KOI……?




夏が終わりを告げると、秋の虫が一斉に鳴き出す。鈴虫やコオロギの鳴き声。涼しい気持ちにさせてくれる。そんな夏の終わりに嵐がやってきた。


「ミカ」
「は?」
「この子はミカ。あとよろしくね。」
「「はぁ~????!!!!」」


俺の姉が突然来て、娘を置いていったのだ。名前はミカ。女子高生。
どうしてこうなってしまったのか……
「お母さん、最近忙しそうに動いてて、お父さんは帰ってこなくなったし……」
「そうか…」
「いつのまにかおじさんの家に行くことになってた」
「ふうん」
彼女はテレビを見ながら話をする。姉は最近忙しかった。そんな中でも仕事も家事もと両立していたが、ついに育児ができないくらい忙しくなった。

だから俺のところにって言われてもだ。困るだろうが!!相手は女子高生で何かあったら、変態呼ばわりするような時代だぞ?!だめだろ!おじさんと一つ屋根の下は!だめだめだろ!俺がガクブルと震えていると……
「大丈夫だよ?何もしないし」
「それはこっちのセリフだ!」
俺が不安になっているのに、この感じとは姉とまるきり同じだ。姉もよく大きく構えていた。どれだけ大物なのかわからないが……
「本当に親子だな」
「?」
彼女はよくわからないといった顔をして、再び視線をテレビに戻した。

彼女が俺の家に来て、1週間が経った。俺は『手のかからない子』という印象を受けていた。俺が仕事で遅くなってもただ何も言わずに待っていて、『ご飯、どうぞ』と言って用意してくれている。奥さんでもないのに、他人のご飯を用意し、さらに他人の衣服をたたんでくれている。『母?!』とさえ思ってしまうが、違う違うと自己ツッコミが入り、収まる。
前に俺の作ったご飯を一緒に食べている時に聞いたことがある。
「うまいか?」「うん」
「お前の母さんは料理得意?」「ううん」
「洗濯物もたたんだりするんだな」「うん」
「お前が家のことやってたの?」「ううん、全部は……」
「そうか、ちゃんと姉ちゃんもやってたんだな」「うん」
「二人でいるんだもんな」「うん」
「お父さん、どこいったんだろうな」「さぁ、知りたくない」
「お母さんは探してると思うか?」「知りたくない」
そういうと俯いて、重たそうにしていた。少なくともこの子は、、ミカは、苦労をしていたんだろう。母と二人、苦労せざるを得ない状況だったんだろう。そして父親は、ろくでもないやつだったのかと思う。そのままひと月が過ぎていった。

相変わらず姉からの連絡はなく、ミカを預かっている。生活費は姉から送られてくるため、困らないが……
「いつまでかかるんだろうな~」「そうだね」
スーパーに食材を買いに来た時、ふとそう呟いた。それに彼女が返事をした。ただの呟きだったのに拾ってくれたから、それは話に変わった。
………きゅん……ここでかっ!?
俺ぇぇええええええええええええ!!!!!!!!こんなところで!!!
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
しかも人の娘に恋をしてどうするんだ!と自問自答。そんなことはつゆ知らず、彼女は買い物を進めていく。それからというもの、好きな人が家にいることが嬉しくなり、早く家に帰るよう心掛けたり、ミカにうるさいと思われるほど、鍵を閉めておけと言ったり、今まで以上にミカを大切にするようになった。

「ねぇ、なんでうるさくなったの?」
「あ?あぁ……」
好きだからだよって言えたらいっているけれど、言えない。そのため、
「あぁ、最近物騒だしな!気をつけるに越したことないだろ?」
「おじさんは、なんで結婚してないの?」
「そこは……今ツッコむところなのか?」
「うん」
姉も脈絡なくツッコんでいくのが得意だった。本当に似ているな……と半ば諦めながら、話を切り出す。
「結婚してないのは、好きな人がいないからだ。付き合っている奴もいない。だからお前を家に置いておける。それだけだ」
「私は……「RURURURURU……」」
突然、携帯電話が鳴り出した。着信相手はもちろん……
「姉ちゃん!遅いぞ!」
『ごめんなさい。お父さん探してて、こんなに……』
「そんなろくでもないやつより、ミカの方だろうが!」
『あなたにろくでもないと言われる筋合いはないわ!ミカを迎えにいくから!』
「それはそうだろうけれどな!姉ちゃんのことも、ミカのことも捨てた「『捨ててない」わよ』……は?」
ミカからも姉からも聞こえたその言葉に俺は、?を浮かべた。
捨ててない?どういうことだ?詳しい経緯を聞くと……
ミカの父、文達は、真面目で優しい男だそうだ。今回、ミカが大学へ行くかもしれないと先走って考え、仕事を探していたところ、まぐろ漁なる危ないものを見つけたらしい。文達は急いで登録し、まぐろ漁へと意気揚々と出た。がそれはやはり思っていたものではなく、ブラック企業 『MA黒(ま・ぐろ)』に派遣登録をしたということだったらしい。文達は家族に迷惑は、かけられないと一人、出ていったそうだ。それを心配して母である姉は、文達を探していたと言う話らしい。文達の方は、無事に解放されたと言うことであった。
「だから、ミカを迎えに行くわね」
姉はそれだけいうとブチっと電話を切った。
「本当にブチ切りは得意だな」と悪態をついていたところにミカが近づく。
「本当に大吾には好きな人いないの?」
「は?」
「好きな人がいないなら、私を好きになってくれない?」
「え?」
「私、大吾が好きなの」
「はぁああああああああああああ?!!!!!!!!!!!!」
大きな声が出た。

「ミカ~!!!心配したぞ!」
俺は電話で姉が迎えに来ると聞いたんだけれど……!父親が登場するとは思わなかった。姉ならば聞いてくれたかもしれないが、父親はどうなのかわからないじゃないか!しかしケジメはつけなければならない……。
「あ~……「ミカが大変お世話になりました!」」
「え、いや、あ~……全然」
「本当にお世話になりました!」
「す、すみません。私、ミカさんと「付き合ってる」」
「え?」「付き合ってるの。大吾と」
「大吾?って彼?」
そう聞きながら、俺を指差す。「うん」とミカが頷いた。
「すみません!!!」
俺は平謝り、というか土下座に入る。父親は当然ながらどうしてこうなったのかと経緯の説明を求めてくる。全てを事細かに話すと、ミカが
「私は、大吾と幸せになりたいの。認めて欲しいの」
「こんな親父のどこがいいんだ!」
溺愛している愛娘がいきなり彼氏を連れてきたとあっては父親もそうなるな。と思いながら、大変申し訳ありませんと土下座したままでいる。
「親父かもしれないけれど、私のことこんなに大事にしてくれようとしてくれたのは、大吾が初めてなの。だからお願いします。」
そういうとミカも一緒に土下座をする。綺麗な所作で土下座を……。
「ミカを幸せにできるんですか?」
俺は、土下座をしたまま……「します」と言った。
「ミカは誰より大切ですか?」
「はい」
「私はあなたにミカを預けたくありません」
「わかります。おじさんですし、本当にそうです。それでも彼女を大事にしたいと思っています」
ミカの父、文達は何も言わない。俺はそのまま続ける。
「彼女は、こんなに年の離れた私を好きになってくれました。ミカを人一倍大事にします!約束します!」
「そんなの当たり前です!」
文達は泣いていた。ミカを幸せにしてくださいと言い、ミカには初めての彼氏おめでとうと言葉をかけていた。
そのあと、ミカを俺に任せて一人帰っていった。
「あぁ、これからよろしくな」
「うん、大吾」
「ミカ、えっとな、俺、バイなんだ」「そう」
「そうって!そこは驚くところだろう!」「で?」
「女も好きになるけれど、男も好きになるぞ?いいのか?」
「ライバルがいっぱいってこと?」
「いや、ま、ううん……」
否定できないことが悔しい。
「いいよ、ライバルがいっぱいでも。大吾が人一倍大事にするっていってくれたの信じてるから」
……きゅん
また胸が……!!
「ありがとう……」
「これからよろしくね」
「こちらこそ、お願いします」
互いに深々と頭を下げた。

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