息子が風邪になった

「お母さんもう出かけるから、何かあったらLINEしてね。帰るのは9時過ぎになると思うから、お腹空いたらテーブルのご飯をチンして食べてね。食後の薬も忘れずに」
 小2の息子が風邪を引いて3日。まだ咳は出ているけど、熱も下がってるし、明後日には完治していると思う。
 多少心配ではあるけど、本人は元気そうだし、仕事もあるので今日は一人で過ごしてもらうことにする。
「ねぇお母さん?」
 息子がそう呼び止めるので、母は駆け寄り、「どうしたの?」と聞き返す。少し寂しそうな様子の息子に、母は何かお菓子でも買ってきてあげようと考える。
「何かいる?」
 母の問いかけに、息子はコクリと頷いた。
「じゃあ、ゼリーでも買ってきてあげるね。」
 そうして息子の頭を撫でた後、咳き込む息子を後に家を出る。換気はした方がいいと思いつつも、一人では心配なので、戸締りをしっかりと確認し、母は仕事へ向かうのだった。

 今日は仕事が忙しく、時計はすでに9時をさしていた。買い物をしていけば、帰宅は10時前になるだろう。
 あいにく息子の夕飯は用意していたので、お土産だけ買って帰宅する。
 家のドアに手をやると、鍵がしまっていないことを確認する。得体の知れない悪寒が背筋を走る。私は一人息子のシングルマザーなので、家の鍵が開いているなんて、息子が開けたか、或いは……それ以外考えられない。
 おそるおそるドアを開けると、テレビの明かりだけがリビングを照らしている。
 そこに息子の姿はなかった。
 買い物袋を床に放り、家中をくまなく探すが、息子の姿は見当たらない。寝室も、浴室も、トイレにさえも。
 全身で冷や汗をかきながら、外を探し回る。
 どうして?どうして?遊びに行ったにしても、こんな時間まで帰らないなんて考えられない。
 人気のない住宅街を走り回るが、息子の気配などなかった。
 疲労で電柱に寄りかかっていると、携帯に一通の不在着信があったことに気がつく。仕事中で出られなかった息子からの着信だ。
 メッセージではなく、通話。なぜ?そう思いながら、一筋の願いを込めて、折り返しの電話をする。

 『お母さん、何か…いる。』

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