小室哲哉の夏曲コレクション・2020〜楽曲ライナーノーツ(後編)
小室さんは,TM NETWORKでのデビュー以来,いやその前のスピードウェイの頃から,たくさん夏の曲を作ってきました。そこで,ginza TK NEXTの放送中のチャットや,Twitterのハッシュタグで集めたリクエストをもとに,45曲・約4時間のプレイリストを作成し,SpotifyとApple Musicで公開しました。前回に引き続き,今回は後編をお届けします。
22. So far away from home (Beautiful Journey)/globe
1997年のアルバム『FACES PLACES』収録曲。2 Unlimitedを意識したアッパーなダンスミュージックでデビューしたglobeが,LAへと拠点を移して,オルタナティブ・ロックを志向するようになったなかで生まれた曲。「七つの刺青 眩しいネオン」など,マークパンサー独特の言葉選びが光る歌詞には,遠く離れた地で新しい音楽・新しい人生に向き合う決意が感じられる。
23. try this shoot/globe
2001年の23rdシングル。globeの音楽がトランスへと舵を切る中で生まれた,疾走感あふれる名曲。当時,小室哲哉はACIDというSonic Foundry社のループシーケンスソフトを製作に導入しており,イントロの「this try…」というSEもACIDのプリセット。当時のインタビューでは,「トランスの曲を作る場合は,スタジオに置いてあるNord Lead3,ROLAND XP-80といったシンセがほとんどで,最近はピアノから曲を作っていませんね。あと、何といっても外せないのがSONIC FOUNDRY Acid...」と発言している。
24. Here I Am/globe
2005年の30thシングル。疾走感のあるトランス曲が続いた後で,その要素も含みつつ,ミディアムテンポでゆったりとしたグルーヴの曲になっている。一方で,ブレイクビーツやスネアの入れ方,細かいシーケンスのフレーズなどには,ジャングル〜ドラムンベースの要素も感じられる。歌詞は,KEIKOの実家のある,大分県臼杵市の情景を感じさせるものになっている。小室哲哉の束の間の息抜きのような曲ともいえる。
25. OVER THE RAINBOW/globe
2002年の27thシングル。前作の「Many Classic Moments」に続き,悔恨の念に傷ついた心を癒してくれた存在への感謝の気持ちが,土砂降りの後に空へと現れる虹の情景に込められている。同じように,さまざまな挫折や閉塞感のなかで生きる現在の人々にとっても癒しとなる曲。小室哲哉は六文銭時代の及川恒平の歌詞が好きだったが,特にglobeの『Light 2』における歌詞は,及川恒平や岡本おさみといったフォーク黎明期の作家を意識している。
26. 海との友情/KEIKO
2003年に,KEIKOのソロシングルに収録され,2006年にglobeのアルバム『maniac』に収録された。大磯ロングビーチのCM曲として,当時西武グループの堤義明オーナーに依頼されて製作した楽曲。シングルには「JAZZ IN GROOVE MIX」が収録されているが,Vシンセに取り込まれたKEIKOの声に続き,アウトロでは,小室哲哉によるジャズアドリブのエレピがアウトロで存分に堪能できる。
27. EZ DO DANCE/trf
1993年に発売されたtrfの2ndシングル。シングルとしての最高順位は15位であったが,2年にわたる驚異のロングヒットを続け,trfのみならず,小室哲哉の代表曲となった。現在は,必修化された体育の授業におけるダンス,EZ DO DANCERCIZEなどのエクササイズ,お年寄りの健康維持,盆踊りなどにも活用されるとともに,常に若手アーティストによりカバーされ続けており,老若男女が生涯にわたり楽しめる国民的楽曲へと成長した。
28. ISLAND ON YOUR MIND/trf
trfの1stミニアルバム『EZ DO DANCE』収録曲。シンプルなリズムに,trfメンバーと小室哲哉の声の重なりによるコーラスワークで生み出される楽曲の斬新さは,前年までの日本のポップスで続いてきたハウスミュージックの傾向を大きく塗り替えることになった。また,レイヴシーンから生まれてきた実験ユニットであったtrfが,国民的ポップスを生み出す存在へと化ける潜在能力を感じさせたのが,この曲であった。
29. Waiting Waves(NEO-RAGA MIX)/trf
テクノからグルーヴへと音楽性を広げたアルバム『WORLD GROOVE』のなかで生まれたレゲエ曲が,Will Mowatによるグランドビートを取り入れたリミックスで,より楽しい仕上がりになった。12インチシングルには,RAP ONLY MAXI MIX,NO VOICE MAXI MIX,DRUMS MAXI MIXが収録されているので,素材取りにも使える。ヴォーカルはCHIHARU,ETSU,SAMが担当しているが,加工された原曲よりもそれぞれの声がよくわかる。
30. survival dAnce ~no no cry more~/trf
「EZ DO DANCE」と並ぶtrfの代表曲で,どちらもPete Hammondによるミックス。2曲ともサビの「ポウ」という合いの手が定番になっているが,これは,発売から長い年月を経て自然とお約束に成長していったもの。特に1994年のtrfの楽曲は,「思い出」や「旅立ち」を歌った曲が多く,メロディの切なさが際立っている。ディスコでもこの曲に人気が集中し,ジュリアナ東京のラストを飾ったのもこの曲だった。
31. Le Bleu(GRAND BLEU DANCE)/trf
1994年のミニアルバム『BILLIONAIRE〜BOY MEETS GIRL〜』収録曲。映画「グランブルー」をモチーフに,ラテンの要素をコード進行やパーカッションに取り入れた曲。「BOY MEETS GIRL」同様に,旅立ちや恋人からの別れの情景を,海沿いのモーテルを舞台に綴った。「DEPARTURES」と同様に「愛」と「夢」のジレンマを描いている。小室哲哉によるイントロやサビでのコーラスがモスキート愛好家の間で密かに嗜まれてきた曲でもある。
32. KOOL LOVERS SENTIMENTAL/trf
『BILLIONAIRE〜BOY MEETS GIRL〜』収録曲。夏の終わりの恋人たちの情景を,可愛らしく描いた,trfのなかでもとびきり「エモい」曲。半音の転調や,マイナー調のメロディがクセになる。「重い荷物はあなたが 軽いジョークは私が」という歌詞は,YU-KIのパーソナリティを上手く活かしている。小室哲哉によるシンセギターやシンセベースが効果的に用いられているのも聴きどころ。
33. BRAVE STORY (English Vox Main Pass)/TRF
1996年の15thシングルの英語ヴァージョンで,アルバム『Burst drive mix』にボーナストラックとして収録された。原曲はDave Reitzasによるミックスだが,このトラックはEddie DeLenaによるミックス。trfからTRFへと表記が変わり,Eddie DeLenaのミックスにより,ベースを意識した大人のダンスミュージック。『Burst drive mix』に入っている「JONATHAN PETERS CLUB MIX」もエモさ爆発のリミックスになっていてお勧め。
34. LEGEND OF WIND/TRF
1996年の17thシングル。ポスターには「TRFが贈るスーパーウィンターソング『LEGEND OF WIND』と書かれていたが,実際には「JAL ハワイ・キャンペーン CMソング」で常夏のハワイを描いている。小室哲哉と久保こーじの共作曲で,エルトンジョンバンドのKim Bullardにより生のスティールパンの演奏が導入されている。ハワイを歌った楽曲へスティールパンを取り入れることの正統性については,現地ミュージシャンへの確認をとっている。
35. 涙は魅せない/北乃きい
2011年の北乃きいのアルバム『心』収録曲。AQ052ということで,小室哲哉の復帰後52番目に作られた曲。久保こーじ主導による編曲が行われ,クラッシュシンバルなどリズムトラックに90年代当時の音色も移植されており,木村建がギターに参加しているので,往年の小室サウンドファンにも嬉しい仕上がり。仮タイトルは「shy love」だった。
36. 風華恋/北乃きい
アルバム『心』収録曲。小室哲哉の意図を汲み取った上で,音楽的なバランスが取れた齋藤真也による編曲が素晴らしい。齋藤真也はAAA「逢いたい理由」「PARADISE」などの編曲も手掛けていて,相性も良い。小室哲哉によるモノローグとも言える歌詞を,切ないメロディに合わせて情感たっぷりに歌い上げる北乃きいの歌唱力も光る,隠れた名曲といえる。
37. Charge & Go !/AAA
2011年に発売されたAAAの30thシングル。震災の影響があり,当初はミュージックカードのみのリリースであったが,ファンの強い要望と,日高光啓の強い働きかけによりシングルとしてのリリースが実現した。元々ベーシストで,ハウスリミックスがNYなどでも評価を受けているArmySlickによる編曲で,低音域も安定した楽曲になった。「負けない心」に続くKenn Katoによる前向きな歌詞も光る。
38. スターダストLOVE TRAIN/超特急
2015年に発売された超特急の9thシングル。小室哲哉自らの編曲によるドラムンベース/ジャングル曲。当時の小室哲哉は,2012年ごろからH jungle with tの再会を望み,浜田雅功への楽曲提供を熱望していたが実現しなかった。もし2010年代のH jungle with tが実現していたら,こういう感じの音楽になっていたかなと想像させてくれる曲。
39. THX A LOT/a nation's party
a-nation 2010の公式テーマソングとして書き下ろされた楽曲。CDにはTRF、hitomi、Every Little Thing、浜崎あゆみ、Do As Infinity、倖田來未、大塚 愛、鈴木亜美、AAA、GIRL NEXT DOOR、ICONIQの11組が参加している。作詞は小室みつ子,編曲は南俊介が担当した。mu-moでは「TKシンセソロ ver.」も配信された。
40. RAINBOW RAINBOW 2014/TM NETWORK
本プレイリストに2回目の登場となる。アルバム『DRESS 2』収録曲。ノークレジットながら,溝口和彦がマニピュレーションの一部に参加し,安室奈美恵,PANDORA,乃木坂46などを手がけるTK SONG MAFIAやMusic Designへと繋がる新たな方向性の一端を垣間見ることができた。1984年のリリースから30年を経て尚,ダンスミュージックの進化を辿ることができる楽曲。
41. You & Me/浜崎あゆみ
2012年に発売された浜崎あゆみのベスト盤『A SUMMER BEST』に収録された新曲で,夏のa-nationの定番曲となった。小室哲哉のアルバム『DEBF3』のmu-moショップオリジナル特典であった「"AQ140" (Instrumental Live Version)」が原曲。ミニアルバム『LOVE』にも,「You & Me」のリミックスが2トラック収録されている。夏曲だが,歌詞はglobeの「DEPARTURES」へのオマージュとなっている。
42. How do you feel now ?/安室奈美恵
安室奈美恵の引退作となった曲。安室サイドに提示した3曲から選ばれた。TK SONG MAFIAがマニピュレーション・編曲を小室哲哉とともに手掛けたが,avex側で少しだけ音が追加されている。アルバムとの調和を重視したミックスで製品化されたため,小室哲哉がDJを行う際は,低音を増強したクラブ向けのミックスが使用される。
43. Be The One(UK MIX)/PANDORA
2018年に発売されたミニアルバム『Blueprint』収録。小室哲哉と浅倉大介による新ユニットのシングル曲が,Dave Fordのミックスにより,サブベースを含む低音域に迫力が増す仕上がりになった。編曲にはTK SONG MAFIAが引き続き携わった。引退を発表した直後にリリースされた作品であったが,ダンスミュージックの次の時代への進化を予感させるものであった。ヴォーカルを担当したBeverlyの圧倒的な歌唱力が光る。
44. Route 246/乃木坂46
引退によるブランクを経て2020年に発表された復帰作。TK SONG MAFIAがMusic Designに名前を変えて引き続きマニピュレーション・編曲を担当。Dave Fordが,PANDORAに続き低音域に厚みを持たせたミックスを行った。「小室進行」「転調」「JDピアノ」など小室サウンドの王道といえる要素を網羅するとともに,moogによるポルタメントを効かせたシンセ音を重ねるたり,Bメロで2小節ごとの転調を行うなど,玄人ほど唸る仕上がりのアレンジになっており,2020年代の小室サウンドに期待を持たせてくれる。
45. WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント/H Jungle with t
1995年に発売されたダウンダウンの浜田雅功とのユニット最大のヒット曲で,「世界で最も売れたジャングル曲」になった。コロナ禍に襲われた2020年,この曲の中で歌われている「肩を並べて飲む」「温泉でもいこう」などのことが,自粛などにより難しくなっていることが,小室哲哉の復帰への動機の一つとなった。働く世代の応援歌として親しまれているが,2020年に新たな役割を持ったこの楽曲を,プレイリストの「締め」に選んだ。
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