書評 気候変動の真実 スティーブン・E・クーニン
同書を読み終わったタイミングで、COP29の合意に関するニュースが流れた。合意とはいえ、途上国から不満が出るわ、米国ではトランプ次期政権は、この問題に対しては批判的なので、あまり意味の内容に終わるように、個人的には感じる。振り返れば、小生が中学生だった80年代から「フロンガスで地球のオゾン層が破壊される」と言われ、それからずっと「地球温暖化」がメディアなどを通じて、喧伝されている。90年代初頭に編集系の専門学校にいたときに、科学ジャーナリストだった講師が、「地球の気温は上がっているのは事実だが、かといって、それがすぐ地球の危機につながるというかと言えば、そうとは限らない」と言っていた。
著者は、米国を代表する科学者で、解説を書き、現在の地球環境問題をめぐる言説に懐疑的な発言を発信を続けている杉山大志は、同書の見解を次の通りまとめている。
・もともと気候は自然変動が大きい
・ハリケーンなどの災害の激甚化・頻発化などは起きていない
・数値モデルによる温暖化の将来予測は不確かだ
・大規模なCO2削減は現実的ではなく、自然災害への適応が効果的
杉山もNHKの地球温暖化をめぐる報道を批判するが、著者もこうしたあり方に批判的で、環境問題に関してのメディアなどでの取り上げられ方に、下記の「ヒント」を示し、警鐘を鳴らす。
・科学者を「否定論者」「アラーミスト」呼ばわりする人は、政治やプロパガンダに関わっている
・科学者の「97%が合意」といった主張も怪しい
・気象と気候の混同も危ない
・数字をはしょるのも怪しい
・不安をあおる数字を背景情報なしに引用するのもよく使われる手
・非専門家による気候科学理論では、過去の気候(観測結果)と今後の気候(さまざまなシナリオに基づくモデルの予測)の混同もよく見られる
個人的には、「気象と気候の混同」が印象的で、1年の悪天候が気候の変化をもたらすことはなく、気候は何十年もの間に決まるとの指摘が、目から鱗が落ちる思いだった。
一方で、著者は人間による気候への影響を減らすためにできることは、たくさんあると説く。そのうえで、社会の対応のあり方について、発想の手順を次の通り示す。
・気候への人間の影響を、国連や多くの政府が賢明と見なす水準以下にとどめるためには、何十年も増え続けている世界の二酸化炭素排出量を今世紀後半にはゼロにしなければならない
・人口動態や開発によりエネルギー需要が急拡大し、化石燃料が支配的地位を占め、低排出技術にまだまだ欠陥があるなかで、排出量を削減しなければならない
・こうした障害に加え、将来の気候への影響が不確実かつ曖昧であることから、最も見込みの高い社会的対応は、気候の変化に適応することだろう。そしてこの適応策はかなり有効だろう。
上記3点については、データや分析を同書で示しているが、著者は本の結びで、自身がやるべきことについて、「気候やエネルギーをめぐる社会の意思決定の材料となる科学のあり方に、公正さを取り戻すこと」と語っている。環境問題について、今後考えるうえでこれが必要不可欠であるように、個人的には感じた。