見出し画像

「高還元モデル」はコツコツが大事②

前回の記事の続きです。

高還元モデルは「積小為大」、つまり小さな努力を積み重ねて大きな成果を目指すビジネスモデルです。一人ひとりのエンジニアの利益は少なくても、社員が増えることで全体の利益を大きくすることが目標です。このモデルでは、コツコツとした努力が非常に重要です。

高還元モデルを維持するためには、次の3つの条件が重要です。

(1)少ない経費で運営すること
高還元モデルは薄利ですので、経費(販管費)を抑える必要があります。経費の中で大きな部分を占めるのは、広告費、内勤の人件費、事務所の家賃です。

(2)大手企業と取引すること
商流が深いと単価が低くなるため、いくら高還元でも給与が安くなってしまいます。これでは高還元の意味がなくなりますので、エンドや元請けなどの大手企業と取引することが必要です。

(3)経験者を重視して採用すること
「高還元モデル=薄利」の最大の敵は待機です。待機のリスクを回避するためには、経験者をメインに採用しなければなりません。

これらの条件を考慮した上で、市場の現状を見てみると、以下のような課題が浮かび上がります。

・経験者の採用は難しい
日本を代表する大企業でさえ、経験者の採用に苦労しています。そのため、私たちのようなSES企業が還元率を高くしただけで、短期間に多くの経験者を採用できるはずがありません。

・大手企業との取引は難しい
大手企業と新たに取引を始めるのは非常に難しいです。当社でさえ、毎日十数件の取引依頼が届きますが、大手企業ではその数がさらに多く、アポイントを取るだけでも一苦労です。さらに、大手企業は現在、取引先を減らす方向に動いており、新規取引を開始するのはほぼ不可能に近い状況です。

・限られた経費での運営
経費が少ない中で、多くの採用広告費を使うことも、新規開拓のために多くの営業マンを雇うこともできません。

ですから、高還元モデルを維持して発展させていくためには、地道に「信用を蓄積」していくしかありません。

「高還元モデルは急成長する」とのイメージは、以前話したSES企業でありながら管理タスクツールを販売する企業による、販売促進のための宣伝に過ぎません。

高還元モデルがSES業界に広がることは、業界の健全性やエンジニアにとって非常に良いことです。ただし、急成長には向いていないということだけは理解していただきたいと思います。焦らず、コツコツと取り組むことが大切です。

追記:恐ろしいこと
これはやってはいけない悪手ですが、高還元モデルを採用して急成長を目指す場合、未経験者や微経験者を積極的に採用し、代替可能な低単価の案件に送り込むことになります。多くの場合、これはSES企業間の協業(BP)案件となり、商流が深くなるため、景気変動に影響を受けやすく、また単価が中抜きされて低くなります。

景気が良いときは問題ないかもしれませんが、景気が悪くなった場合をシミュレーションすると、次のような事態が想定されます。

  • 商流が深い下請け企業から契約が打ち切られます。

  • 未経験者や微経験者から契約が切られます。

  • 次の案件が見つからず、大量の待機が発生します。

  • 待機社員の大量解雇(退職勧奨)が行われます。

  • 大量解雇の評判が広まると、景気が回復しても再起が不可能になります。

さらに、求職者の目利きが鋭くなっています。「急成長」とアピールしている新SES企業の単価は、IT業界の平均が65万円であるのに対し、55万~60万円と低い水準です。

先ほども述べましたが、単価が低ければ、いくら高還元でも給与は低くなり、従来型のSES企業と比べて年収が変わらないか、むしろそれ以下になることが多いです。もし年収が同じかそれ以下であれば、業界内での信用、取引先、教育体制が充実している従来型のSES企業のほうが魅力的に映るでしょう。

以前は、高還元という新しさで一定の求職者を惹きつけたかもしれませんが、現在では高還元モデルへの理解が深まり、求職者の目利きもさらに鋭くなっています。この傾向は今後も加速することが予想され、高還元の訴求力は薄れていくでしょう。そのため、今後は取引先(商流)、単価、マージン率の3点セットがSES企業を選ぶ際の重要な比較基準になってくると考えられます。

最後に繰り返しますが、高還元モデルが広がることは、業界にとってもエンジニアにとっても良いことです。ただし、急成長を目指すと、知らぬ間に問題が積み重なり、それが将来大きな課題に発展する可能性があります。

ですから、会社の売上や利益、採用人数といった数字は一旦脇に置いて、目の前の課題をひとつひとつ丁寧に解決しながら、持続可能な体制や仕組みを整えていくことが大切だとおもいます。

SES/技術派遣エンジニア必見!
【転職虎の巻】転職面談前にこの5つを備えておけば後悔なし!

いいなと思ったら応援しよう!