パラレルワールド

エッセイを読んだ
日常の一幕を切り取って、その時感じたことから、
過去にあった出来事を振り返り、そこから新たな発見をして、自己について面白おかしく考察する。

それを読んで僕は感服した。

感動というより感服だ。
中学時代にどんな塾に通ったらこんな考え方ができるのだろう。

いい歌詞に触れた時も感服した。
ギターが弾けるだけで人としての能力は十分だというのに、人並外れた感性とそれを表現する言葉の力まで手にしてしまったら、不公平だ。
シンガーソングライターよ、自分が人類の能力のバランスを崩していることに気づき、自重して欲しい。

彼らの感性が羨ましい。

僕が道端の花を見て「花だ。綺麗だ。」と思っている間に
彼らは「この花に名前をつけてみよう」だとか
「下ばかり見ている事に気づいた」だとか「空一面がこの花の色になったら…」だとか
僕が10分考えないと思いつかないことを息をするように感じて生きているのだろう

彼らの見えている世界は
僕の見えている世界と違う

パラレルワールドが本当にあるか分からないが
少なくとも僕とシンガーソングライターの間にパラレルワールドが存在しているのは事実だ。

なぜ僕は彼らのパラレルワールドに行けないのだろうか。
環境のせいか、遺伝のせいか、そう思わせるくらい根本的に世界が違うと思えてくる。

ただ、一つ疑問に思うのは、彼らの感性を持って日常を生きていたら、時間の流れが間に合わないということだ。

朝起きて、トーストを焼いている間にトイレに行って、顔を洗って焼けたトーストを食べながら着替えをする。

現代人はこのようにひっきりなしに行動をしている。
当然、その短時間に考えられることも限られてくる。

それをシンガーソングライターは悠長に
「朝に僕を起こしてくれた鳥に名前をつけよう」だとか
「トーストにキミとの悲しい思い出を乗せて一緒に焼いてしまおう」だとか
「トイレのレバーに大と小だけじゃなくて『涙』もあったらいいのにな」だとか
「顔を洗ったから今日は昨日と違う僕」だとか
「焼けたトーストの焦げたところはキミとの悲しい思い出」だとかなんとか

考えてる暇なくないか?

シンガーソングライターは凡人より多くの時間が与えられているのか、
それとも凡人と頭の回転が早すぎるのか。
しかし高速でそんなロマンティックなことを考えているのは、なんだか気味が悪い。
ロマンティックなことを考える時のBPMはゆったりであってほしい。

もしどちらでもないなら、ぜひシンガーソングライターの口から言って欲しい

「僕たちだって普段は何も深いことは思ってないけど歌詞にするためだけに必死に色々思ってることにして後から考えているだけだよ。」

と。
言ってくれたらどれだけ心が軽くなるか。

ああよかった。あなたも頑張って考えて、思いついた時には小さくガッツポーズをしていたんだね。
と、安心して背中を叩いてあげられる。

しかし今日もシンガーソングライターは
「普段から何気なく思っていることを歌にしました。」
という顔をして素敵な歌詞のマシンガンを乱射してくる。

シンガーソングライターがいるパラレルワールドがあるのなら、どうか一度僕を連れて行ってください。

パラレルワールドでシャボン玉と紙ヒコーキを飛ばしてみるので、僕に何かを感じさせてください。




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