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VISION最後の『MODERN DISCO』を終えて

VISIONでは最後となる『MODERN DISCO』の夜を、一番長く見つめた客は私だと思う。ドキュメンタリー映像に収録されるインタビューを撮るため、早々に渋谷へと向かった。最後にクラブで遊んだのは半年前、TYO GQOMを目当てに行ったCONTACT。もう遊び方も思い出せなくなってきている。さまざまな緊張に襲われながら道玄坂を歩く。

SOUND MUSEUM VISIONは、2011年10月8日のオープンから約11年間に渡って営業してきた渋谷を代表するクラブだ。『trackmaker』や『TECHNO INVADERS』をはじめ、たくさんのビッグパーティーを生んできた。2022年4月に「道玄坂二丁目南地区第一種市街地再開発事業」による入居ビルの取り壊しと閉店を発表。同年9月3日が最後の営業日となり、同じビルに入っていた同系列のCONTACTも17日をもって営業を終了した。

『MODERN DISCO』もVISIONを支えてきたパーティーのひとつ。YOSAとTAARがレジデントを務め、ハウスにもテクノにも、もちろんディスコにも振り切らないMODERN DISCOという概念を提唱してきた。 

私が初めて『MODERN DISCO』に行こうと思ったのはなぜだったのだろう。あの頃は結構気が触れていて、ひとに誘われるままふわふわとさまざまなところに行っていた気がする。そのなかにクラブ遊びがあった。本格的にクラブで遊び始めたのは22歳のとき。クラブで出会った人たちと比べても少し遅かったかもしれない。

当時は自意識ばかりが育っていて、遅めのクラブデビューにも、踊るという目新しい行為が出現したことにも落ち着かない気持ちがあった。いろいろな、それはもういろいろな無理をしながらクラブへ通いだし、少しずつ楽しさもわかってきたあたりで『MODERN DISCO』へ行った。ひとりだったと思う。 

そこで出会ったのがDJ/オーガナイザーのSHOGOだ。知り合いがいないことを話すと、その場にいた彼の友人たちを紹介してくれた。名古屋から遠征して来ている人たちばかりで、名古屋のパーティーや箱のこと、東京との違い、『MODERN DISCO』の楽しいところを初対面の私に話してくれる。そうやってみんなで集まって乾杯していたかと思えば、すぐに各々フロアへ踊りに行く。クラブはひとりで来てもこんなに楽しいのかと、いよいよわかってきた日になった。そしてのちに、これが『MODERN DISCO』のいつもの姿なのだということもわかった。

SOUND MUSEUM VISION

2022年7月17日。VISIONでは最後となる『MODERN DISCO』の日であり、SHOGOさんの目標だった『MODERN DISCO』メインフロアでのDJが叶う日でもあり、私にとって半年ぶりのクラブ遊びになる。久しぶりに行くならいくらか安心して行ける『MODERN DISCO』がいいと思っていた。クラブから足が遠退いてしまったからこそ、「いつものパーティー」のあるありがたみを知った。

初めてオープン前のクラブに入る。インタビュー映像を撮り終え、メインフロアへ向かうと演者たちが集まっていた。いつも遊びに行くだけのパーティーは、こんなに早い時間から作られているのだ。久しぶりに見る顔もちらほら。どこのとはいわないが後輩の、Jimbaeで歌っている千葉くんに会う。Yuebingちゃんや、NEISHI Bros.のふたりに会う。そしてSHOGOさんとのでっかいハグ(ほかに言い表せる言葉はない)で始まるパーティー。なんて嬉しい夜なんだと思った。私の『MODERN DISCO』総集編みたいだ。

インタビュー映像にも残っているように、オープンを待つ人たちが道玄坂に行列を成していた。SHOGOさんがこの日最初の音を始める。DJとしてもフロアで踊る客としても、彼以上にパーティーを楽しんでいる人を私は知らない。彼のDJで踊っているあいだ何度も涙腺が緩んだ。実は、インタビューを撮っているときにも泣きたい気持ちがあった。何が私をそうさせているのだろう。やはり愛と、「これからどこで遊べばいいのかわからない」という気持ちからだろうか。

Jimbaeのショットライブを見にフロアを移動すると、オープン直後にもかかわらずたくさんの人でフロアが埋まっていた。この日のDEEPは別のパーティーが行われているかのようで、このフロアにはこのフロアの客がついているように見えた。それでいて『MODERN DISCO』と断絶されているわけではないのだ。これがDEEPのブッキングを担当したRe.のパーティー作りということなのかもしれない。

Jimbaeの千葉くんからは『MODERN DISCO』で遊ぶのは楽しい、自分たちも出演したいという話を聞いていた。それがBlock.fmのラジオで曲が紹介され、今回の出演が決定し……とこちらもひとつ目標が叶う日。予想していた通りJimbaeの曲はパーティーに合っていて、VISIONのDEEPでライブをするふたりを見られてよかったと思った。踊れる曲に日本語の歌が乗っている嬉しさなんて、人生に何回あったっていい。

WHITEもまた、メインフロアと別物のようで密接しているパーティーをしていた。Yuebingのライブセットのせいでそう見えたのかもしれない。Yuebingはコロナ以降にリリースする曲がぐんぐんよくなっている気がする。もともと持っているものと、これまでに作ってきた曲の要素と、彼女の好きな音楽がいい塩梅で混ざってきたように聞こえる。

曲を聴いたことのある人にはどういうことになってしまうかがわかると思うが、ライブセットを見ている人たちがあまりにも楽しそうというか、はちゃめちゃになっていた。こんなにも楽しいライブセットはあまり出会えない。続いてNEISHI Bros.、そしてTAROを挟んでIkalazerと名古屋勢がたびたびフロアをロックしていて、私はもはやどこのフロアにいたらいいのかわからなくなり、すべては見られないということに小さい絶望すら感じていた。今も、サイズの問題で見たものすべてを書くことはできないと気づいてショックを受けている。

その間メインのGAIAもずっと満員だったことは言わずもがなだろう。海外からのゲストを目当てに『MODERN DISCO』へ来る人も多いはずだ。当時VISIONのマネージャーとして『MODERN DISCO』を生んだ松鶴さんが、インタビュー中にこう話していた。

「『MODERN DISCO』で初来日するアーティストは多かったです。最初にDariusが出演したときは、こんなに盛り上がるのかと衝撃を受けました。来日の需要はあるのに企画する人たちがいない、東京のクラブシーンでぽっかりと穴が空いていたところに、『MODERN DISCO』がいい受け皿になったと思います」

この日もTodd Terjeの時間帯には踊るのに苦労するくらいの人が入っていた。だが、『MODERN DISCO』は一番いい時間帯のゲストで燃え尽きなくてもいいのだ。このあとにはYOSA & TAARが待っている。Todd Terjeが終わっても大半の客が残っているのを見て、いつもこうだったと思い出した。フロア全体を見渡せる場所で、その様子を見ていた。

inkyo:「そこにいる人たちが誰のなんて曲で踊っているか」にも興味はあるけど、曲だけに人が集まっているわけじゃないと思うんです。「なぜクラブは人を集めるのか、そこにはどんな楽しさがあるのか」ということのほうが、わたし個人としても興味があるから、クラブで遊ぶ人の声を残していきたいなって。

勢いと協働、メディアとコミュニティ - 『クラブと生活』の実践/inkyo・wanu・さのかずや
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5時を過ぎても埋まっているフロア。Todd Terjeから速いテンポを引き継ぎ、「Perfect Fire」と「タイムマシーン」に繋いでいく。フライヤーに描かれてきた歴代ゲストのイラストをVJが写す。VISIONが終わる、と思った。突然身に染みてきた。これからどこで遊べばいいのかわからない。ほかにも遊ぶ場所があるのはわかっているが、こういう大きさの行き慣れた箱でしか手放せないものが私にはあるのだ。荷物を下ろしたほうがクラブは楽しい。

このときは次の『MODERN DISCO』はいつなのか、本当に続くのか、何も知らなかった。クラブで遊ぶ機会自体はある。でも足が動かない。楽しいことはわかっている。無理が必要かもしれないことも。そういうぐちゃぐちゃとした思いをどうすることもできず、無論文章にすることもできず、たくさんの時間を過ごしてしまった。

そうしているうちに、次回の『MODERN DISCO』が告知された。しっかりと楽しみにしながら「まあなんか元気があったら行こうかな~」と言えるパーティーの予定がまたできた。安心した。好きなパーティーも箱も、関係も、いつ終わってしまうかわからない。パーティーはいつか終わり、生活は続いていく。生活を続けていればいつか、どこかでまた遊べる。生きてさえいれば。 

生きてさえいれば、パーティーで思い出せる。月曜からもなんとか、どうにか、そう言って別れた朝を。クラブのことやこれまでのことを話して共有した8時間を。一緒に怒ってきた、そしてこれからも一緒に怒るはずだった場所で思い出す。その不在が、唯一の応答として私の生活にあり続ける。

クラブに行かなくなってからの生活で新しく入ってきたものはたくさんあったが、同時に失ったものもそこそこあった。ひとつひとつがきちんと悲しかった。私の好きなアイドルは去年のうちに時間をかけて、でもものすごいスピードで悲しみを音楽に変えていた。「推しも頑張っているから」なんて背負い方はできず、ただ単純に、私にもまだまだ書くべきことがあると思い出した。書かないようにしてみてはいたが、書くことがないなんてことはなかった。どこに行こうとすべてが繋がっている。なにもかも変わったようで、なにも変わらないままで。それを書いていかなければならないのだと思う。

『MODERN DISCO』は、場所をWOMBに移してまた続いていく。友達がいて、書かせてくれて、躍らせてくれる、私がいつでも戻っていいのだと思えるパーティーがこれからもあり続ける。私は怒りや絶望で書いていると思っていたが、どうして怒ったり絶望したりしているのかがすっぽりと抜けていた。また遊べるという希望とパーティーへの愛をもってやっと、いま私はこの文章を書き始めるのだ。


WOMB



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