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(再掲)レポート:「スーパーテコンV」に見る玩具に振り回されるロボットアニメビジネス

 1年前書いたお気に入りの文章なので再掲します。

2020.5.17

 昨今の情勢の中生活の大半を自宅で過ごす事になり、最近もっぱら80年代ロボアニメを視聴し順調にオタクとして活動を行っていた。作品や放映リアルタイム時のCM、当時の制作事情を語るインターネット記事や当時物のムック本等資料を集め読むなど充実したオタ活に励んだ。そうした中で最近(というか昨日)に発見、研究した事柄を本稿にて発表したい。

1.テコンVの概要

 韓国に「テコンV」というロボットアニメがある。一部界隈で非常に有名な、いわゆる「マジンガーZに激似」でお馴染みのロボットである。興味が有る方は是非youtubeで調べてほしい(あと初代マクロスのバルキリーが巨大ネズミや悪魔と闘う「スペースガンダムV」もお薦めである。本稿を執筆するに至った原因は初代マクロスを見ていてふとスペースガンダムVのくだらない主題歌を思い出したからだ)。

 テコンV は1976年軍事政権下の韓国で誕生し今も絶大な人気を誇るらしい、テコンドーをベースにした韓国産ロボットアニメである。妙に儒教思想が強かったり日本人がテコンドーで負けるシーンが無意味に挿入されたりと珍奇な内容をしているらしい。

 日本の大衆文化が禁止されていた同国であるが65年の日韓国交回復条約以後日韓共同でのアニメ制作、つまり韓国のスタジオが日本の制作会社下請けを担うケースが多くなった(67年の黄金バットや68年の妖怪人間ベム等がそれの最初期のケースである。82年初代マクロスのクソ作画回に毎回クレジットされていた"スタープロ"などが韓国下請けプロとして有名)。そうした背景で生まれたのがこのテコンVである。

 テコンVは劇場用作品であったが好評であったため90年までに7作品制作されている。76年公開のテコンVは72年放映のマジンガーZに酷似、82年に新機体として登場したスーパーテコンVは同年放映のザブングルに酷似している。ここで一つの疑問が浮かび上がる。

 76年時点ですでに日本で大人気だったマジンガーZを模倣する事は理解できる。しかし82年時点でガンダムやダグラム、ザブングル前番組であるダイオージャ等模倣できるデザインは大量にあったはずなのに、同時進行であるザブングルを選んだのは何故か。また完全にザブングルのみのデザインが模倣されており、他のロボットの成分が一切そこに無いのは何故か。

 何故ザブングルなのか?

2.ザブングル、スーパーテコンV両方の可変機構デザイン

ザブングル 変形

 ザブングルとは82年放映「戦闘メカザブングル」に登場する主人公メカである。支配階級との闘争というストーリーやサブ機体のメカデザイン、美少女キャラの存在等は高年齢層を意識したものであったが、前番組ダイオージャが低年齢層向けの物語であったため本作もそれを意識した部分があり、特に主人公機にはそうした年齢層に向け玩具のプレイバリューとしてトレーラーと戦闘機との2機が合体して変形するという機構が取り入れられた。ザブングルは上に載せた動画の通り変形する設定となっている。

ザブングル クローバー

 しかし当時の放映時間帯メインスポンサーであったクローバー(バンダイがガンプラを発売する以前の1979年ガンダム本放送時のスポンサーだった玩具メーカー。低年齢層向けの玩具(”ガンダムDX合体セット”で検索)を主に販売していた。83年倒産)が発売した玩具では頭部が上にスライドする機構が再現できず、代わりに胸板を開きそこの空洞に頭を折り曲げて収納するという何とも言えないギミックで問題を解消している。可変の限界をなんとか玩具に落とし込んだ、正に名(か迷)ギミックと言える。上記動画は本放送時のTVCMのものである。

 一方スーパーテコンVの可変機構はどうなっているのか。

スーパーテコンV 変形2

 上記がスーパーテコンVの戦闘機(?)形態である。本シーンはこれに搭乗している女性パイロット(喘ぐだけで何も攻撃しようとしない)を敵ロボット(ガンダムの敵メカに酷似している)の攻撃から救うため、画面右上の戦闘機から胸のVの字へ主人公が飛び移るシーンである。 パイロットが2人になりスーパーテコンVはロボット形態に変形。

スーパーテコンV 変形

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 勘の良い方はお気づきになられたかもしれない。この変形機構はザブングルのものではない。しかしまた一方でこれはザブングルの可変機構を有しているとも言えるのだ。

クローバー製の玩具と全く同じ可変機構をしているのである。

3.何がスーパーテコンVをそうさせたのか

 今週土曜日、本当に何気なく先程のスーパーテコンVの動画を視聴していたところこの変形シーンと出会い、それにより先述の疑問全てに終止符が打たれた(本当に感激のあまり「アッ!!!!」と大声をあげてしまった)。

 クローバー製玩具を真似たスーパーテコンVの玩具が絶対にあるはずである。これは純粋な発想から生まれた新作ではなく、コピー玩具を売るため制作されたフィルムだったのだ。

 その発想に至り急いでインターネットで調べると、ピクシブ百科事典「スーパーテコンV」のページにて「 韓国の玩具メーカーが、出資の条件として監督のキム・チョンギ氏に日本のロボットアニメ「戦闘メカザブングル」の玩具を持ち込み、製作された 」と明記されていた。自分のくだらない知識の蓄積が一つのアンダーグラウンドカルチャーを解明するに至ったのだと、非常に強い感動を覚え一人で興奮していた。

ザブングル てこんV1
ザブングル テコンv2
ザブングル テコンVpng
3ザブングル テコンV

 インターネットにてキャプチャした比較画像で、左がクローバー製ザブングル、右がポパイ科学(?)製スーパーテコンVである。なるほど、メカデザを模倣したというより本当に玩具そのものをパッケージから何から何まで模倣し作られたロボットだったのだ。ちなみにザブングルはライフルを所有しているがテコンVはテコンドーで戦うため、敵から銃を奪いすかさず相手にブッ放したりしている(結構非道に映る)。玩具に同封されている銃のためにわざわざそんな描写を盛り込んだりしたのであろうか。

ザブングル テコンV1

 胸部ギミック。可変を再現しきれずそういうギミックになったクローバーザブングルとは違い、テコンVは玩具ありきの可変設定であるため胸板の奥にはパイロットシートが描かれている。またザブングルの両腕についてあるロケットパンチは本編と全く関係なくつけられた玩具オリジナルのもの(クローバー問わず当時の玩具によくあったこと)であるが、玩具ありきであったテコンVは本編中しっかりロケットパンチを発射している。

テコンV ロケットパンチ

 82年でアニメ本編でロケットパンチは流石に古いだろ、と思うがお隣の韓国だとそんな事は無かった様である。

 スーパーテコンVが公開されたのは82年7/30日である。一方ザブングルの放映開始日は同年2/6日。仮に本家玩具発売日をTV放映開始同日と考えるとザブングル玩具を韓国に持ち込む→監督にデザイン提示→アニメ制作、公開 とのプロセスが半年に満たないものであったと知り非常に驚愕している。20分のTVアニメの制作に3カ月と聞いているため、このスケジュールが如何に強行であったか窺い知れる。

 本件は特殊なケースであるが、世界を問わずロボットアニメと言うものが収入源をロボット玩具に大いに依存し、玩具先行で制作されていることがよくわかる。マジンガーZは永井豪本人考案の企画としてスタートしたが、放映半ばの時にポピーが発売したダイキャストフィギュアが爆発的に売れた。以降ロボットアニメのビジネスモデルは如何に売れそうな主人公機を玩具ありきでデザインし、それをカッコよく動かす「おもちゃの宣伝フィルム」「30分のCM」として本編をどれだけ放送できるかに凝り固まってしまった。まあどの玩具主体アニメもそういったビジネスモデルなのだが...。全く独立した物語を無理矢理「ガンダム」にしてしまうことでプラモデルを売ろうとする魂胆や、おもちゃ会社の意思が肝心の物語にテコ入れされ内容にひずみが生じる等ロボット玩具ビジネスの根幹を成す「超合金の呪い」は現代もアニメ周辺を支配している。

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 スーパーテコンVも結局玩具企業の思惑でザブングルに似せられた悲しきモンスターであったのだ。だがコピー商品を販売する玩具企業も酷いが、作品として戦闘シーンが全く面白くなくノリノリで劣悪にコピーしているアニメ会社も酷い。絶対にどちらも許してはならない。興味のある方はyoutubeにて「テコンV」「スーパーテコンV」「スペースガンダムV」...etc と検索しぜひぜひ韓国パチモンアニメの世界に浸ってみて頂きたい。きっと味わい深いはずだ。

 文章の練習にと書いてみたが、こんなもの書いたところで人生の何の得にもならないのだ。世知辛いね。終わり


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