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好きとやりたいを諦めないことを教えてくれたオーケストラ

友人の加入するアマチュアオーケストラの定期演奏会を鑑賞してきた。
行ってよかった。それが今の感想の全てだ。誘ってくれた友人に感謝したい。
演奏は、控えめに言って、めちゃくちゃすばらしかった。

来週に仕事で大きなイベントを控えていて、それがうまくいくかどうか心配で、今週末はずっとそわそわしている。自宅にいると、職場のサーバーにアクセスして未完了の作業の進捗を確認したり、最悪の結果を妄想したり、月曜日の作業スケジュールを何度もシミュレーションしたり、頭が忙しい。
だから、気分転換のために出かけることにした。

秋晴れで気持ちがいい。
演奏会会場の市民会館へは、自宅から車で1時間ほどかかる。
青空の下、車を走らせる。信号待ちで歩道に目を向けると、青空を背景に、色づき始めた木の葉が黄金色に光って見えた。昼間はまだ暑いけれど、秋はちゃんと来ている。

コロナ前には、プロアマ問わず、県内で開催される様々な音楽コンサートに足を運んだ。だけど、コロナ以降は、公演案内のチラシはたびたび目にするものの、なかなか重い腰が上がらなかった。
自宅から遠いこの市民会館にいたっては、場所すら忘れてしまっていた。

600席ほどのこぢんまりとしたホールで、半分弱ほどの席が埋まっていた。
舞台上に演奏者が座り、コンサートマスターと指揮者が登場すると、静かに演奏が始まった。

今回のコンサートのテーマは「スペイン」で、スペインにまつわる楽曲、作曲家の曲を演奏するという趣向だった。

友人はファゴット奏者。彼女の演奏を初めて見た。髪をまとめて、黒のシャツとパンツに身を包み、真剣な面持ちで大きなファゴットを演奏している。いつもほんわかした雰囲気の友人の別の面が垣間見えた。とてもかっこよかった。お互い本好きで、会うと本と推しの話ばかりしているが、彼女の本業は演奏家なのだということを、今日実感した。

はっきりいって、クラシックのことはよく分からない。学校の授業で学んだことと、マンガの「のだめカンタービレ」の知識で止まっている。どの辺が曲のキモなのかとか、演奏が上手いとか下手とか、全然分からない。
「明るい曲だな」とか「〇〇ぽいな」と感じる程度だ。知っている曲があればテンションが上がるし、知らない曲でサビ(?)がないと眠くなる。
「にわか」とすら言えない、ただのミーハーである。

でも、今日の演奏はすばらしかった。
まず、テーマがよかった。「スペイン」をテーマにいろんな曲を聴かせてくれた。スターウォーズみたいな映画の音楽のような壮大な感じもするし、ジプシーのような流浪の民が哀愁を漂わせながら歌い踊っているように感じて、曲のバリエーションが多彩だった。
超有名で、私が高校時代の音楽の授業で知って以来大好きな「カルメン」をやってくれたのには、心が湧いた。
バイオリンを普通に弾くだけでなく、指でつまびいたり、ギターのように抱えて弾いたり、いろんな演奏方法があって興味深かった。

何より、演奏者の皆さんの演奏に対する熱意が、本当に素晴らしかった。
最初の曲では緊張した面持ちに見えた演奏者の方々だったけれど、曲が進むにつれ、どんどん緊張がほぐれていくのが分かる。演奏を心から楽しんでいるのが、観客のこちらにも手に取るように分かるのだ。
最後の曲は、出だしから、テンポの速い、小さな音符が次々と音になって飛んでいくよう。きっと相当難しい曲ではないかとお察しする。でも、そんなのもなんのその、とにかく楽しく演奏している、音楽が好きだ、楽しい! という気持ちが音符と一緒に飛んでくる。抑えたメロディでは、その熱をぎゅっと内に抑えて、抑えて、ついに最後に爆発。バイオリンの弓を引く腕がものすごいスピードで動いている。見ているこちらも興奮した。

まるで赤い炎だ。そう思った。
舞台上に「この演奏が楽しい!」という真っ赤な炎が見えた気がした。
好きの赤い炎。舞台が照明の明るさ以上に明るく燃えていた。

「ブラボー!」と叫ぶ勇気はなかったが、手が痛くなるくらい拍手をしながら、心の中でスタンディングオベーションして「ブラボー!!」と叫んだ。

好きなことに対する熱意はプロもアマチュアも変わりはない。一生懸命練習して披露する。その熱意に感動する。上手、下手の問題ではない。

「世の中に自分より出来る人がたくさんいるのに、私がやる意味ってなんだろう」
最近、よく考える。
プロの文章を読んだり、プロの演奏を聴いたり、プロの演じる舞台を見れば、それで消費者は十分満たされる。なのに、私のようなアマチュアが拙い作品を世に出して、一体誰が楽しんでくれるのだろう。

今日観たアマチュアオーケストラの皆さんは、心から音楽が好きなのだと思う。きっと忙しい仕事や家事の合間を縫って練習に励んで、今日に臨まれたことだろう。大変な日もあったと思う。そのご苦労に頭が下がる。
おかげで私はこんなにもすばらしい演奏を体験することができた。

「才能を私物化するな」とは有名な経営者の稲森和夫の言葉だと聴いたことがあるが、「一人一人に何かの才能があって、それを自分の私利私欲のために使ってはいけないよ。人の為に使いなさい」という意味だそうだ。
当然、才能の大小は当然ある。だからといって「私なんか」と出し惜しみしてはいけない。小さな世界でいい。努力して周りの人に表現することで、誰か1人でも役に立ってくれればそれでいいんだ。
そもそも、才能なんてなくたっていい。
「好き!」「やりたい!」それが原動力でいいのだ。
できるはきっと後からついてくる。

このオーケストラは2014年にできたそうだが、設立の中心となったメンバーは、大学のオーケストラ部OBだそうだ。その大学は私の母校。
実は、大学に入学した当初、オーケストラ部に入ろうかと迷ったことがあった。未経験だったけれど、バイオリンが弾きたかった。でも、我が家の状況や自分の持病など諸々の理由で諦めた。今日、オーケストラの演奏を聴きながら、やらずに諦めたことを後悔した。とにかくやってみればよかった。それで無理だったとき辞めればよかった。もしかすると、続けられていたかもしれない、私も今日の舞台に立っていたのかもしれない・・・・・・。なんて、今更、詮無いことを思ったりした。

だからやっぱり「好き」と「やりたい」は、諦めちゃいけない。もう中年になってしまったが、今日改めてそう思った。とてもいい日になった。

阿波オーケストラのメンバーの皆さん、素晴らしい演奏をありがとうございました。
「コロナ禍で解散を検討したこともありました」と指揮者の方があいさつでおっしゃっていましたが、辞めないでくださってよかったです。また来年も期待しています。


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RUMI
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