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ホーミー教室2

そんなこんなで、僕は、断ることもできず、ホーミー教室に参加する運びとなった。
場末のスナックの様相のホーミーの先生は、
「じゃ、先にお部屋にいっててちょうだい」
と僕に言い残し、再び事務室の奥へと消えていった。
ホーミー教室は、建物の2階だった。防音壁の施された部屋だ。隣は、たしか、カラオケ教室だったように記憶する。
「そうか・・・ホーミーとやらは楽器か何かなんだな。」
カラオケ教室と並んでいて、壁は防音。となれば、
大きな音を発する何かであることには違いない。
教室においてあった椅子に腰かけて待つこと数分。ホーミー先生は登場した。
「お待たせしたわね」
というその手には、楽器等はなく、なにやらフリップみたいなものを数枚かかえている。
ホーミーの説明用資料かなにかなのだろう。僕は腹をくくっていた。ここまできたら、そのホーミーとやらを、たったの二ヶ月ではあるが、この先生が驚くほどにうまくなってやろうではないか。
さあ、来い!ホーミー!かかってこい!たったの8回の授業で、完璧にマスターしてやる!
僕の心には闘争心のようなものが涌き出ていた。
そんな矢先、
「ねぇ、聞かせてちょうだい。ホーミーのどこに魅力を感じたのかしら?」
ホーミー先生が尋ねてきた。
とても、用紙の書き間違いです。ホーミーのことなんて、全く知りません。などとは、言えない雰囲気だった。
「そうですねぇ・・・、なんというか・・・そのぉ~・・・、ホーミーというその響きがなんか、神秘的というか・・・なんというか・・・」
と、ボソボソと僕は答えた。
ホーミーの中身には一切触れず、というか、知らないので触れようがない。どうしよう、ここからさらに突っ込まれたら・・・。などと考えていると、
「そぉーなの!そこなの!それなのよ!」
と、さまざまな「そうですよ」を意味する言葉を羅列し、僕の返答に対し、歓喜するホーミー先生がそこにいた。
「わたしもねぇ、まずは、この❬ホーミー❭っていう名前に惹かれたの」
と言い、そしてこう続けた。
「ホーミーっていう名前にはカドがないじゃない、名前聞いただけで、優しさが伝わるわぁ、ねぇ、そう思うでしょう?」
と問いかけてくるので、
「ええ、ほんと、カドがなくて優しいですよね、ホーミー。」
と答えると、ますますホーミー先生のテンションは上がり、
「福神漬けも、そうよね。カドがなくて、なんだか優しいもの、あなたならきっとわかるはずよ、福神漬け」
と言われたので
「えぇ、そうですとも、そうですとも、ほんと、福神漬けってやつわ、優しいっすわ、ほんと」
と、適当に答えると
「福神漬けのはなしをしてわかりあえたのは、あなたが初めてよ。みんな、わからないっていうの」
と返してきた。
そうか、みんなやはり、福神漬けについてはわからないとこたえるんだ・・・。僕も、わからないと答えるべきだった。適当に答えたがために、深みにはまった気がする。
そして、そこから、
ホーミーの説明を聞くことになった。
モンゴルの遊牧民が、家畜を誘導するときに発生する歌唱法であること、高音と低温を同時に発すること、高音部は音階を奏でることができるということなど、まあ、聞いてみると、なんだか本当にホーミーに多少の興味は沸いてくる。
興味が出てきたので、先生に、
見本を聞かせてほしい、と、お願いしてみた。
そう、僕は、ホーミーのことをあたかも知ってるかのごとくホーミー教室の椅子に座っているが、実のところ、全くホーミーが、どんなものなのか知らない。見本を見せてくれと言う僕に対し先生は、
完成したホーミーを目の前で聞くと、すぐに同じようにやろうとして、基本をマスターできなくなるから、完成したホーミーの見本はまだ見ない方がよいという理由で、聞かせてもらえなかった。
この時点で、ホーミーの成り立ちはなんとなく知った僕だったが実際、どんなものなのかはまだわかっていない状況だ。
「うぇぇっ」
と、突然、先生が言った。
「え!?」
「はい、もう一回、いくわよ。  うぇぇっ!」
「え?」「え?」
「ほら、はやく、うぇぇっ!」
それは、志村けんが得意そうな発声だった。
(え!?ホーミーって、志村けんみたいなことなの?!)
そう思いながら、
「・・うぇぇっ・・・」
と放つ僕。
だめ、声が小さい!
という先生。
先生「うぇぇっ!」
僕「ぅぇぇ」
先生「うぇぇっ!」
僕「ぅぇぇ」
そんなやり取りがしばらく続き、僕も先生も少し汗ばむほどだ。
志村けんの「うぇぇっ」も、なかなか、体力を使うものなんだなと感心していると、
「あなた、なかなか、筋がいいわよ。ホーミーのこと、好きーっていうのが伝わってくるわ」
と、先生が、言った。
好きもへったくれもあるもんかい。まだ、ホーミーがどんなものなのかは知りもしないのに。と、一瞬考えたが、このさわりのレッスンをやっただけで、潜在的に僕はホーミーのことを好きになってしまってるのかもしれない。
この先生は、そこまで見抜いているのかもしれない。
僕の3倍は生きているであろうこの女性。
きっと、酸いも甘いも経験していて、その、人生の荒波の中にホーミーと福神漬けのカドのない優しさに触れて、人間に深みが増したのだろう。
だとしたら、その深みの増した先生が
「僕のホーミー愛」
を見抜いたとすれば、きっと本当なのだ。
帰りにスーパーに寄り、福神漬けを買ってみたら、その優しさにも気がつくのかもしれない。そして、それは、カドのない優しさなのだ。
そんなことが頭をよぎるなか、その日のレッスンは終了した。
まだ、
ホーミーの説明と、志村けんのモノマネしかしていない。
残り7回のレッスンで、本当にホーミーが身に付くのであろうか。
次回、「ホーミー教室3」に続く。

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