堂々とする?フェードアウトする?それとも…

小声か、状況によって最善手は異なる。

真夜中、人気のない道を歩くのは少し怖い。

襲われたらどうしよう?

アルクアラウンドごっこしてるのバレたらどうしよう?

気持ちよく歌っているのを誰かに見られたら…

酔って歩くときにやることが多いが、シラフでもやるときはやる。

普段、様々な人が使っているこの道に今、人影は見当たらない、つまり

擬似貸切状態だ。そんなのアルコールが体になくともテンションが上がってくる。

今日はどれで帰路を楽しもう? シャッフル再生のspotifyから創世のアクエリオンが流れ始める。久しぶりだなこの曲、「アニメちゃんと観てないけどフルで歌える曲」シリーズの一つだ。今日はこの名曲を歌おう。片耳はイヤフォン、もう片耳は周りのクリアリング、歩きながら辺りを見回し、窓が少し開いてる家、部屋がないか確認、己の声のボリューム調節、かけるなら最小限の迷惑で。

曲がり角はミラーで確認、もしくは己の一時停止ボタンを押せば良い。

ここまでほぼ一瞬の脳内出来事、アクシデントが起きなければ爽快な帰路となる

クリアリング、角を曲がる、問題はなさそう、あとはこの道を真っ直ぐ唄い歩くだけ。ここまでは順調これからサビ、あぁ盛り上がりすぎないよう注意深くでも気持ちよく、こんな意味の音楽記号ありそうだな。そんなこんなで2番だ。

普段は公道、今だけは勝手に私道。徐々に気持ちよくなってくる。

もう2番のサビだ、さっきよりもうちょっとだけボリュームを上げよう。あぁ

一万年と二千年前から!っ…… 不覚だった、自販機の前に立っている人がいることに気づいたのは既に愛してるを言い終わった後だった。すぐに横目を戻し、再び前を見て歩こうと思ったが恥ずかしさのダメージがじわじわくる。辛うじてウィスパーボイスで続きを歌う中、脳内にある人物がフラッシュバックする。海外の地下鉄や公園でBon JoviのLivin' On A Prayerを高らかに歌う老人だ。

彼のやっていることは私と変わらない、公共の場で大きめの声を出す迷惑行為だ。だが、彼は堂々としていた。付近にいた人々はニヤニヤしていた。撮影者の笑い声も聞こえた。しかもサビになると何人かは老人に…oh~Oh Livin' On A Prayerとレスポンスをした。これは紛れもなく老人の堂々とした歌声が周囲を魅了したからだ。その動画には咎める者も、老人の目の前でバカにする者も存在しない。大半はあまりにも突然で呆れている可能性はあるが、そこに映っている老人は確かにアーティストだった。

それに比べてお前はどうだ? さっきまであんなに気持ちよく歌ってたのに、クリアリングを怠り、恥ずかしさのあまり自分だけの世界から戻りすぐさま今の世界に己を馴染ませようとしてる反面、ウィスパーで小さな世界を保ち、抗う。それこそ恥ずかしくないのか? 見られたのなら仕方がない、割り切って堂々としちまえよ

ウィスパーは自身で恥ずべきことをしていると認めているもんだぞ、いいのかそれで?


早くカラオケに行きたい。カラオケならこんなこと考えず気にせず済むのだ。

緊急事態宣言の影響で近所のカラオケマック潰れてませんように


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