第8話 手術後4 2021年8月1日 さようなら、外脛骨
朝の検温で36.6度に下がったためPCR検査はなしとなる。初老への若い女性看護師の対応が子どもに言い聞かせているように聞こえる。たまにやってくる深田えいみの低音ヴォイスに癒やされる。片足立ちでトイレに行くのも慣れてきたが、看護師に見つかると「看護師を呼んで車椅子でトイレに行くように」と叱られてしまうのでタイミングを見計らわねばならない。転んだり左足を床についてしまう危険性があるから注意をする。とても理解できるし当たり前の話だ。しかしただトイレに行くためだけに看護師を呼んで車椅子に移りトイレまで運んでもらうという一連の動作が申し訳なく感じてしまう。それが仕事だと言われればそのとおりだが、僕は忙しい看護師をただ用を足すためだけに呼べるほどの立場の人間ではない。呼ばれた看護師も「尿瓶でやれよ鬱陶しいな」と思っているのは間違いないだろう。だから僕は看護師だけでなく清掃員や介護士がなにかをするたびに「ありがとうございます」「すみません」を連呼している。一日に何度繰り返しているだろう。すみません、ありがとうございますの前には「僕みたいな最下層のゴキブリドブネズミ人間のために」がくっついているが口には出さず心の中で思っている。
夕食後に「一人で車椅子を使ってトイレに行ってよい」と言われたのには感激して涙が出そうになった。一連の動作を説明され、実際に一人で乗ってみる。フットレストを畳みブレーキレバーでタイヤをロックし肘置きに両手を置き体重をかけて移りフットレストを下げて足を置きブレーキレバーを外す。動くまでの準備だけでやることが多い。カーテンを開き後ろに下がろうとするが、細かい動きが上手くいかず何度もベッドに当たる。病室のトイレが空いていればそのまま使用するが使用中であれば廊下に出てトイレまで走る。廊下を曲がろうとしても上手く曲ることができない。額に汗も浮き始める。トイレは車椅子用に広いつくりになっているが、前後を変えるられるほどの広さはないため後ろを向いたまま右手で扉を開き右足と左手を使って後ろ向きで脱出する。トイレに行くだけで疲れてしまう。その上左足が壁等に当たらないように気を遣わねばならない。慣れるまでが大変だ。しかし一人でトイレに行けるようになったのはとても嬉しい。
術後初めて担当医がやってきて明日からリハビリをするように言われる。段階的に体重をかけるとのこと。最初は3分の1、次に2分の1、最後に全荷重。2分の1が両足で立つことなのですぐに歩けるようになりますとのこと。リハビリはなにをするのか聞き忘れたので明日を待つ。
消灯後にちゃんと車椅子が使えているか看護師にチェックを受ける。フットレストの上げ下げを忘れて不合格を言い渡される。二度目に合格し消灯後も一人でトイレに行くことを許可される。
夜の担当が中学生だったが、タイミングが違っていれば中学生に座薬を挿入されていた可能性がある。厚化粧でも中学生でも担当でも同じ興奮を味わえるだろうが、一番は深田えいみだろう。深田えいみに肛門を開かれライトで照らされ座薬を挿入されていたと考えると久しく処理していなかった下半身が元気になるが、処理する場がないため本を開き忘れるよう努力する。
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