
グミ2個分の違和感
なんてことはない休日出勤の日。
事務所には3人しかおらず、大してやることも無いので、みんなでおやつでもと隣の薬局でお菓子を買ってきた。
大袋のグミ。5,6個ずつ個包装になっているバラエティーパックのようなものだ。
おやつでーす、と差し出すと、その人は「あざぁす」と言って2個取った。
初手で2個行く?
いや全然いい。余るだろうなぁと思っていたし、いくらでも食べて!という気概でもある。ずっと残ってるより今日捌けてくれた方が全然いい。
ただ一瞬、「怖……」と思ってしまった自分がいた。
なんだろうこれは。
得体の知れないものを前にすると、人はこういった恐怖を覚えるんだろうか。前の職場でも、お菓子の差し入れやおやつの交換会みたいなものはちょくちょくあった。(今の会社は全くと言っていいほどない。そこまで全員仲良くない)
しかし、お菓子を差し出されたときに初手で2個行く人に今まで会ったことがなかった。
不思議なもので、こうして文章にすると、なんてことのないように思えてくるものだ。
2個いく人もいるだろ、という気になってくる。
しかし、ほんの一瞬感じた小さな違和感に、覚えがあった。
強い動悸がした。
昨今話題に上がる「モラハラ」、「食い尽くし系」といった類の人間は、しばしば正体を隠して生息している。
ただし、違和感というものは付き纏う。それは生きてきた環境であったり、個人の持ち得る倫理観であったり、道徳心のようなもの。それらが、ほんの少し、数ミリ単位で嚙み合わない瞬間が出てくるのだ。
告白して付き合えたと思った相手に彼女が3人いたり、夫のモラハラと暴力で鬱になって離婚したり、親友にお金を貸したらとんずらされたりするような人生だが、特に人間不信になったり、人を嫌うようなことはなかった。
明日出会う人が悪人である確率なんて、誰にも分からないのだから、と。
しかし気づかぬうちに、「違和感」を感じ取るセンサーは研ぎ澄まされていたのかもしれない。事実、上記で挙げた三種類の人間たちにもそういった違和感はあったのだ。当時の私が気付かなかっただけで。
たかだがグミを2個取っただけで、「こいつはやばい」「関わらないようにしよう」と避けるほどの確証はないし、そんなポコポコ人を避けてたらこっちがヤバいやつになる。
ただもし、その人と深く関わるような、一歩踏み入ったり踏み入られるような局面が訪れた時。
グミ2個分の「違和感」は、忘れないでおきたい。