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『忘れ得ぬ人々』
『忘れ得ぬ人々』
国木田独歩著
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無名の小説家、大津弁二郎と画家の秋山松之助が溝口の旅館で出会い意気投合するという物語。
大津は、自分が書いていた原稿、『忘れ得ぬ人々』のことを語りだす。それは、彼が過去に出会った、何のつながりもないが忘れられない人々の話。一人目は孤独な島で漁をする男、二人目は阿蘇山で見た馬子、そして最後に夏の四国で出会った憂いを帯びた琵琶僧の話。
「忘れ得ぬ人々」とは?
恩も義理もないただの他人なのに、忘れてしまっても普通は省みられない人間関係や義務を疎かにせず、しかも一度も忘れることができないような人。
この物語の主題は何か?
大津が、様々な旅先で出逢った、「忘れ得ぬ人々」とは、一言で言えば、神様から与えられた使命に気付いて、淡々と、その使命を全うしている人々。
大津は、「忘れ得ぬ人々」というテーマで、物語を書くという使命を見つけていたのに、進むことができないでいた。それは、人々から、共感してもらうことを望んでしまっていたからなのだと思う。
自分に与えられている使命は、淡々と全うすることなのだけどね。
大津は、回りの評価を気にしてしまうがために「忘れ得ぬ人々」を先に進めることができないのだった。
大津が、原稿に書き加えた人は、意気投合した、画家の卵の秋山では、なく、溝口の旅館の主人だった。
自分がやるべきことは何なのか?
若いうちは、なかなか、分からないものなのだけどね。何でもできそうな気がするし、実際、何でも出来る可能性はあるのだから。
でも、おそらく、ひとはそれぞれ、固有の役割というか、使命が、与えられているのだと思う。
生きている限り、その使命をひたすら全うすることが、幸せなのだと思う。
枯葉