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マストドン(Mastodon)は普通のSNSのようで普通のSNSではない事を理解してもらう話

はじめに

まずはこちらの記事を見てほしい。

ミニブログサービスとして知られる、「Tumblr(タンブラー)」が、マストドンと接続するというニュースだ。イーロン・マスクがTwitter(ツイッター)を買収して早1ヶ月が経とうとしている。分散型SNSであるマストドンへの注目が高まる中、タンブラーもまたツイッターからの移行先として一部で注目されており、「移民」受け入れに協力するという体でマストドンへの接続を表明した形になる。
タンブラーとマストドンがなぜ接続出来るのか。端的に言えば、それは「ActivityPub」と呼ばれるシステムがあればどんなSNSでも接続できるからだ。筆者はActivityPubに関しては不勉強なため、詳しい説明は識者に一任するが、タンブラーがマストドンでも使われているActivityPubを導入することにより、マストドンからタンブラーの投稿を、逆にタンブラーからマストドンの投稿などを閲覧することが可能になるのだ。

マストドンは単一のSNSではない。ActivityPubというシステムを備えていれば、タンブラーなど他のSNSとのやり取りも可能になる。
それなのに、「マストドンは政治的に偏った思想の人間しかいない」「マストドンはエロ垢※1しかいない」などといったツイートばかりが拡散され、誤解が広まっている。
※1エロ垢:ツイッターなどの大手SNSで、性的なコンテンツをひけらかし、ひいては詐偽を行うアカウント。

高々数時間程度しか様子を見ていないだろうにも関わらず、マストドンの全てを知ったような口でインフルエンサーが偏見を広めることは大変遺憾である。本稿ではそういった誤解を正すべく、マストドン特有の性質として、「マストドンは狭い世界ではないこと」「マストドンでは能動的に動くもの」という2つの性質を記す。

「mstdn.jp」だけ見て全てを理解したと思わないこと

マストドンは、大小様々なサーバーが結びつく事によって形成されるSNSである。
「雑談がメイン」「他のサーバーを探す拠点」「絵描きのための集い」「ポケモンの話題を主にする場」「ボカロPが集う場」「艦これプレイヤーが集う場」「言論の自由を尊重したサーバー」など様々なテーマやコンセプトの下に成り立つサーバーが多数存在し、マストドン歴5年の筆者ですら存在を把握していないサーバーも多い。またこれらのサーバーの集合を「Fediverse(フェディバース)」とも呼び、マストドン以外にもActivityPubを使用したSNSが多数存在する。しゅいろ氏開発の「Misskey(ミスキー)」が代表例だ。

さらに、マストドンには3種類のタイムラインがある。

  • ホームタイムライン(HTL)

  • ローカルタイムライン(LTL)※2

  • 連合タイムライン(FTL)※3

※2ローカルタイムラインはマストドン公式アプリでは「コミュニティ」
※3「連盟」「連合」などを表す「Federation」の頭文字

ホームタイムラインは一般的なSNSのタイムラインと同機能だ。自分の投稿と、フォローした他の人の投稿が流れてくる。
だがローカルタイムラインは、誰もフォローしなくても、自分と同じサーバーに属しているほぼ全ての投稿(非公開の投稿などを除く)が流れ、連合タイムラインも、誰をフォローせずとも自分が所属しているサーバーを含めたほぼ全世界の投稿が流れてくる作りになっている。
つまり、ローカルタイムラインでは誰もフォローすることなく、自分が所属するサーバーのコミュニティに参加したり発信したりすることが出来るのだ。そこには大勢のユーザーが集い、特定の話題で盛り上がり雑談する事もあれば、各々が自分の発信したい事を自由に発信している事もある。そこは言わば駅前広場や酒場のような空気感であり、一種の多様性がある。

ところで「マストドンの人々とは気が合わない」というような発言をよく耳にする。確かに、マストドンユーザーの中にはどうしても気の合わないユーザーも居るだろう。だがそれはツイッターなど他のSNSでも同じだ。
当然である。この世には数え切れないほどのマストドンサーバーが存在し、マストドンサーバーの数だけサーバー内での価値観や文化、利用規約が存在している。故にミスマッチが生じる可能性も十分にある。

「mstdn.jp」というサーバーがある。このサーバーは「マストドンを始めてみた!」というような記事や、マストドンについて何ら下調べもせずアプリをインストールした人々が、「人数が多いから」「日本鯖だから」という理由でアカウントを作る事が多い。下記の記事でも、人が多いという理由でmstdn.jpに実際にアカウントを作る一部始終が記載されている。

「mstdn.jp」は「日本鯖」を名乗っており、サーバー名にも「.jp」と入っているため、確かに日本のサーバーではある。だがその実態は、2017年頃、ちょうどツイッターで「凍結祭り」が起こり始めた頃に、主に「ツイッターを追い出された人々」が集まって形成されたコミュニティであったために、若干過激な思想を持った人々や四六時中猥談で盛り上がる人々が多く集っているサーバーである。
そのローカルタイムラインは新宿歌舞伎町のような繁華街や渋谷ハチ公前のように大変混沌としており、罵詈雑言、過激な内容の猥談、不謹慎な内容の投稿、同一内容の投稿の連投などの行為が後を絶たない。特にインターネット文化を覚えたばかりの中高生のようなユーザーが目につく。
この混沌とした様を楽しむユーザーや、ホームタイムラインをメインに利用するユーザーもしばしば見受けられるが、mstdn.jpのローカルタイムラインで見られる光景は基本的に罵詈雑言や過激な猥談の連続なのである。この様子ではmstdn.jpのローカルタイムラインを見た人々が「マストドンは居心地が悪い」「マストドンは危ない所」と書く気持ちは筆者も理解できる。

だが、マストドンないしフェディバースは宇宙のように広大な世界である。宇宙船に乗り辿り着いた星が罵詈雑言で溢れている様子だけ見て、宇宙全体を貶す真似がどうしてできようか。
マストドンにはmstdn.jp以外にも、星の数ほどのサーバーが存在する。それをmstdn.jpの様子をただ見ただけで他のサーバーも含めて貶すような書き方で評価を下すことは、マストドンの基本構造を理解していないどころか、他のサーバーの管理者やユーザーに対して大変失礼な行為であるといえよう。
mstdn.jpを見ただけでマストドンの全てを理解したつもりにならないでいただきたい。

マストドンはマストドンの中で能動的に動ける人が一番楽しめる

マストドンにやってくる新規ユーザーがよく口にするのが、「知り合いが居ない」「誰をフォローしたらいいか分からない」という不平だ。先程の記事でmstdn.jpにアカウントを作ったブロガーも、「おすすめユーザー」を紹介されても「知り合いが居ない」とスルーし誰もフォローしていなかった。

これがツイッターなどの他のSNSではどうだろうか。大抵は、まず自分自身が興味関心のある分野を選択し、それに関する企業や著名人の公式アカウントをフォローする、という流れになっていることが多いはずだ。あるいはハッシュタグ検索などから関心のある投稿を見つけ、その投稿主をフォローする、という流れが一般的であることが多いはずだ。

だがマストドンではそうはいかない。何故なら「チュートリアル」にあたる入門部分は登録後の「おすすめユーザーの紹介」のみで、しかもいきなり見ず知らずのユーザーを提示されるため、初心者が気軽に既存ユーザーをフォローしづらいこと、またハッシュタグを積極的に活用しているユーザーも現状多くないため、ハッシュタグ検索があまり役立っていない現状がある。
つまりマストドンでは、知り合いゼロ人の状態から知り合いを増やす事が難しいのである。

マストドンの利用方法自体も既存のSNSとは異なる点がある。
ICT総研が行ったSNSの利用に関する調査では、ネットユーザーに占めるLINE(ライン)の利用率は79.5%、YouTube(ユーチューブ)が62.0%、ツイッターが55.9%、またSNS利用者のうち44%が「情報収集」、37.1%が「知人同士の近況報告」であるという調査報告が上がっている(2022年、ICT総研調べ)。

この調査結果から、ツイッターやユーチューブなどの媒体を通して情報収集を行う、というのが一般的なSNSの利用方法であるという解釈が出来る。確かにツイッターには企業や著名人の公式アカウント、様々な情報を発信するインフルエンサーのアカウントが多く存在し、またユーチューブも様々なチャンネルが様々な動画を投稿し、多くの情報を得るには十分適した場所と言えるだろう。

ではマストドンではどうだろう。
公式アカウントらしき存在は現状殆ど見当たらず、せいぜいNHKニュースやソーシャルゲームの告知アカウントなどの非公式転載botや、特務機関NERVが自前のサーバーを立ち上げて情報発信を行っている程度の「情報」しか流れてこない。

つまりマストドンで自分に見合ったサーバーにアカウントを作っても、有益な情報発信を行う公的なアカウントが殆どない事に加え、ハッシュタグ検索が殆ど機能していないことやおすすめ情報の表示がないこともあり、マストドンでの情報収集はかなりやりにくいのである。

知り合いが増やしにくく、かつ情報収集にも向かない。このようなSNSで出来ることはただ一つ。「自分から能動的に何か発信すること」しかないのである。
今までのSNSはおすすめユーザーのリストから受動的にフォローし、受動的に情報を受信する事が定番の使い方だった。しかしおすすめユーザーが殆ど見ず知らずの人間で、なおかつ受信できる情報がないとなると、自分からアクションを起こして既存のユーザーからリアクションを得る、という方法でしかフォロワーを増やすことは出来ない。

もちろん滝のように流れるローカルタイムラインをただ眺め、そこからフォロー対象を探し、そこから他のサーバーを知り、そのサーバーにアカウントを作るという方法もあるが、mstdn.jpのように混沌としたサーバーだと精神衛生上難しいというユーザーも居ることだろう。
だが、他に気になるサーバーを探そうにも、「マストドンおすすめサーバー」といった内容の記事や紹介サイトは現状少なく、あっても情報が古いことが多い。筆者もnoteで同様の記事を書いたものの、5つしか取り上げることが出来なかった。
また、「joinmastodon」というマストドン公式のサーバー検索サイトがあるのだが、このサイトに掲載されているサーバーは、一定の条件を満たして掲載申請を行ったサーバーのみであるため、希望のサーバーを見つけにくいという欠点がある。

この状況における考えうる現状でのサーバー選択やユーザー探しの手段は以下のようになると考えられる。ただし、既に登録先のサーバーが決まっている場合などはこの限りではない。

  • 「joinmastodon」掲載のサーバーに登録する。

  • のえる氏運営のマストドンサーバー「fedibird.com」に登録し、サーバー探しやフォロー対象のユーザーを探す拠点として利用する。

  • くろりんご氏運営のマストドンサーバー「mastodon-japan.net」に登録し、サーバー探しやフォロー対象のユーザーを探す拠点として利用する。

  • Sujiyan氏運営のマストドンサーバー「mstdn.jp」に登録し、カオスなローカルタイムラインに耐えながら他のサーバーやフォローしたいユーザーを探す。

  • 既に自分に合ったサーバーに属している知人から、マストドンの招待コードを受け取る。

マストドンの招待コードはブラウザの設定画面を開き、「新規ユーザーの招待」という項目から生成し共有することが出来る。知人やフォロワーにマストドンを勧めたい時に有効活用することができ、また招待した知人をフォローする際に、ユーザー検索の手間を省くことも出来るので大変便利である。

能動的にアクションを起こせない人には、残念ながらマストドンは全く面白くないだろう。そういった人は潔くツイッターを使い続ける事をおすすめする。あるいはTikTok(ティックトック)やInstagram(インスタグラム)という選択肢もある。
ツイッターなどの他のSNSからの移行先が本当にマストドンでよいかどうか、本稿を読んでよく考えてからマストドンを始めることを筆者は推奨する。

あとがき

マストドンは既存のSNSとは似て非なる事がお分かりいただけただろうか。所々厳しい文体で記したが、筆者としては、トレンドに乗せられて生半可な気持ちでマストドンを始めてしまい痛い目に遭うユーザーが少しでも減ることを期待して本稿を執筆した次第である。

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