ロクデナシ 〜ネットストーカー地獄編~ 3.あの娘にタッチ

 ほかのスレッドにも書き込んでいるかもしれないので順番に開き、たまにチェックしていた音楽BARスレというところを開く。そこは音楽のURLを貼り付けてそれに沿った会話をするという疑似バーという設定のスレッドだった。そこにはおじさんと陽子という二人の固定ハンドルネームが常駐しており、URLを貼り付けてはバーの客とママという設定で雑談していた。

 おじさんは詳しくは知らないが陽子とは数年前からいろいろとやり取りをしていた。やり取りとはいっても基本的に酔っ払った僕が一方的に悪い絡みをしていただけで、間違いなく嫌われているのだろうが、そんなことはどうでもよかった。

 陽子は三十代前半の社会人の女という設定の固定ハンドルネームだった。週末にはヨガ教室に通い、開いた時間に小説を書いて公募に出しているという。いつの間にか陽子は美人だという雰囲気になっていたが、当然誰もそんなことは信じるわけでもなく、かといってその設定を崩壊させてやろうというわけでもなく、それぞれがそれぞれの設定で楽しんでいた。

 夜になるとおじさんがURLを貼り付け、今なにを飲んでいるかと書き込み、しばらくして陽子がそれに感想をつけ自分もURLを貼り付け、おじさんがそれに感想をつける。とても平和な流れだった。おじさんは一昔前のブルースを貼り付け、陽子は最新の邦楽ポップスや一昔前の洋楽ポップスを貼り付ける。たまに音楽を馬鹿にしたり陽子が不細工だの実は気持ちの悪いおっさんだというような低レベルな書き込みもあるにはあるが、それには基本無視を決め二人の雑談が流れてゆく。

 そこに美樹本がやってきた。

 美樹本は80年代の歌謡曲を貼り付けた。しかし自分は酒を飲まないらしく、陽子にアイスコーヒーを注文した。陽子は貼り付けられたURLはスルーし「美樹本さんはじめまして。コーヒーどうぞ」と設定がスタートした。

「今日はいろいろと忙しかったので癒やされに来ました。肉体労働のあとに執筆して絵を描いて、大変です」

「お疲れさまです。私も今日は仕事で疲れました」

「陽子さんはなんのお仕事をしているのですか?」

「それはさすがに内緒で(苦笑)」

「なるほど。さっきれつだん先生とかいう奴にいきなり誹謗中傷されたんですが、陽子さんはご存知ですか?」

「ああ、あれは相手にしないほうがいいですよ。頭がおかしいので(苦笑)」

「やはりそうでしたか。調べるとかなりグレーのようです。精神病で生活保護を貰っているようですが、ネットをする元気はあるのに働けないってどういうことですかね。私の知人も精神科には通っていますが真面目に毎日働いています。陽子さん、私の描いた絵を見てください。URLです。多分陽子さんのような心の美しい人には感じるものがあると思いますよ。というかれつだん先生って陽子さんからも嫌われているのですね。陽子さんみたいなか弱い女の子をいじめるなんて人として終わってますね。今日なんていきなり私の小説を馬鹿にしてきました。私がどんな気持ちで小説を書いたかって想像力が欠けてますね。有名人になりたいのかな。文学読んで通ぶってればいい小説が書けると思い込んでる。どうやればあんな狂った人間になれるんでしょうね。人のことを散々馬鹿にして。陽子さんはれつだんになんて言われたんですか?」

「婚期遅れのババアとか言われましたね。あれは病気ですから放置で(笑)」

「そんなひどいことを言ったんですか。私が守りますよ。か弱い女性を守るのが男の仕事ですから。女性に言うことばじゃないですよね。これからも私がここに書き込みをして、ネットゾンビのれつだんからお守りします。さしずめ王女を守る騎士でしょうか。陽子さんとは今初めて会ったという気がしませんね。昔からの仲、いや、前世からの仲のような」

「お願いしますね(笑)」

 ここでおじさんがURLを貼り付け、陽子の相手はおじさんに変わる。美樹本はそれ以降も僕の異常さと陽子へのアプローチをし続けていたが、自分がわからない音楽の話題が続くのに嫌気を指したのか、「ちょっと小説を書いてきます。陽子さんをヒロインにしてもいいかな(笑)」という気持ちの悪い書き込みをしスレを去った。

 男女が出会い、共通の敵の話題で盛り上がる。どう見ても僕は口説きのネタにされている。自分のやっていることが惨めに感じ情けなく悲しい気持ちになる。と同時ににやにやとした気持ちの悪い笑いが止まらない。

 やはり美樹本は匿名掲示板に慣れていない。顔も名前もなにもかも知らない相手が女を自称しただけでそれを信用し、自分の話と嫌いな人間の悪口を並べ立て、挙句の果てに口説き始める。あまりにも純粋すぎて感動すら覚える。小説も絵も人間性も稚拙で穢れを知らない。僕は勝手に美樹本を自分より年上だと思いこんでいたが、そうではないのかもしれない。中学生とか高校生なのだろうか。そう考えると、小説の稚拙さにも僕への罵倒も陽子への口説きも納得が行く。と同時に、中高生に本気になってしまった自分が恥ずかしい。美樹本君、ごめんね。なんか引き篭もりの気持ちの悪いおじさんがさ、将来のある未来の明るい若人を叩いたりして自分が情けないよ。もうなにも言いません。おじさん、応援するよ。これからもどんどん小説や絵を描いて頑張ってください。

 そう決意しスレッドを更新すると「ちなみに陽子さんはおいくつですか? 私は46歳です」という美樹本の最新の書き込みが目に入り、飲んでいたお茶を盛大に吹き出してキーボードを水浸しにし涙を流しながら咳き込みお茶が器官に入り持病の喘息の発作が止まらなくなってしまった。

「年齢は非公開ですので、三十路とだけ(笑)」と陽子が返すと、美樹本は僕への罵倒を中断し突然自分が立ち上げた文芸同人誌の話をし始めた。どうやら美樹本はその同人誌のメンバーを集めるために匿名掲示板にやってきたようで、それまでは書き込みはおろか見たことさえもなかったという。メンバーは美樹本とバードという三十代の男のみで話が進まないようで、どうしても陽子をメンバーにしたいという。

「同人誌は紙と電子でやろうと考えています。メンバーが集まり次第出版します。同人誌が成功したら出版社ブルーロベリアを立ち上げます。私は印刷業界とデザイン事務所に勤めた経験がありますので、出版業界のことはよく知っています。デザイン事務所では私のあまりの腕のよさが祟り上司に嫉妬された挙げ句馘首になってしまいました。私はどうも嫉妬されやすい体質のようです。さっそくれつだんという病人に好かれて嫉妬されてしまいました。話がそれました。陽子さんおような若い女性のみずみずしい完成で綴った小説を私の同人誌に載せたいのです。それだけで同人誌のランクが上がります。もしよければこちらにメールしてください」

 まくしたてるように書き込み、取ってつけたように歌謡曲のURLを貼り付け、「ちょっと小説を執筆してきます。名作になる予感がします。ぜひ陽子さんに読んでほしいです。では」と残してスレッドから去った。

 まずは、どこから攻めようか。考えながら書き込みを何度も読み直していたが、あまりにも突っ込みどころが多すぎてどこから手をつければいいのか途方に暮れてしまった。なのでまず簡潔にまとめようと思う。

 年齢は中高生ではなく46歳。

 同人誌のメンバーを探すために匿名掲示板に来た。

 職場で上司に嫉妬され馘首になった。

 陽子の小説を読まずに同人誌に誘った。

 これらをネタにして攻撃してみてもいいが、もう少し踊らせようと思う。僕がなにかを言えば真っ赤になって反論してくるのは確実なので、最大限の怒りの様子を見るためにもう少しネタを収集したい。なので「陽子、美樹本に惚れられてるな」とだけ名無しで書き込んだ。陽子は「そんなわけないじゃない(笑)とだけ返してきた。そのあとはおじさんがやってきてブルースのURLを貼りつけいつもの流れとなった。

 そして次の日から美樹本の怒涛の書き込みが始まった。

 まず最初に今日一日なにをしたかという報告が長文でなされる。要約すると、肉体労働をした帰りに原付きでスーパーに寄って惣菜を買って家で食べて小説や絵やブログを書いて同人誌のことを考え、私は一日頑張りました。

 そして次に、れつだん先生がどれだけ最低な人間で生きる価値のない禁治産者かという文句が長文でなされる。残念ながら僕のことをお知りになっていないのか、前述の罵倒と同内容が繰り返される。

 そして最後に、そんな産業廃棄物に私がどれだけ苦しめられ誹謗中傷され辱めを受け貶され貶められストーキングされているかという被害の報告から、陽子さんならその気持ちがわかりますよね。私は一日中陽子さんのことを考えていました。陽子さんが私の同人誌に入ってくれたらとても嬉しいです。陽子さんを想像して絵を描いてみました。陽子さんは今日はなにをしていましたかというラブ・メッセージが延々と続く。

 しかし美樹本の想いは陽子に伝わっていないのだろう。数時間後に仕事を終えたと言ってやってきた陽子の返信が短文で済まされているところが涙を誘う。陽子は美樹本の長文の連続投稿をなかったことにして音楽のURLを貼り付け、しばらくしてやってきたおじさんと音楽談義に入ってしまう。美樹本は自分が書いている小説や絵の話をしたり歌謡曲を貼り付けたりしてなんとか二人の間に入ろうとするが、ほとんど無視されてしまう。そして最後に「明日も仕事で朝が早いので、もう寝ます。陽子さんおやすみなさい。あまり夜ふかしするとお肌に悪いですよ(笑)」という捨て台詞で消える。

 美樹本の陽子への思いは伝わったが、陽子は美樹本のことをどう想っているのだろう。それを引き出すために僕もURLを貼り付けてみたが、陽子は僕の書き込みを無視しておじさんとの会話に夢中になっている。酔っ払って酷い絡みをし続けたことを後悔するがいまさら遅い。なので名無しで「美樹本、いいキャラしてるね」と書き込むと「いい人だよね。結構年上でびっくりしたけど(笑)」とすぐに帰ってきた。こんなことなら……。

「陽子、同人誌に誘われてるみたいだけどどうなの?」

「私は公募組だから、あんまり興味ないかな。でも面白そうではあるよね」

「れつだんの悪口で盛り上がってていい感じじゃん(笑)」

「あれはどうしようもないからね(苦笑)名前すら出したくないレベル」

 するとおじさんと別の名無しも会話に参加する。

「陽子ってれつだんになにされたの?」

 それは僕も気になるところだ。なにせビールで睡眠薬を流し込むのが当たり前になっているせいで過去の記憶が断片的になっている。

「2年ぐらいブスだのババアだの言われ続けたのよ(苦笑)だからもう無視してる。構ってちゃんの馬鹿だから」

 自分を擁護するわけではないが、ここは匿名掲示板だからね。さすがの僕も、現実社会で顔見知りの女性にこんなことを言うほどおかしい人間ではない。それに、そういういかにも女性が傷つきそうな発言で傷ついたと表すことによって、若い女性であるという設定を強くさせるという作戦もあるのかもしれない。実際に美樹本は陽子のことを可愛い女の子と思って接しているのでその作戦は成功している。

「気があるからそういうことを言うんじゃないの(笑)」とおじさんが言った。真面目に働いてヨガに通い創作や読書を楽しむ年上の女性。これが本当に存在するとしたら、間違いなく僕は惚れているだろう。が、僕はいい年して酒が入らなければなにもできない意気地なしの根性なしなので、なんの行動も起こせないだろう。

「いや、それはないわ(苦笑)それにさすがにあんな頭のおかしい病人は無理よ(笑)」

 ……言いたい放題だ。こういうところが反感を買うんだよ、このネットオカマ野郎がと書き込もうとしてぐっとこらえた。

 そこで僕はあることに気づいてしまった。

 もしかして僕は美樹本と陽子の関係に嫉妬しているのだろうか。

 いやいや、あるわけがないだろう。ただの設定だ。中身は気持ちの悪い引き篭もりのおっさんだ。馬鹿馬鹿しい。

 でもこの感情は利用できる。僕が美樹本と陽子の関係に嫉妬しているという設定で音楽BARスレを荒らせば、そして陽子を攻撃すれば、美樹本のいい反応が引き出せるかもしれない。書き込みを見れば美樹本が陽子に惚れているのは明らかであるし、自分の愛する女性を攻撃されれば誰だって怒りに震えるだろう。またにやにやとした気持ちの悪い笑みが止まらなくなり、煙草に火をつける手が喜びで震え始めた。

 僕がやることはただひとつ。過去の陽子へのひどい発言を名無しでコピー&ペーストするのみ。ただこれだけでスレッドが荒れてまともな雑談はできなくなり、陽子の僕への恨みを引き出すことができ、それを見た美樹本が僕に怒り狂う。一石四鳥。なんて僕は賢いのでしょう。コピー、ペースト、書き込み、それをただ繰り返す。自分の過去の陽子への書き込みは基本的には同じことの繰り返しだ。女性蔑視、陽子の小説への難癖。何度も執拗に繰り返すことによって、陽子の苛つきが書き込みに現れ始めた。スレッドが無意味に埋まっていく。陽子とおじさんがURLを貼り付けようとも関係ない。しかしそれだけではつまらないので、自分がコピー&ペーストした書き込みに返信をしてみた。僕への怒りの書き込み、陽子を煽って馬鹿にする書き込み。スレッドを荒らすな、女性にひどいことを言うな、まともな会話ができない、れつだんは異常である、美樹本が気持ち悪い、俺は美樹本を応援する。様々な書き込みを名無しですることによって人がたくさんいるという演出効果になる。

 加えて美樹本のブログ内容もコピー&ペーストする。これもまた一石数鳥の効果がある。美樹本があとになってブログや記事を削除してもスレッドの書き込みとして半永久的に残り、それが話題になればスレッドが荒れて多方面からの怒りを買う。名無しでの誘導によって、誰が記事を貼り付けているのかという疑心暗鬼を生ませる効果もある。

 ただ注意してほしいのは、固定IDやIPその他が表示される板ではまったくの無意味になるということだ。誰がやったのか見てすぐにわかる上にすぐNGに指定して非表示にされてしまうので演出のしようがない。創作文芸板がIDもIPもない完全なる自由な板だからできることだ。

 いい感じにスレッドが荒れてきたので、その日僕は久しぶりにぐっすりと眠ることができた。

 朝起きてすぐにスレッドを開く。コピー&ペーストが夜になってぱたりと止んだことに気づいている名無しの書き込みがあったが、れつだんがやったと発言する名無しはいない。陽子はまだ現れてはいないが、美樹本が「仕事に行く前に」という書き出しで僕の発言に長文の怒りを返してきた。それは軽く流し見をしたが、次の書き込みが何度も読み直すことになった。

「正直陽子さんへの誹謗中傷名誉毀損に怒りで震えていたが、「もしかしてれつだんって俺と陽子さんの仲を嫉妬してるんじゃね?」という画期的な結論に至った結果、れつだんが可哀想な男に見えてしまった。れつだんって20代半ばらしいけど、精神が幼稚だから女性の気を引く方法がわかってないのかな。俺みたいな人生経験豊富な真人間を見て学ぶといい。精神疾患は脳の障害って言うらしいし、20代で家に引きこもって毎日ネットしてると脳が退化していくのかな。俺みたいに年下の女性から愛される男になってほしいものです」

 考えるな、感じろということで、名無しで「美樹本さんって46歳でしたっけ? れつだんと違って考え方が大人ですよね。美樹本さんのことをいろいろと教えてくれませんか」と書き込んだ。

 仕事前なのであまり時間は割けないと前置きをした上で話し始めた。

「うーん、なにから話せばいいかな。俺って時代の寵児だった時期があって。1995年のパソコン通信全盛期の時にbluelobeliaっていう名前でイラストをばらまいたのね。それがアメリカ中に知れ渡っちゃって、あっちで俺の名前を知らない人はいないってなっちゃったんだよね。若気の至りだったんだけど、まさか俺の絵がそこまで爆発的ヒットするなんて予想できないじゃない」

 なるほどね。

「へえ、そんなすごい人だったんですか。美樹本さんの絵を見ましたが、あまりの完成度に只者ではないと思っていました」

 小学生の写生大会レベルの絵だけどね。あとは丸に目鼻口が書かれただけの不細工な女。

「ところで陽子さんはどう思います?」

「芯の強い聡明な女性だよね。卑劣な人格破綻者からの長年のストーキング行為にもめげずにやってる。でもやっぱり女性は男に頼って生きていくものだから、そういう人がいればいいなと思うよね」

「陽子さんも美樹本さんとのやり取りを楽しんでいますよね」

「なんか、年の差を感じないっていうか。相性いいっていうか。俺に気があるんだと思う」

 それを陽子がいるスレッドに書き込める勇気ほ褒めてやりたい。

「お仕事はなにをされているんですか?」

「倉庫番のアルバイトです。結構続いています。15年前にデザイン事務所を辞めてから、倉庫番とかアルバイトで食いつないでいるよ」

 働いていない僕が言うのもおかしな話だが、46歳で倉庫番のアルバイト。

「夢はやはりプロデビューですか?」

「できたらいいけど狙ってはいません。もう、新人賞を受賞してっていう流れは古い。俺は出版社を立ち上げ、同人誌を集団で作って文芸の世界に殴り込みをかけます。まだメンバー集めの段階ですが、数年以内には成し遂げます」

「あんなゴミ書いてどうしてそこまで偉そうにできるのか」

「名無しの君には言われたくありません。じゃあ逆に訊きますがあなたはなにをしました? 名無しで俺を絡むだけの能無しが? どうせ、家に引きこもって一日中掲示板やって母親に部屋の前までご飯持っていてもらって、ペットボトルに小便入れてるんだろ? お前れつだんだろ。今日も掲示板でオナニーですか。お前の精液を受け入れる女性なんかいないぞ。小説書いても無駄。誰にも読まれない。誰からも相手にされず才能もないなんて生きてる価値あるか? さっさとくたばったほうが世のため人のためになるだろ。ずっとオナニーしてろ」

 よくもまあここまで悪意を剥き出しにできるなと感心してしまった。

「陽子さんがいるからここにいるだけで、俺に悪意を剥き出しにするれつだんの相手はしない。ちゃんと俺と陽子さんに謝罪して、もう誹謗中傷はしないと約束して真面目に労働を始めたら許してやってもいいが。このスレを荒らすのもやめろよ。俺は陽子さんとバーチャルなバーをやってるマスターとママなんだよ。その愛の空間を邪魔するな。精神疾患だからって甘えるな。真面目に働け。刺し身に花を載せる仕事ぐらいはできるだろ。それか空き缶拾いやってろ、人生の敗北者」

 美樹本も去り陽子も現れずスレに動きはない。なので二人が戻ってきたときのために、名無しで会話しているように見せかける。

「美樹本ってちょっと危なくね?」

「かなりあれだろ。陽子好き好きアピールもだしれつだん攻撃も常軌を逸してる」

「それももちろん危ないけど、時代の寵児とかアメリカで有名とか、完全に妄想だよな」

「統合失調症の妄想なのかね? れつだんも同じ病気だけどあんな妄想は言ったことないはず」

 途中で別の名無しも参加し盛り上がる。

「笑っちゃいけないレベルの人って感じだわ」

「れつだんと美樹本の喧嘩、正直もう楽しめないかも」

「あれだっておかしいぞ。普通、小説が駄目って言われただけで毎日毎日長文で怒り狂うもんか?」

「れつだんが陽子と美樹本の関係に嫉妬してるから荒らしてるとか、意味がわからない」

「陽子もほとんど無視してるもんな。昨日なんて「陽子さん、まだ紙の本を買ってるんですか? 今の時代は電子書籍ですよ。持ってないならプレゼントします」って言ってた」

 過去の書き込みを見るとたしかに発言している。見落としていた。

「肌に悪いから早く寝ろもそうだけど、46歳が年下の女にあれしろこれしろっていうのが鬱陶しいよな」

 誰がどう見ても、年下の女に相手にされないおっさんという切ない図になっている。それに本人だけが気づいていない。しかしその気づかなさがあとで大事件を起こしてしまうのだが、その話はまた後に。

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