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THIS IS IT 〜マイケル・ジャクソン、最期の勇姿〜

2009年6月25日、KING OF POP、マイケル・ジャクソンは急性プロポフォール中毒により帰らぬ人となった。このニュースが速報として報じられるや否や、Googleのサーバーはダウンし、全世界が衝撃と悲しみに包まれた。彼が長いブランクを経て、ロンドンのO2アリーナにて開催する予定だった「完全復活」にして「最後」のコンサート、「THIS IS IT」は全公演中止。このコンサートの完成形を楽しむことは永遠に叶わなくなってしまった。
同年10月28日、ケニー・オルテガをはじめとした、「THIS IS IT」コンサートを作り上げていたスタッフ、チームの手により、リハーサル映像をセットリストの順番に詰め合わせたドキュメンタリー映画が「THIS IS IT」として全世界に同時公開された。様々なスキャンダルや偏見報道に苦しみながらも彼が選んだのは、「再びステージに立つこと」。このドキュメンタリー映画には、ただひたすらに自分自身の音楽を追求し、ファン、そして世界平和のために歌い踊るマイケルの「本当の姿」が映し出されていた。この記事では、THIS IS ITのDVDが掠れて映像が飛び飛びになるくらい見まくった私の感想を曲ごとに書き連ねていく。

1.誰も見たことのない「本当のマイケル」

この映画を見ていると、ドキュメンタリーというよりも「マイケルのコンサート」そのものを見ているような気分になる。晩年飛び交ったスキャンダラスな噂話、死に関する陰謀論、御涙頂戴のトークなどは一切抜きに、ただマイケルが歌い踊り、自分自身のコンサートを最高のものにしようとチーム一丸となってリハーサルに励む「本当のマイケル」の姿が描かれる。

オーディションに参加する、若きバックダンサー達のマイケルに対する熱い想いを納めた映像から本編はスタートし、一曲目の「Wanna Be Startin' Somethin'」から、一気に彼の世界に引きずり込まれる。リハーサルとはいえ、アドリブを含めたダンス、そして衰えを知らない歌声でリハーサルを進めるマイケル。
アルバム「Dangerous」収録のヒットナンバー、「JAM」、人種差別に対する思いを歌った「They Don't Care About Us」など、過去のツアーで観客を熱狂させた名曲が続く。「TDCAU」の映像は、無くなる二日前の映像として既に世に知れ渡っていたが、半端じゃないエナジーが感じられるマイケルの姿がそこにはあった。

They Don't Care About Usの本編映像。

2.シンガー、ダンサーのプロフェッショナルとして

この映画を見ていて何度も鳥肌が立つのは、4曲目の「Human Nature」、5曲目の「Smooth Criminal」の映像だ。前者では、バンドに細かく指示を出すプロフェッショナルなマイケルの貴重な姿が垣間見れる。そして注目すべきはその歌声。過去のツアーで何度も披露されてきた人気曲だが、「THIS IS IT」でのこの曲のパフォーマンスは最高到達点に達したと感じた。全盛期の歌声と全く引けを取らない、寧ろ繊細さが増して曲のムードをより一層高みへ押し上げているように感じられた。パープルのスポットライトに照らされ、曲の世界に没入していくマイケルの姿は、過去のツアーの映像でも見たことのない、まさに「シンガーのプロフェッショナル」に相応しい姿だった。

後者は、このツアーのために撮り直されたギャング映画風の白黒のドラマから始まる。「Moonwalker」初出のSFとは全く違う世界観が展開され、まさに「Smooth Criminal」なマイケルの姿が最高にクールだ。NYのド派手な夜景をバックに曲はスタート。ツアーで何度も見せてきたダンスを披露していく。リハーサルというだけあって、リラックスした様子で踊るマイケルだが、若いバックダンサーを引き連れる姿は全盛期に匹敵するインパクトを感じられた。驚異的パフォーマンス「ゼロ・グラビティ」の披露はなかったものの、このツアーのために用意された全く新しい「スムクリ」の物語、世界観、ダンスは何度見ても興奮してしまう。

6曲目「BAD」からの人気曲「The Way You Make Me Feel」の映像では、キーボードやダンサーに細かく指示をし、メロウにアレンジされたパフォーマンスの完成度を極限まで追い求めるマイケルの「プロ」としての姿勢が垣間見れる、とても貴重な映像となっている。

私の大好きな「Human Nature」の映像。50歳になってもここまでのファルセットを出せるのがすごい。演出もムーディ。

3.あの頃の名曲

映画も中盤に差し掛かると、マイケルのライブではお馴染みの「Jackson5 medley」が始まる。「I Want You Back」の軽快なダンスが印象に残るこの映像の中には、使用機材にダメだしするマイケルの貴重な姿が収められている。「怒ってないよ、これは愛なんだ。」という一言はファンなら「マイケルらしいな〜」と感じるだろう。マイケルは常に周囲の気配りを忘れない最高の仕事人なのだ。
「The Love Your Save」では、笑顔で楽しそうにダンスするマイケルの姿が見れる。そして名曲「I'll Be There」を美しい声で歌い上げ、メドレーを〆る。子供の頃から歌ってきただけあって、50歳のマイケルが歌う「I'll Be There」は感極まるものがあった。

このライブのインタールードとして、Jacksons時代の名曲「Shake Your Body」が披露される。この曲では若き才能あふれるバックダンサーたちが思い思いにダンスを披露し、ダイナミックで迫力あるパフォーマンスを楽しむことができる。

そして、11曲目に披露された名曲「Can't Stop Loving You」では、才能あふれる女性シンガー、ジュディス・ヒルとのデュエットが見どころだ。美しい歌声とシャウトを楽しむことができ、リハーサルとは思えない力強いマイケルの姿が見られる。

Jackson 5 Medleyでのワンカット。

4.最新技術を駆使した「エンターテイメント」

12曲目では、知らない人を探す方が難しいであろう伝説的名曲「Thriller」が披露される。今回の「Thriller」は、3D技術を駆使した、エンターテイメント性の溢れる仕上がりとなっている。巨大な蜘蛛から登場し、世界中を踊らせたゾンビダンスを披露するマイケル。そして曲のアウトロには、アルバム「Invincible」収録の「Threatened」が流れ、スリリングに終わっていく。

続くロックナンバー「Beat It」では、お馴染みのゴンドラに乗り込み、このツアーの総指揮を務めるケニー・オルテガとの何気ないやりとりが交わされる。曲が始まり、マイケルがシャウトし、ダンスが披露されていく。すこしキーを落とした「Beat It」も、哀愁漂うものがある。

「Thriller」でのワンカット。このコンサートでは、「Thriller」に限らず、様々な曲で特殊効果が使用される予定だった。

5.新たな才能との共演、新たな問題へ立ち向かう姿


オリアンティとマイケル。

「肌の色なんて大した問題じゃない」と歌うヒットナンバー「Black Or White」では、新たに招いた当時若手のギタリスト、オリアンティ・パナガリスとの共演が見どころだ。「君が輝く番だ。」とオリアンティにギターのキーを指示するマイケル。彼のシャウトとギターの演奏で曲の盛り上がりは最高潮に達する。「その存在感に驚いた。」と本編のインタビューで語るオリアンティ。若き才能を発掘し、導く姿はこの映画でしか見られない貴重なシーンだ。
映画も終盤に差し掛かり、「HIStory」収録のナンバー「Earth Song」が披露される。過去のツアーではステージ上に戦車が登場し、それを制止するマイケルが印象的なパフォーマンスだったが、今回は曲のテーマに沿って、「環境破壊に立ち向かう」姿が演出される。大自然と触れ合い楽しむ少女と、その自然を破壊する巨大ブルドーザーが映された映像と共にシャウトするマイケル。マイケルはこの映画の終盤で「環境破壊を止めよう」とチームに語りかけており、自分自身がどんな目に合おうとも、今地球で起こっている問題に必死に立ち向かう彼の勇姿が印象的に映し出されている。

6.「THIS IS IT」

映画も終盤。ここでマイケル最大のヒットナンバー、「Billie Jean」が披露される。一度聞いたら耳から離れないビートと共に、お馴染みのダンスを披露していくマイケル。終盤のダンスパートでは、これまでのツアーやコンサートで見たことのないアドリブ満載のダンスが繰り広げられ、見ていたスタッフ、ダンサーは熱狂する。何歳になっても若い世代をここまで熱狂させることができるのは、マイケルだけなんだろうなあと改めて感じた。
そして、この映画を締めくくる最後の一曲は「Man In The Mirror」。「鏡の前にいる自分から変えていこう」というメッセージ性溢れるこの曲は、マイケル最後のステージを締めくくるにふさわしい名曲だ。「Stand Up」とシャウトし、天を仰ぐマイケル。彼の熱い想いのこもったパフォーマンスだ。
「Love Lives Forever.」、マイケルのメッセージと共に映画は締め括られる。最後のMan In The Mirrorで何度涙したかわからない。波瀾万丈ではあったけども、今尚輝き続ける彼の最期の姿がそこにはあったからだ。

7.「THIS IS IT」のマイケルを振り返って

リハーサル映像を詰め合わせた映画ではあるが、その満足度、没入感は彼のライブ映像を見ている時と何ら変わらなかった。50歳を迎え、新たにエンターテイメントの世界へ走り出すマイケルの姿は、希望に満ちており、この映画の中に悲壮的な、あるいはスキャンダラスなカットはどこにもない。
晩年、冤罪裁判や白斑病による容姿の変化、ソニーとの確執、借金問題など、暗い話題が絶えなかったマイケル。世間が彼を傷つけるたびにマイケルは薬物に依存し、最悪の結果を招いてしまった。実際映像を見ていても、全盛期の頃と比べ痩せ細ってしまったマイケルがいた。この状態で本当に何公演もライブができたのだろうか、やり遂げられたのだろうか、そんな考え事が浮かぶ時もある。しかし、この映画はそれ以上にマイケルの音楽に対する情熱、そして世界中のファンに対する愛が映し出されている。マイケル・ジャクソンという世界最高のアーティストの貴重な姿と、その世界を存分に楽しむという点で、この映画はこれ以上無い役割を果たしていると感じた。
マイケルを知らない世代も増えてきている中、語り継ぐべき映像作品の一つであることに間違いない。


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