幼稚園の年長の2月3日、先生が僕ら園児たち一人ひとりの片手の中に節分の豆を配った。
これは、撒くものではなく、年齢の分だけ食べる用。
先生がクラスの園児全員に配り終え、号令のように「どうぞ」と言ったタイミングで、園児が一粒ずつ豆を食べる。
運動会で玉入れ競技の個数確認をするように、みんなで一つ、二つ、と数えながら。
そんな先生のプランは突如崩壊した。
園児たちは、片手に豆を持ったまま待機。
けいと君という男の子一人を除いて。
あんぐりとしている先生の目線の先には、口の中に豆を全部入れたまま、「間違えた」と言わんばかりに無言で涙を流すけいと君。
通常子どもは口を開けてワンワン泣く。
けれども今、彼の口の中には炒り豆が詰まっていて、声を出したら口からこぼれてしまう。
それが品のないことだと分かっている彼は、ただただ泣き顔、そして無言で口を大きく開けて涙を流す、あの時のけいと君の顔が忘れられない。
(↑5才以外には硬い豆を食べさせないで、という注意喚起の動画を貼っているはずですが、貼れていないかも。)
先生も先生だ。
6才程度の子ども一人につき20粒くらい与えているのだ。
多いよ。
けいと君とはそのまま同じ小学校に上がったけれど、すぐに転校していってしまった。
けいと君、僕は君の漢字も覚えていないよ。
楽しい思い出をもっと作りたかった。