見出し画像

頸部の張り感と呼吸がしづらい症例(後半)

以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。

前半のあらすじ

幼少の頃に小児喘息を患った。

日頃から頸部前面に張ったような違和感がある。

部位は、胸鎖乳突筋当たりで、伸展・屈曲肢位で張り感は強くなる。

伸展位


屈曲位

また、カラオケで歌う時、声が続かず息切れがしてしまう。

観察では、胸椎が後弯して頭部が前方に突き出した肢位であった。

これは胸鎖乳突筋の緊張から起こる肢位であり、頸椎の安定化のための対応と考えた。

アプローチは、C2をまたいで頸部前面を走行する筋は頭長筋の強化である。

そこで、顎引き運動を行わせると、十分に顎が引けなかった。

そこでROMとして、顎引き運動とロールタオルによる可動域拡大を行なった。

イメージ
矢印はロールタオル

結果は、頸部前面の張り感は消失した。


ここで、別の要因もあると考えた。

後半

Q)それは?

A)症例は硬いものを噛むのが苦手である。

また、顎関節を見ると、顎が小さく、咀嚼筋である咬筋や側頭筋も触診で少なく感じた。


ここで、顎関節と気管につながる筋に咽頭収縮筋がある。

咽頭収縮筋は咽頭や食道の開閉に直接・間接で関わる。


Richard L.Drake 他著 塩田浩平 他訳:グレイ解剖学 原著 第2版 より引用


上咽頭収縮筋は下顎に付着している。

顎関節に作用する筋が低下することで、それを補おうと咽頭収縮筋の緊張が高まり、呼吸に影響を与えるのではないかと考えた。

そこで、下顎の動きを調べた。

Q)状態は?

A)下顎のすべての動きで可動域が少なかった。

右移動


左移動


前方移動


後方移動


Q)可動域が少ない原因は?

A)症例の咬筋は小さかった。

よって、下顎を下げる筋力も弱いのではないかと考えた。

筋としては、外側翼突筋下頭と舌骨筋である。

そこで、試しに、外側翼突筋と舌骨筋の強化を実施した。

Q)方法は?

A)開口に対して抵抗運動を5分間行った。


Q)結果は?

A)顎関節の可動域は拡大した。

下顎の動き)
          前            後

右移動


左移動


前方移動


後方移動


Q)頸部の症状は?


A)頸部の張り感に変化はなかった。

そして、 頸部アプローチに比べて頭部の前方突出は大きくなった。

頸部アプローチ後     顎関節アプローチ後


Q)なぜ?

A)下図のように頭部の前方突出は、胸鎖乳突筋の緊張で起こる。
舌骨筋は伸張された状態にある。

内田学 編集:姿勢から介入する摂食嚥下 脳卒中患者のリハビリテーション より引用


収縮させた筋は舌骨筋であった。

よって、舌骨筋が直接関与したというよりも、舌骨筋の収縮による顎引き様の収縮が影響したと考える。

Donald A.Neumann 原著 嶋田 智明 他監訳:筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版 より引用


Q)しかし、前回の結果では、顎引き運動で頸部の張りがなくなり、頭部の前方突出も軽減したが?

頸部アプローチ)

前              後


A)頭長筋は頸椎の前方を走行して、頸椎の各椎体に直接働く。

舌骨筋は頸椎より遠位にあり、頸椎の安定化が目的ではない。

そのため、収縮により、頸椎の過可動な箇所に、元々のアライメントと逆方向の剪断の力がかかり、それを押さえようと胸鎖乳突筋が緊張した可能性がある。

     元々のアライメント     顎関節アプローチでのストレス方向

Donald A.Neumann 原著 嶋田 智明 他監訳:筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版 より引用


実際、頸部アプローチ後に比べて、顎関節アプローチ後では、胸鎖乳突筋の膨隆が目で確認できる。

 頸部アプローチ後       顎関節アプローチ後


以下は推論であるが

症例の頸部の症状は、かなり前からである。

症例は、小児喘息を患っていたことから、咽頭収縮筋や気道の開閉を操作する咽頭軟口蓋があるが、これは、舌骨筋群と関係する。


喘息により、それら筋群が緊張し、上述した頸部の剪断に対して、胸鎖乳突筋で対応しようとした。

また、喘息による努力性呼吸も胸鎖乳突筋の活動を高め、使いやすくさせた。

その後、喘息は治まるが、頸椎安定化を胸鎖乳突筋を中心に行なうようになり、頭部の前方突出した肢位になった。


その肢位により、上位頸椎の剪断によるすべりが生じた。

Donald A.Neumann 原著 嶋田 智明 他監訳:筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版 より引用


そして気道を狭めた。

内田学 編集:姿勢から介入する摂食嚥下 脳卒中患者のリハビリテーション より引用


舌骨筋群の使用は、胸鎖乳突筋の作用による頭部突出を助長してしまい、症状悪化につながる。

   最初         頸部アプローチ後      顎関節アプローチ後


そこで、舌骨筋群の使用を押さえることで、開口などの下顎の動きを少なくさせた。

開口の動きが少ないため、1回に入れる食べ物の量や噛む量が少なくなり、咬筋群も減った。

以上から、頸部のアプローチである頭長筋の収縮と、上位頸椎のROMを継続した方がよいとする結果に至った。

Q)ちなみに、頸部のアプローチ前後で、座位のアライメントが変化したのは?

前             後


A)頸椎の安定化を頭長筋の緊張で賄えたので、胸鎖乳突筋の緊張を高める必要がなくなり、胸鎖乳突筋が伸張された肢位になった。

その証拠に、頭長筋の収縮を促す前で胸鎖乳突筋の膨隆が目で確認できるが、アプローチ後では膨隆が少ない。

前             後


ex前は、胸鎖乳突筋の緊張により、頭部を前方突出させられた肢位から座位バランスを取るために、胸椎を後弯させた。

ex後では、頭長筋の緊張により胸鎖乳突筋の使用が減り、頭部の前方突出が減ったため、それとの座位バランスをとる胸椎後弯も減った。

前             後


最後に、余談であるが、頭部の位置で胸椎の後弯が変化することから、座位における重心線の位置は決まっている可能性がある。

胸椎の後弯が変化するので、腰椎のアライメントも変化し、骨盤の肢位も変わる。

よって要因として、座面に接する大腿や殿部が関係しているのではないか?と思われる。


最後までお読み頂きましてありがとうございます。









いいなと思ったら応援しよう!