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かまぼことスペイン王の意外な関係〜とある小さな虫からみる大きな歴史〜

もうすぐお正月。
お正月といえば、定番のかまぼこ。
このピンクにもよく使われる着色料「コチニール色素」。(全てのかまぼこに使われているわけではありません)

コチニール・・・
何だか知ってるだろうか?

正体は、『コチニールカイガラムシの雌』

今回はこの3mmほどの小さな虫が、中南米から世界に広がった大きな歴史をみていこうと思う。

コチニール色素とは?

コチニールカイガラムシは、中央・南アメリカ大陸に生息し続けてきた虫。
ウチワサボテンの唯一の餌としてコロニーを作り、灰色の楕円形の体をしている。
気持ち悪いという意見が多数になりそうなので、写真は控える。
サボテンに綿ごみ?綿埃がついている感じを想像するといいかも。

コチニール染料約450gを作るのに、乾燥させた虫が約7万匹必要だそうだ。
(これは想像しない方がいいかも。笑)

この虫を潰すと、赤い液体がでる。
潰しただけで赤い染料がとれる。最強ではないか。

補足すると、現代では化学合成ができてしまうが、その昔は、鉱物や植物、虫など自然に存在するさまざまなものを、苦労して採取してから、潰したり、何かと混ぜ合わせたりしなければならなかった。なかには毒性の強いものも、高価すぎるものもあった。
絵を描くだけでも大変なことだったのだ。

でも、コチニールの場合は、布に色を定着させるのにミョウバンを使うくらいでよいので、最強だなと思ったのである。

コチニールの歴史

コチニールは、中央・南アメリカ大陸では、紀元前2世紀から染料として使用されてきた。
アステカ帝国、インカ帝国でも重要なものとされ、アステカ帝国への貢物として、ミシュテカ族は年に40袋、サポテカ族は80日ごとに20袋納めなければならなかったそうだ。

補足
アメリカ大陸には、紀元前から独自の文化が形成されていた。
しかし、1942年のコロンブスがアメリカ大陸を発見し、スペインが乗り込むことで、全てが変わった。

アステカ帝国は1428年〜1521年まで、現在のメキシコ中央部に栄えた国。ミシュテカ族 サポテカ族というのは、アステカ帝国に服属していた人々。

インカ帝国は、現在のペルー、ボリビア、エクアドルのあたりにケチュア族が築いた帝国。
世界遺産のマチュピチュがある。1533年に滅ぼされた。
インカ帝国最後の皇帝も深紅色のビロードのマントを着用していたという記録がある。

スペインの支配下に入ったコチニール

かくして、中央・南アメリカがスペインの支配下になると、金銀と並んでコチニールが重要な財政的支柱になった。金銀と並ぶとは驚きである。
1587年には、72トンのコチニールがリマからスペインへと輸送されたそうだ。
コチニールカイガラムシ約100億8000万匹!!!

スペインに運ばれたコチニールは、ヨーロッパ各地へと流通し、生地を染めたり、チークなどの化粧品として、また医薬品としても使用された。

スペイン王フェリペ2世は具合が悪くなると、コチニールと酢を混ぜた、まずそうな液体を飲んだそうだ(でも現在かまぼこにも使われていることを考えれば、無害だろうね)

フェリペ2世は「太陽の沈まぬ国」と言われた、スペインの最盛期に王になった人物。
(いろいろおもしろい話はあるけど割愛)

さらに、カンボジアやシャム、中国にも渡った。日本には江戸〜明治時代にかけて入ってきたといわれている。

現代のコチニール

紀元前からアメリカ大陸で使用されていたコチニールは、化粧品や食品への添加物として現代でも使用されている。
わずか3mmの虫なのにスケールがでかい。

まぁ、虫を使うことは賛否両論あると思うけれど、昆虫食は人類が樹上生活しているころからしていることだし(数百万年前の話)、昆虫食が普通の民族もいる。
ただ、動物性食品がNGな宗教もあるし、アレルギーなどの体質もあるし、気をつけつつ柔軟にしていけばいいのでは?というのが私の考えである。

青い食品をみると、食欲が減退するように、人は、色味や見た目によっても美味しさが変わる生き物だから。

<参考文献>
カシア・セントクレア 著 木村高子 訳『色の秘めたる歴史 75色の物語』


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