使うもの以上に、読む人の気配が色濃く残るものなのかも知れない。

「記憶も本もごちゃまぜになって
 一体化しているのに、それを無理矢理引き離すようなこと。すでに自分の一部になったものをひっぺがし、永遠に失うようなこと」。

一緒に生活することで、自分と相手がいろいろなものを共有する。「私」にとってハナケンの本は、彼の一部でありながらも、同時に私を構成する要素の一つでもある。本は記憶と一体化しており、それを引き離すことは自己の一部を奪い、永遠に失うことにつながるということ。

「私」の本棚の空いた空間に、次はどんな本が埋められていくのか?そんな期待を持たせて物語は幕を閉じる。

この物語の主題は何か?
本というものは、人に大きな影響を与えるということ。本が人間関係の象徴となり、それを分けることの困難さや悲しみは、人間が社会的な存在であり、他者との関係性を通じて自己を定義するということなのだと理解した。

Kindleとかだと、こういう趣きは、感じにくいかもしれないけど、本だと、自分が読んだその本は、他の本とは、違って見える感覚は、よくわかる。

本はなかなか捨てられないね。
stella jang under caffein

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