クラブで踊れない生活 #3 ―EUREKA(Negative Cloud)
COVID-19の感染拡大によってクラブで遊べなくなった日々の記録を試みる連載。「クラブで踊れない生活」をテーマとし、自由に話してもらう。今回はKnock Koenjiでのパーティー『Negative Cloud』をPicoと共に主宰し、同名のDJユニットとしても活動するEUREKAへのインタビュー。
■ 週末の過ごし方
koharu:大学はオンライン授業になった? 週末はパーティーに行けないし、生活が結構変わったよね。
EUREKA:完全にオンラインになって便利です。生活的にはまじでやばいですよ。朝の4時5時に寝て、昼くらいに起きて、ただひたすら漫画を読むかNetflixを見るかゲームをする。たまにバイトをしたり。だから週末はたまにお香を焚きながら気分を変えて、ずっとパジャマでいるのも憂鬱なので最近はちゃんと着替えています。
それと暇だからYouTubeをやろうかと思っていて、チャンネルを作るところまではいきました。あとは撮影をして、どういう方向性でいこうかなって。最近何してます?
koharu:何もしていないね(笑)。体はあまり動いていないし、何も作っていない。仕事がすごく減って時間はあるから普段できないことをやろうって最初は思っていたけど、あまりにもインターネット上でそういうものを見すぎてやる気がなくなっちゃった(笑)。
EUREKA:それわかります。インターネットしかコミュニケーションの手段がないのに離れていきたくなりますよね。だから映画やゲームでインターネットを忘れる時間を作っています。
■ ZEPETOとZoom、ダンス
koharu:最近は配信をZoomで友達と喋りながら見るのが難しいと思った。
EUREKA:『Rainbow Disco Club』(以下RDC)のときは集中できなくなっちゃうのでZoomは繋がなかったです。
koharu:EUREKAくんたちはZEPETOで話しているのかと思っていた。フロアで踊るのと同じで、ちゃんと見たいときに会話はいらないのかも。
EUREKA:RDC前はZEPETOで集まって「RDCやばいね」って話していましたけど、終わってからはみんな何をしたらいいのかわからなくなってしまったみたいですね。
koharu:配信を家で見ているときって踊る……?
EUREKA:基本的には座りながら足踏みするとか。配信はゲームや作業をしたり、くつろいで見られるのがいいですよね。クラブでいうと端に座って聴いている感じに近い。家で踊る瞬間もありますね。外で煙草を吸ってきて、帰ってきたときのまだ立っている状態で(笑)。
koharu:私もたまに踊っていたんだけど、「ひとりで何をしているんだ……?」って正気に戻っちゃう。自宅は踊る場所じゃないから、踊るテンションが長く続かない。
EUREKA:部屋は生活の場所だから1時間踊るのは無理ですね。10分くらい踊ればいいほう。踊ることは場所を選ぶと思います。クラブは日常の中にあるけど、非日常の空間でもあるから。日常と非日常をごちゃ混ぜにしちゃうと曖昧になって、踊ることを素直に楽しめないですね。
■ 配信とサイトの活用
EUREKA:一番早く料金を取って配信したのはContact Tokyoのイメージです。配信を見るために500円を払って、次にContactへ行くときに500円分ディスカウントで入れる仕組みもいいですよね。
配信をするなら自分も使ったPeriscopeってアプリはバックグラウンド再生やアーカイブ化ができるので便利だなと思います。でも単体では利益を生めないので、何かと繋げる必要があります。海外ではBoiler RoomやBeatportあたりの大きなところが有名なDJを呼んで配信することはありますが、日本には大きいストリーミングサイトがないからこそ、クラブがシステムを立ち上げてやっているのがいいと思って。Boiler Roomに代わるサイトが次は日本から出るといいですよね。
koharu:日本では配信が乱立して飽和状態になっている状況もあるね。
EUREKA:みんなが新しいものに目を向けていて、その中でクオリティの高い人たちだけが残っていくと思っているので、自分の中ではその飽和状態が逆にいいと思ってます。今後はクラブや煙草が苦手だったり、身体的な不自由がある、結婚したから……と理由があってクラブに行けない人へ向けて、お金を払って配信やアーカイブが見れるようにしていけたらいいと思います。
koharu:一番に補償を求めるべきだと思うけど、それとは別で工夫して利益を生むことを考える必要があるし、現場で遊べるようになったときにも今の経験を生かしていくべきだよね。
EUREKA:今までそういうことを考えてこなかった箱や人がコロナをきっかけに考え始めて、いろいろな打ち出し方に挑戦していくと思っています。
■ クラウドファンディングの乱立
koharu:クラウドファンディングも増えているけど、どう思う?
EUREKA:どうしたらいいのかわからないから、自分はSaveOurSpace(以下SOS)しかやれていないです。支援できるような財力もないので、クラブがやっているものはリツイート等の拡散をするくらいですね。クラウドファンディングで一般の人が簡単に支援できること自体はいい時代だと思います。でもクラウドファンディングも企業の商売じゃないですか。企業は支援をする人たちを選んでいるみたいなので、そういう世界観が見えてしまうのがあまり納得いかないというか、それでいいのかなって引っ掛かりはある。
箱が独自に仕組みを作っているところは箱に直接お金が行くので、出来る限りの支援はさせてもらうために随時チェックしています。あとリーズナブルな値段で支援できるというのがクラウドファンディングのいいところですよね。
koharu:支援する側が考えて選ばなきゃいけなくなったり、有名な箱に支援が集まるようなことも起きているよね。
EUREKA:目標額が集まったらすぐに締め切って、他のクラブに回してもらうようにすればいいとは思います。支援する側は選んでいくしかないんだろうなって。弱肉強食の世界が目に見えていますね……今は仕方ないです。
koharu:支援を集めて箱に分散するような仕組みがあるとよさそう。選んで支援をしている人たちだってシーン全体を気にしているし、選ばなかった箱が潰れていいとは思っていないはずだから。
EUREKA:これは国の責任っていうのもあるんですけど。「自粛と補償はセットだろ」っていうのは間違いないですよ。意外と世論はカルチャーに対して厳しいみたいですけどね。それを東京都はわかって、カルチャーを殺さないためにと見直してくれている部分が少しでもあることは救いだなと。
例えばCMの曲は大きい広告会社の仕事になっているけど、実際には曲を作る人→下請け会社→大きい広告会社という流れがある。そのおかげで音楽や家具、映像、CMなどの全てが作られている。カルチャーに厳しいのはそれを理解できていない人たちだろうと思うので、そのような仕組みが簡単に説明されている文章や動画等を打ち出すべきなんだろうなって思います。業界の内容になってしまうので話せる部分だけでいいとは思いますけど、そこをまとめたものを簡単に作ってくれる方がいたら理解してくれる人も増えると思います。
そして、政府批判もするべきですし、意見することが大事だということにこの状況になってから気づかされました。でも全部を国に頼るんじゃなくて、声を上げる中でいくつかある批判をピックアップしてわかりやすく説明する人がいてもいいんじゃないかなと思います。
koharu:SOSの活動を見てもわかるとおり、この状況下で動くにはパワーがいる。クラブのために何かをしたい気持ちはあるけど、お客さんができることってお金を投げるくらいしかないと思う。
EUREKA:あとはこうして文章を書いていく。どういう状況なのかを説明するとか署名をするとか、簡単なことしかできないけど、無理せず自分ができることだけをすればいいと思います。
koharu:大きいことを急にできるわけがないからね。私みたいに時間はあるけどお金はないってなると、知恵を絞るしかない。選択肢が少ないゆえに思いつくアイデアもあるとは思うけど、できることが減っていることは事実だから、今まで以上のことはできないと思って過ごすほうが気持ちが楽だろうね。「今だから何かしなきゃ」って思うと結構しんどい。今は心身ともに健康であることが一番大事だから。
EUREKA:無理やりしなくていいんですよ。できることはやって、潰れてしまったら悲しいですが、結果的にはそれでしかないのかと思っています。生きていれば場所を作ることとかはどうにかすることが出来ると考えてはいます。自分は実際にはお店を経営していないので簡単な感じに言ってしまいましたが、やはり優先されるべきことは最低限生きるということだと考えています。
■ 政治の足踏みと個人の思考
koharu:みんなのメンタルが心配。発散するところもないし。
EUREKA:きついですね。煙草を吸って何も考えないようにするくらいですね(笑)。
koharu:政府が最悪だから、個人が考えないと生活の困窮に直結するようになっている。今まで「小難しいことを考える」ということをしてこなかった人も考えなきゃいけなくなって、考えることって疲れるし慣れが必要なことだからつらくなってしまうかも。
EUREKA:自分は常に何かを考えていましたけど、この状況は疲れますよね。すり減ります。でも引き続き考えるというか、考えるベクトルを変えるっていうだけなので。唯一いえるのはSOSのおかげで周りでも考える人が少し増えたこと。そういうのが大きいと思いますね。
■ 収束前も含めての今後
koharu:Negative Cloud(以下ネガクラ)のふたりで何かする予定は立てているの?
EUREKA:ふたりでB2Bをやりたいよねって話しています。あとは若手バンドやシンガーソングライター、ラッパーとかを呼んでクラブからオンライン配信をするパターンがまだないんですよ。それができたら頭一つ抜きん出て来るのかなって思います。だから『K/A/T/O MASSACRE』は理想形のひとつですよね。
koharu:配信ができるとたくさんの人にネガクラを知ってもらえそう。終息後はどうしていきたい?
EUREKA:ライブ配信でクオリティの高いものを見たあとで今まで通りやったところで、「ひと昔前っぽくない?」って雰囲気が出てしまう可能性がある。だから新しいことを考えつつ、例えばネガクラだったらライブとダンスミュージックのお客さんを融合させたいという自分たちのもともと考えていたこと、クラブにいる人たちも考えていたりする一種の永遠の課題のようなものが進められるんじゃないかと思っています。ジャンル分けせずに音楽を楽しむようになるんじゃないですかね。全てミックスされてコロナ以後の世界に広まっていくようなレールの敷き方をしたいと思います。
koharu:SOSの署名もあって、同じ音楽シーンにあるものだという再認識をした雰囲気があったかも。イベントを一緒にやることにも前向きになれそう。
EUREKA:自分ひとりで考えたときにはコロナ以後はいいものになると思いました。そうなると信じています。早く『MAX VOICE』ってパーティーがやりたいんですよ! でかい声を出すというだけのコンセプトです(笑)。声のでかいDJしか呼ばないんですよ。12時間パーティーを青山蜂でやるつもりです。ブッキングは4つくらいOKをもらっていて、箱はもう押さえてあるので。予算関係なしでやります。
koharu:はっや(笑)。“でかい音を聴いてでかい声を出す”って家で出来ないからみんなが求めていると思う。未来が明るい……。今それを練る時間があることはいいことだよね。
EUREKA:もう俺の今の楽しみはネガクラと『MAX VOICE』をやることだけですもん。そのふたつ。
Twitter:@dj_eurekas
Instagram:@masahidekato/@negativecloud.tokyo
取材日:2020年4月22日
画像提供:EUREKA(Negative Cloud)
取材・執筆:koharu
▼ 4月4日のLive Mix & Movie/2019年のインタビュー記事
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