大学時代の記憶#2:駒場精神科
上の記事で大学時代には相当時間アルバイトをする必要があったという話をしました。
実はその結果体調を崩してしまい東大保健センターの精神科に行ったことがあって、そのときの話を書きたいと思います。
この頃はフルタイムで働いているのではないかというくらいバイトをしていて、その結果精神的に追い詰められ身体が重くて動けなるといった鬱のような症状が出てしまいました。
私の知る限り、困窮世帯から大学進学し働きながら学校に通っている人のほとんどが何らかの形で体調を崩しています。
中には休学や退学する方も多くおり、自分もその瀬戸際だったのではないかという気がします。
私は人に相談したり愚痴ったりというのが苦手です。
弱音を吐くのが格好悪いと思っていて、自分の心理を人に話すのが好きではありません。
その私が精神科に行ったということは相当追い詰められていたんでしょう。
東大数学科は駒場キャンパス(赤門のある本郷キャンパスとは違います)にあります。
そして駒場の保健センターには精神科があって、無料で診察してもらえます。
診察では発達障害かどうかを見極める問診が行われ、その結果「典型的なADHDですね」と言われました(まあそうだよねと思いました)。
どうやら駒場精神科に来る数学科生は多く、その中で発達障害と診察される人も多いということのようでした。
ただ、私の辛さはそういう障害というよりかはむしろ相当時間アルバイトをしなければならないことや、
その中で数学をやって成果を上げなければならないことから来ていると思っていましたから、そう説明しました。
医師からはそれは精神科で対処できる問題ではないという返答でした。
これは十分予想の範囲内でした。
実はこのとき精神科に行った一番の理由は無料で入院できる方法がないか教えてもらうということにありました。
残念ながら、これに関してもそういう方法はないというのが返答でした。
私は落胆して帰路につきました。
その途中、さっきまで診察してくれていた医師から電話が入りました。
その医師は念入りに「これを勧めているわけではない」ということを前置きしたうえで、
「犯罪を犯した人が措置入院するときは無料だと思う」ということを教えてくれました。
この対応は賛否あるかもしれませんが、私自身はかなり好意的に受け取りました。
これは私の推測ですが、この方は数学科の人間(の一部)が自分の質問に相手が正確に答えないことを極端に嫌う傾向にあること、そして後から不正確な回答をしたことが露呈すると場合によっては医師としての信用を完全に失うということを知っていたのではないかと思います。
私自身もその傾向がありますが、もっと明らかにそういう感じの同級生もいました。
そしてそういう同級生からの質問には、通常自明に排除されうる例外も排除せず返答するよう心がけていました。
この医師の対応はこういう事情が背景にあるのではないかと感じました。
この人は私たちのことをよくわかっているなと思った記憶があります。
在学中、私は学内の相談施設に大体全部行きましたが、その中で駒場精神科のこの対応は唯一納得できるものでした。
誰にも理解されないと思っていた自分の一部を、何も言わずに理解されたというのは初めての経験でした。
誠実な対応というのにも色々あるんだなと思います。