浴衣が欲しいのだけれど
もう20年近く前になるが、夏になると、大塚国際美術館で「浴衣の日」というイベントが催されていた。その日は、夕方以降に浴衣または甚平などで美術館を訪れると、入場料が無料になるのだ。
大塚国際美術館の入場料は3000円。日本の美術館としてはかなり高額の部類に入ると思う。それがなんと無料になる。なんと大盤振る舞いなイベントだろう。タンスの肥やしになっていた浴衣を引っ張り出して出かけた。
この日の大塚国際美術館は圧巻だった。
展示されている無数の名画の陶板は、いつもどおりすばらしいのだけれど、何よりすばらしかったのは、そこは「浴衣ワールド」だったからだ。
無料に惹かれた来館者で、館内は押し合いへし合いの大混雑。その誰もかれもが、浴衣や甚平を着ていた。
下駄や草履を履いた色とりどりの着物姿の老若男女が、ヨーロッパの名画を堪能しているのだ。天井まで届きそうな大きな絵を見上げる男女。モナリザの前に集まった人たち。ムンクの顔真似をする男の子を見て笑う父親と母親。フランス印象派の絵の回廊をそぞろ歩く中年女性の一団。その誰もが思い思いに着こなした浴衣の甚平姿で歩いている。
なんとも不思議で、ゴージャスな光景だった。
毎年、この浴衣デーを楽しみにしていた。ある年は家族4人で、ある年は夫と二人で、ある年は友人数人と行った。
おかげで浴衣を着る楽しさも知ることができた。
混雑するところには極力行かない人間なのだけれど、この浴衣の日だけは、堂々と浴衣を着られることと、他の人の浴衣姿が見たくて、毎年出かけた。でも、残念ながら、数年後、浴衣の日は終了してしまった。
最近ずっと着物をおしゃれに着こなす若い女性のYouTube動画を見ている。ワンピースの上に来たり、ブーツやベルトと合わせたり、なんとも自由に着物を着こなす若者たち。とても、うらやましい。
アラフィフのおばさんはそんなふうには着られないけれど、彼女たちに少しでも近づきたくて、手始めに浴衣が欲しい。
買うならどんなのがいいだろう。
白地に紺の大きな花柄かな。いや、藍染めに白い小紋もいいな。長襦袢に伊達襟、帯締め、足袋を合わせて着物風に着てみたいもの。帯は銀座結びにして、粋な女風とかいいなあ。
せっかく買うのだから、長く着られる良いものがほしい。
そういう視点でググってみたら、結構良いお値段。
それに、着ていくところが思いつかない。
もちろん花火大会や阿波おどりといった大イベントはあるけれど、浴衣を着ているのはほとんどが若い男女か子どもたち。
自意識が過剰なので、そういうところに浴衣で一人乗り込んでいく勇気がない。浴衣の日みたいに老若男女誰も浴衣を着るイベントがあれば、堂々と着ていけるのになあ。
などど考えてしまって、まだ買えずにいます。