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2024年6月の記事一覧

【読書ノート】『サイリウム』(『家族シアター』より)

【読書ノート】『サイリウム』(『家族シアター』より)

『サイリウム』(『家族シアター』より)
辻村深月著

ビジュアル系バンドに夢中な姉とアイドルにはまる弟が、お互いの趣味を理解できず、お互いをオタクだとして、バカにしあっている。ところが、ある出来事を通じてお互いの価値観を尊重し合うようになるという話。

物語の主題は何か、本短編集は共通して、家族がテーマ。表面上姉弟ケンカはあるのだけど、深いところでは、お互いのことを心配し合っているということ。

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【読書ノート】『愛の彼方の不変の死』

【読書ノート】『愛の彼方の不変の死』

『愛の彼方の不変の死』
ガルシア・マルケス著

上院議員オネシモ・サンチェスが死を控えた状況で、彼の人生を変える女性と出会う物語。彼は医者から死を宣告された後、生きる意欲を失い、自らの運命に対する怒りや涙を経験する。

主な登場人物の名前が意味すること

①オネシモ・サンチェス
キリスト教の観点から見ると、変化と成長、そして奉仕の精神を象徴する人物像であると考えられる。オネシモは新約聖書に登場する

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【読書ノート】『泥濘』(『檸檬』より)

【読書ノート】『泥濘』(『檸檬』より)

『泥濘』(『檸檬』より)
梶井基次郎著

主人公の奎吉は、実家から送られてきた為替を現金に替えるため、雪の中、本郷に向かうところから、物語は始まる。

本郷への道のりは、泥の沼にでもはまっているかのようで、嫌な妄想が不意に「自分」の頭を擡もたげてくる。そして、妄想は「自分」を弱く惨みじめにする。

泥濘(でいねい)とは?
雨や雪解けなどで地面がぬかっている状態を指す。人生の困難や苦悩、精神的な停滞

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【読書ノート】『的になった七未』(『木になった亜沙』より)

【読書ノート】『的になった七未』(『木になった亜沙』より)

『的になった七未』(『木になった亜沙』より)
今村夏子著

七未には、どういうわけだか、特殊な能力がある。幼稚園の頃、どんぐりを投げられても、七未にだけは、当たらない。小学校で、ドッチボールをしても、七未だけは、当てられない。いつも、まわりのひとたちの標的にされてしまうため、逃げ回るという人生を歩んでいた。

なかなか、よくわからない今村夏子ワールドの物語なのだけとね。

キーワードを挙げてみる。

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【読書ノート】『冬越しのさくら』(『ぎよらん』より)

【読書ノート】『冬越しのさくら』(『ぎよらん』より)

『冬越しのさくら』(『ぎよらん』より)
町田その子著

女性の葬儀ディレクターの相原は、仕事中毒のように、仕事に打ち込む。相原が中学2年の頃、母親が、他界し、その葬儀を取り仕切ってくれた、作本というベテランの葬儀ディレクターに出会ったことが、相原が、葬儀屋に就職するきっかけとなっていた。

そんな、作本が、亡くなり、相原は葬儀を準備するというところから、物語は始まる。

"冬越しのさくら"とは?

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【読書ノート】『夜が明けたらいちばんに君に会いにいく』

【読書ノート】『夜が明けたらいちばんに君に会いにいく』

『夜が明けたらいちばんに君に会いにいく』
汐見夏樹著

幼少期のトラウマで、自己主張することをやめた茜。そんな茜の本来の姿を見抜いている青磁は、茜のことを「嫌いだ」とはっきり言うところから物語は始まる。

実は、茜は、人前ではマスクを外すことができない。マスク中毒の症状がある。自分の本心を隠さなければならないと思ってしまう闇を抱えていた。コロナ前の作品で、マスクがさほど一般的ではなかったわけで、現

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【読書ノート】『蜂蜜パイ』(『神の子どもたちはみな踊る』より)

【読書ノート】『蜂蜜パイ』(『神の子どもたちはみな踊る』より)

『蜂蜜パイ』(『神の子どもたちはみな踊る』より)
村上春樹著

純平は36歳で短編小説を書く作家。ある日、純平は、大学の頃からの友達で、一人で子育てをしている小夜子から家に呼ばれる。小夜子の家には、5歳の沙羅がいて、神戸の地震があってから毎晩、怖い夢を見て困っていた。その夢では、「地震男」というおじさんが沙羅を小さな箱に入れようとするのだという。

なかなか、よくわからないので、

いくつか、キー

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【読書ノート】『夜明けのすべて』

【読書ノート】『夜明けのすべて』

『夜明けのすべて』
瀬尾まいこ著

PMSで苦しむ美紗とパニック障害の山添の二人が、アットホームな町工場という職場で出会い、お互いを思いやりながら、少しずつ回復していくという物語。

何とも、良い人しかいなくて、非常に暖かい物語。

昔、お局さんみたいなおっかない女性が、派遣の人でいたのだけど、その人は、いま、思えばPMSだったのだろうなあみたいなことを考えながら読んだ。

知人で、パニック障害を

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【読書ノート】『親友の心得』(『ツナグ』より)

【読書ノート】『親友の心得』(『ツナグ』より)

『親友の心得』(『ツナグ』より)
辻村深月著

主人公(私=嵐美砂)には、自分のことをいつも持ち上げてくれる演劇部の友人美園奈津がいた。
高校2年生の秋、三島由紀夫の『鹿鳴館』という演劇の主役のオーディションが、あった。私は当然自分が主役だと確信していたのだけど、どういうわけか、美園が主役に立候補したのだった。私には、その態度が許せなかった。えんげきでは、私には敵わないといつも言っておきながら、抜

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【読書ノート】『スパイの妻』

【読書ノート】『スパイの妻』

『スパイの妻』
行成薫著

物語の時代背景
太平洋戦争前夜の日本。街中を軍人が闊歩し、国民生活が、少しずつ制約を受けはじめた時代。

福原聡子は神戸で貿易会社を営む夫・優作と幸せな日々を過ごしていた。そんなある日、優作は、甥・竹下文雄と満州に出張する。そして、満州で、草壁弘子と言う看護師から重大な機密情報を知らされる。日本軍は細菌兵器としてペストを使った人体実験を行っていたという。優作は、コスモポ

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【読書ノート】『ネオンテトラ』(『スモールワールズ』より)

【読書ノート】『ネオンテトラ』(『スモールワールズ』より)

『ネオンテトラ』(『スモールワールズ』より)
一穂ミチ著

評判が良い物語なので長いこと積読状態だったのだけど、ようやく読むことができた。

主人公(美和)は、30歳で、モデルをやっている。なかなか子どもが産まれず、夫(貴史)は、頻繁に浮気をする。住んでいるマンションでは、ネオンテトラを飼っている。そして、時々姪っ子の有紗が訪ねてくる。

ある日、マンションのベランダで立っていると向かいのマンショ

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【読書ノート】『夏の灯』(『ギフト』より)

【読書ノート】『夏の灯』(『ギフト』より)

『夏の灯』(『ギフト』より)
原田マハ著

数ページの短い小説。
編集プロダクションという自分の好きな仕事に就いている彼は、仕事が忙しくて、なかなかデートが、出来ない。デートしたとしても、徹夜明けだったりして、デートにならないことが多かった。
そんなことの埋め合わせをしようと彼がある演出を考える。

キーワードを挙げてみる。

①蛍≒夏の灯
日本では、蛍はしばしば霊魂や再生の象徴とされいる。平安時

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【読書ノート】『君を愛した一人の僕へ』

【読書ノート】『君を愛した一人の僕へ』

『君を愛した一人の僕へ』
乙野四方字著

パラレルワールドのファンタジー恋愛物語で、面倒くさそうで、しばらく積読状態だったのだけど、物語は爽やかで、美しくて驚いた。

『君を愛した一人の僕へ』と『僕が愛したすべての君へ』は、別の物語では、あるのだけれど、登場人物は重複するいわゆる、パラレルワールドの関係になっていて、強く繋がっている。

この二冊は、両方読んではじめて物語は、完結するというか、いろ

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【読書ノート】『変身』

【読書ノート】『変身』

『変身』
カフカ著

ある日グレゴールは、巨大な虫になったところから物語は始まる。

日常の中で起こる不可思議な現象。グレゴリーの家は、父親が事業に失敗してどうにもならない状況だったところ、グレゴールは、仕事で頑張って一家を支える大黒柱になっていた。そんなさなかに、家族からきみ悪がられる虫になってしまった。

物語をどう理解するか?
ある批評家は、この物語のグレゴールは、ユダヤ民族の象徴だとしてい

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