歌詞から小説|ただ君を思うだけで、こんなにも胸が痛むのに
どもども、明原星和です。
今回は、ボカロPである164さんの曲である「天ノ弱」の歌詞を元に小説を執筆してみました。
とても素晴らしい曲となっておりますので、是非とも曲を聞いてから読んでいただけますと幸いでございます。
それでは、どうぞ。
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窓にパラパラと、雨の雫が当たっている。
ベッドに横になっている僕は、暇でただボーっとスマホに流れた好きな配信者の動画を見つめていた。
今まで忙しくて動画を見る暇なんてなかったから、溜まっていた動画を消化することができてラッキーだな、なんて薄っすら微笑みながら思う。
意識も、視線も。動画に集中している。
しているはずなのに、どこか頭の片隅で、思い出したくもない彼女の声が響いている。
「君は、私以外の人と幸せになってね」
つい先日まで恋人関係にあった彼女。今となっては、他人同士になってしまった彼女。
恋人時代もそれ以前も、僕らの仲はとても良好なものだった。
好きな物も、趣味も、やりたいことも。合わない物を探す方が難しいほどに、僕らの好みは一致していて、相性は最高だった。
君に「運命の相手だと思った」なんて、クサい告白台詞を言った時、お腹を抱えて笑っていたっけ。
だけど、相性だとか運命だとか。どれだけそれらが良かったとしても、僕たちは二人でいることが叶わなかった。
別に、もう別れたんだし、他人になったんだ。
今更、彼女のことなんか考えていないし、思い出したくもない。
……ただ、願わくば ”他人” じゃなくて ”友達” に戻りたかった。
こんな思いをするなら、友達のままでいた方がよかった。
どうせ失う運命にあるんだったら、君からの愛なんていらなかった。
「クソッ――」
頭の片隅にあった感情が、膨れ上がって意識を支配していく。
スマホから流れる動画の音声が煩わしく感じてしまい、電源を落としてスマホを枕の下に隠す。
「君は、私以外の人と幸せになってね」
別れ際、彼女から発せられた言葉だけが、僕の頭の中をグルグルと巡る。
いつの間にか、僕の頭は彼女のことでいっぱいになっていた。
――君は今、どこで何をしているの?
――君は今、何を思っているの?
――君はもう、僕のことなんか忘れてしまっているの?
――君にとって僕は、言葉一つで別れられる程度の存在だったの?
彼女のことをただ思うだけで、僕の胸はこんなにも痛んでしまう。
彼女も、僕のことを思うだけで胸が苦しくなったりするのかな。
苦しくなってくれると、いいな。
僕が今抱いているこの感情は、愛なのだろうか? 執着心なのだろうか?
わからない。周りの友人たちは「新しい恋をすれば忘れられる」と言うが、僕にとって彼女は、そんな簡単に捨てられるような存在じゃないんだ。
こんな風に、過去に縛られて進めないのは、僕だけなのだろうか。
もしかしたら、彼女にはもう別の恋人がいるのかもしれない。今まで僕に向けてくれていた愛情を別の誰かに向けているのかもしれない。
そんなことを考えるだけど、気が狂いそうになってしまう。
「君は、私以外の人と幸せになってね」
どうしてそんなことを言うの、と思った。
僕は、君以外じゃダメなんだ。
他の誰でもない、君を愛したい。君と一緒に痛いんだ。
その言葉を立ち去る君の背中に向けて言えていたら、もっと違う結果になっていたのかな。
……いや、あの場でどんな言葉を掛けても結果は変わらなかったに違いない。
私以外の人と幸せにって。
僕には、君に渡すはずだった愛を誰かに譲るなんてことはできない。出来るわけがない。
枕の下に隠してあったスマホが通知により振動し、僕はすかさず手に取って画面を見つめた。
もしかしたら、彼女からメッセージが飛んできたのかもしれない。と、彼女と別れて以降、通知が鳴るたびにあるはずのない期待を抱いてしまう。
だけど、そんなことあるわけもなく、僕は力なくスマホをベッドの上に落とした。
もう一度、会って話がしたい。
もう一度……もう一度だけ、僕に機会をください。
もう一度だけ、君に好きだと言わせてください。
彼女と別れた日から、僕は彼女からの言葉を待ち続けている。
もっと早く、自分の気持ちに素直に鳴れていたら。彼女に素直な言葉をぶつけられていたら。
もっと違う結果になっていたのかな。
「もう……無理だよ」
窓には、雨の雫が変わらずパラパラと当たっている。
痛む胸をギュッと握りしめながら、僕は思う。
僕は、天性の弱虫だ。
~END~